BLです。ご注意ください。
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【どんなに離れていても】
初めて対峙したはずの勇者に、玉座の魔王が言った。
「ずっとお前を待っていた」
魔王は鮮やかな赤色の目を細め、愛しい者を見るかのようにうっとりと微笑んでいた。
「今のお前は光。私は闇。我々の存在は互いに遠いところにある」
「……なんの話だ」
勇者は聖剣を構えて青い目で魔王を睨んだ。
「我々は惹かれ合うという話だ」
魔王がゆらりと玉座から立ち上がった。
「どんなに離れていても、私にはお前が、お前には私が、唯一無二なのだ。そうだろう?」
魔王は笑って、腕を広げた。まるで抱擁を待つかのように。
「私を殺せるのはお前だけ。しかし、お前を殺せるのも私だけのはずだ。人の理を超えた哀れな者よ。女神も『愛し子』などと言いながら随分と残酷なことをする」
勇者が何を考えたのか。聖剣の切先が微かに震えた。すぐに仲間から「魔王の話など聞いてはいけない!」と檄が飛ぶ。
「私を殺せ、勇者。もう生きるのも飽いた」
勇者が聖剣を構え直す。
「いいだろう。その願い叶えてやる」
聖剣が無抵抗な魔王の胸を刺し貫いた。腰に届くほどの長さがある魔王の銀髪が血に濡れる。
虚ろな目をした魔王が呟いた。
「また会おう、半身よ……」
勇者はその後二百年生きて、次の魔王となった。その魔王と相討ちになった新しい勇者は、銀髪に赤い目をしていた。
「……と、いう記憶があるのだが」
幼馴染にとんでもないことを言われて、僕はぱちぱちと瞬きした。
確かに僕は銀髪で目が赤いし、幼馴染の目はきれいな青だ。
「僕と君が、勇者と魔王を繰り返しているって言うの?」
「違う。繰り返して『いた』んだ。過去形だよ」
意味がわからなくて、僕は首を傾げた。
「やっと同じ年代に、こんなに近くに転生できた。俺はお前が魔王になるなんて許さないし、お前が居てくれるなら魔王になんかならない」
だから一緒に居てくれと幼馴染は言う。
それはなんだかとても情熱的な愛の告白のように聞こえて、僕は真っ赤になって頷いた。
4/26/2025, 11:56:50 AM