るね

Open App
4/26/2025, 11:56:50 AM

BLです。ご注意ください。
──────────────────

【どんなに離れていても】





 初めて対峙したはずの勇者に、玉座の魔王が言った。
「ずっとお前を待っていた」
 魔王は鮮やかな赤色の目を細め、愛しい者を見るかのようにうっとりと微笑んでいた。

「今のお前は光。私は闇。我々の存在は互いに遠いところにある」
「……なんの話だ」
 勇者は聖剣を構えて青い目で魔王を睨んだ。

「我々は惹かれ合うという話だ」
 魔王がゆらりと玉座から立ち上がった。
「どんなに離れていても、私にはお前が、お前には私が、唯一無二なのだ。そうだろう?」

 魔王は笑って、腕を広げた。まるで抱擁を待つかのように。
「私を殺せるのはお前だけ。しかし、お前を殺せるのも私だけのはずだ。人の理を超えた哀れな者よ。女神も『愛し子』などと言いながら随分と残酷なことをする」

 勇者が何を考えたのか。聖剣の切先が微かに震えた。すぐに仲間から「魔王の話など聞いてはいけない!」と檄が飛ぶ。

「私を殺せ、勇者。もう生きるのも飽いた」
 勇者が聖剣を構え直す。
「いいだろう。その願い叶えてやる」
 聖剣が無抵抗な魔王の胸を刺し貫いた。腰に届くほどの長さがある魔王の銀髪が血に濡れる。

 虚ろな目をした魔王が呟いた。
「また会おう、半身よ……」

 勇者はその後二百年生きて、次の魔王となった。その魔王と相討ちになった新しい勇者は、銀髪に赤い目をしていた。








「……と、いう記憶があるのだが」
 幼馴染にとんでもないことを言われて、僕はぱちぱちと瞬きした。

 確かに僕は銀髪で目が赤いし、幼馴染の目はきれいな青だ。
「僕と君が、勇者と魔王を繰り返しているって言うの?」

「違う。繰り返して『いた』んだ。過去形だよ」
 意味がわからなくて、僕は首を傾げた。
「やっと同じ年代に、こんなに近くに転生できた。俺はお前が魔王になるなんて許さないし、お前が居てくれるなら魔王になんかならない」

 だから一緒に居てくれと幼馴染は言う。
 それはなんだかとても情熱的な愛の告白のように聞こえて、僕は真っ赤になって頷いた。



4/25/2025, 10:29:44 AM

私はいつも『お題の文言をできるだけそのまま本文に一度以上入れる』という縛りで書いておりまして、今回はどうしてもこれくらいしか思いつきませんでした……!
今日のお題難しいです。

───────────────────

【「こっちに恋」「愛にきて」】





 待ち合わせの時間が迫っていた。私は寝坊した己を呪いながら、慌てて家を飛び出した。
 移動中、スマホから『ごめん、遅れる』と連絡を入れれば、友人からの返信は『早くこっちに恋』という……

 誤字は誰にでもある、仕方がないよな。そう思って一度は見逃した。目の前で電車のドアが閉まって、更に遅れることが確定し、もう一度詫びの連絡を入れると、今度の返信は『待ってるから愛にきて』だった。

『何それ。わざと?』
 新しい遊びかと尋ねれば、友人からは『あんまり急かしたくないから』『責められてる気がしなくていいでしょ』という返事。
『うん……確かに?』

 優しい友に感謝しつつ、でもまあ、イマイチ笑えないけどな、と思いながら。結局一時間近くも待たせてしまって。
「カフェで何か奢るから許して!」
 私はそう謝り倒したのだった。



4/24/2025, 11:11:54 AM

【巡り逢い】



 僕は不気味な子供だと思われていたらしい。最低限しか泣かず、子供らしくはしゃぐこともあまりなくて、大人の話にじっと聞き耳を立てて、癇癪もほぼ起こさず、異様に聞き分けが良いのだから、周りが何かおかしいと感じたのも仕方がないだろう。

 村の同年代の子供とは馴染むことができないまま僕は10歳になった。そしてたまたま村に立ち寄った薬師に声を掛けられた。

「君、もしここに居づらいなら、私の弟子になるかい?」
 僕はその言葉に頷いた。両親もあっさりと僕を手放した。大きくもない田舎の農家だ、四男の僕には継げるものもなくて、どうせいつかは村を出なきゃいけなかったんだ。

 この巡り逢いが僕の人生を大きく変えた。
 まさか師匠がただの薬師じゃなくて『戦う薬師』だとは思っていなかった。

 僕は回復薬の作り方よりも毒薬の調合を重点的に仕込まれた。弓矢の扱いを習い、投擲用のダガーを渡され、それに毒を塗り魔獣と戦った。

 同時に魔法の使い方も習った。元々、師匠が僕に声を掛けたのは僕の魔力が多かったかららしい。僕は魔法士としてもそこそこ優秀だと言われている。

 僕がかなりの大怪我をしても師匠が治してくれる。師匠の回復薬は効果がめちゃくちゃだった。僕が左腕を魔獣に喰い千切られた時も綺麗に治してしまった。それはありがたいことだったけど、治ればまた戦わなきゃならない。

 ある日師匠が「そろそろ良いかな」と呟いた。そして、僕を連れて国境を越えた。小さな国をひとつ横断して更に隣の国へ。

 その国の王都に着いてすぐ、師匠と僕は沢山の騎士に取り囲まれた。騎士の間からなんだか偉そうな人が出てきて、師匠を「賢者殿」と呼んだ。

「勝手に留守にされては困ります。あなたが不在のまま何年経ったと思っているんですか!」
「だって、宰相が言ったんでしょう。『隠居したいなら後継者を連れてこい』って」
「……そりゃあ、言いましたけど……」
 え。この偉そうな人、この国の宰相なの。

 わけがわからないまま僕は城に連れていかれた。師匠はこの国で賢者と呼ばれていた。王族の体調管理にも関わっていて、子爵の地位を持っていた。僕は師匠と養子縁組されていて、つまり、子爵の息子になっていた。

 僕は師匠と一緒にお屋敷に住むことになった。魔獣とは戦わなくなったけど、貴族としての礼儀作法を叩き込まれている。

「早く成人してくれよ。私はさっさと隠居したいんだ」
 師匠が微笑んで無茶なことを言う。
「成人したばかりのひよっこに『賢者』が務まるわけないでしょう!」
「君ならやれるよ」
「無理です!」

 今、宰相閣下と僕、それに魔法士団と騎士団の団長たちは、どうにかして師匠をこの国に留まらせようと知恵を絞っている。



4/23/2025, 10:15:23 PM

また長いです。1,400字ほどです。
──────────────────
【どこへ行こう】



 パン屋の息子が急に魔法の力に目覚めて火事から友人を助けた……それがすべての始まりだった。両親の店を継ぐ気でいた僕は、拉致されるように町から連れ出され、魔法学校に放り込まれた。ついでにいつの間にか貴族の養子にされていた。今の僕は伯爵家の子息らしい。

 魔法学校の生徒は貴族ばかりで、平民はほんの少ししかいなかった。でも、伯爵の養子である僕は彼らからも遠巻きにされて、仲の良い友達なんてできなかった。僕の魔力が飛び抜けて多く、魔法士として優秀だったから尚更だ。

 養父に無理を言って、長期休暇に一度生家のパン屋を訪ねた。両親も町の人たちも変わってしまった。僕を貴族として扱い、恐縮しながらぺこぺこと頭を下げた。ショックだった。泣きそうになりながら学校の寮に逃げ帰った。

 学校を卒業すると、僕には宮廷魔法士の地位が与えられた。国内に二人しかいない要職だ。本当に僕でいいのだろうか。
 王都を守るための結界を維持し、騎士団や他の魔法士たちの手に負えない事態になれば魔獣討伐の現場にも出る。城の片隅に部屋が用意されてそこで暮らした。

 ある日、僕の先輩の宮廷魔法士が怖いくらい真剣な顔をして僕の部屋にやってきた。そしていきなり物騒なことを聞いてきた。
「お前、人を殺したことはあるか」
「ありませんよ。なんですか、急に」

「戦争が始まる。宰相も他の大臣たちも止めたんだが、国王陛下は隣国の穀倉地帯を欲しがっている」
「それは……」
 間違いなく、僕たちは戦力として前線に出される。嫌だ。僕は元々なりたくてこんな立場になったわけじゃない。

 両親のパン屋に帰れなくなった時点で、僕にはこの国に対する思い入れも愛国心もなくなっていた。勝手に決められ、義務ばかり課せられ、誰も僕の意見なんて聞いてくれない。そんな状況で周りのために進んで何かをしてやろうなんて思えるものか。その上戦争だなんて、冗談じゃない。

 先輩が言った。
「俺と逃げないか」
「そんなの……無理ですよ」
 宮廷魔法士になった時に、国と契約を交わしている。この国のために力を使い、王には逆らわないという一方的で暴力的な契約だ。僕たちの体には契約紋が刻まれていて、許可なく王都を離れれば、首が絞まって息ができなくなるらしい。

「俺なら契約を解除できる」
「……本当に?」
「ああ。今まで隠していたけどな。どうする、俺と一緒に来るか?」
 僕ははっきりと頷いた。
「行きます!」

 僕の左の手の甲にあった契約紋を、先輩はあっさりと消してしまった。
 城には防御の結界があるけれど、自分たちで張っている結界だ。抜け出すのに支障は何もなかった。警備の騎士の目を盗んで、それが無理なら魔法で眠らせて、僕たちは城から抜け出した。

 王都から出るのは少し怖かった。契約が完全に切れていることを確認できた時には本当にホッとした。
 先輩が朗らかに笑って僕に聞く。
「これからどこへ行こう。お前はどこか行きたい場所があるか?」
「ええっと……海を見てみたいです」
 この国の南は海に面しているけれど、僕はまだ海を見たことがない。

「いいね。行こう」
「……行けますか?」
「行けるだろう。俺たちはもう自由だ。俺がお前を海まで案内してやるよ」
「でも。きっと、追手とか」
「俺たちは宮廷魔法士だったんだぞ? 個人としての戦力なら国内最大級だ。だから契約で縛られてたんだぜ」

 追手くらい追い払ってやると先輩が笑う。
「もう安心していい。だから、お前も笑えよ」
 僕は自分がもう何年もちゃんと笑っていなかったことに、やっと気付いた。




4/21/2025, 10:44:40 PM

BLです。長いです。BLが苦手な方は回避してください。すみません。
─────────────────

【ささやき】






「好きだよ、ルシアン」
 そうささやき、僕に抱きついてきた男の名はシリルという。侯爵家のご令息であり、怪我なんてさせられない相手であり、突き飛ばすことを躊躇した。

「やめてください。僕は男です」
「わかってる。でも、私は三男だし、この国の法律は同性婚を禁じていない」
「……それは、そうですが」

 シリルは令嬢たちが見惚れるような笑顔を僕に向け「私との縁談、考えてみてよ」と言ってから僕を解放した。
 そして実際、僕の家にシリルの実家の侯爵家から婚約の打診があったのだ。

 僕は子爵家の子息である。互いの地位や力関係を考えたら、断れない話だった。それでも、僕はすぐには頷けなかった。男同士なのが嫌だからじゃない。

 僕も貴族だ。家のための政略結婚くらい覚悟している。しがない子爵家が侯爵家との繋がりを得られるのならすごいことだ。シリルの申し出を受け入れれば、僕は父の役に立てる。

 問題は僕の血筋。僕は子爵の次男ということになっている。でも本当は父の血を引いていない。じゃあ誰が僕の父親かと言うと、この国の国王陛下である。

 他国の姫を王妃として迎える直前、国王陛下を騙して媚薬を飲ませた侍女が僕の母親だったらしい。母は王が口にする物に異物を混ぜたという理由で投獄され、存在を消されたあと、懐妊がわかって。子供に罪はないからと、僕は秘密裏に養子に出された。

 でも。僕は国王陛下そっくりに育ってしまった。ゆるく波打つ金髪も、王族に多い鮮やかな緑の瞳も、少し垂れた目尻も、並べば言い訳できないくらい血縁者にしか見えない。だから変装用の魔導具を常に身につけて、茶髪に青い目という姿に偽装している。

 誰かと深く関われば、僕の問題に巻き込んでしまう。僕は、恋人も婚約者も作る気がなかった。命じられればともかく、自分からは。そこに今回の縁談だ。

 シリルは毎日のように僕を口説いてくる。学院では寮暮らしだから居場所なんてすぐにバレるし、クラスメイトだし、逃げ場がない。仲の良い同級生からは「諦めろ」と苦笑された。

 熱心に口説かれて、結局、僕が折れた。婚約を受け入れて、学院を卒業したらすぐに式を挙げることになった。

 僕と結婚したシリルは、父親である侯爵が持っていた爵位をひとつ継承して伯爵になった。おかけで僕は伯爵の伴侶である。
 仲は良いと思う。
 シリルが愛情表現を惜しまない人だから、友人からは「暑苦しい」とか「見ていて胸焼けがしそうだ」とか言われる。

 結婚して二年が経とうかというある日。
 僕は聞いてしまったのだ。伴侶であるシリルが僕の養父と二人きりで話しているのを。

「ルシアンが王子として担ぎ出されることはもうないでしょう」
「そうだな。同性の伴侶がいる男をわざわざ王族に戻そうとする者はいないはずだ」
「あの子の平穏のために、ありがとうございます。シリル様」
「気にしないでくれ、子爵。この婚姻は陛下のご意思でもある」

 つまり。シリルと僕の結婚は。僕が王位の継承に首を突っ込むことがないように、僕の本当の父親が国王陛下だと気付く誰かがいても問題を起こせないように、男と結婚しているという事実を作るためのものだったのだ。

 ショックじゃないと言えば嘘になる。だけど、僕が王子だと知られたら厄介なことになっていたのは確かだった。






「ルシアン? 何かあった?」
「あ……えっと」
 心配そうな顔をしている伴侶に、僕は話を聞いてしまったと打ち明けた。
 シリルが「ああ……」と呟いて、苦い顔をした。

「まさか、私が陛下に命じられて君を口説いたとは思っていないよね?」
「…………違うの?」
「違う」
 シリルは僕をじっと見つめた。
「私の方から陛下に直訴したんだよ。君が欲しいって」

 僕の立場はあくまでも子爵の子息で、国王陛下との関係は隠されていて。それなのに、そんな藪をつつくような真似をして……よく無事だったな、この人は。

「まさか、私の気持ちを疑ったりなんて、していないよね?」
 耳元でそうささやかれて、抱き寄せる腕の力の強さに危機感を覚えた僕は、必死に伴侶を宥めたのだった。




Next