【今を生きる】
私に前世の記憶なんてものがあるのは何故なのだろう。時代どころか世界が違うのだ。親しい人たちにももう会えないのに。
今を生きることに集中できず、私はずっと過去に囚われている。帰りたい、彼らに会いたい。今世の家族や知人には申し訳ないけど、そう思う。
そんな私が事故で死にかけた時。地球には存在しないはずのものを目にした。
それは、前世の教会で何度も祈りを捧げていた輪廻の女神様。その教会の石像が命を得たかのような、なんとも懐かしいお姿だった。
そして私は、異世界に……元いた世界に転移させられた。そもそも地球に居たこと自体が手違いだったと言われて。
「……え、嘘。シャロン様?」
途切れた意識が戻ってきて、最初に私が見たのは教会の礼拝堂。最初に聞いたのは、二度と会えないと思った人の声。
「ロナン……あなた、生きてたの」
「シャロン様。何故、シャロン様がここに」
かつての友の姿があまりにも何も変わっていなくて、泣きそうになった。
「私、異世界に行って帰ってきたの。信じられないでしょう」
「いえ……信じます。シャロン様が仰るのなら」
「それにしてもロナンは何も変わらないわね」
「それはそうですよ。あなたが亡くなられてからまだ三年しか」
「そうなの!?」
真相はわからない。けれど、おそらくここと地球は時間の流れ方が違うのだ。私が過ごしたはずの十七年は、ここではたった三年でしかなかったのだろう。
それなら……会えるはずだ。親しかった友や恩人たちにも。
「ロナン。私、孤児院に行きたいの。道はわかるけど、案内してくれる?」
「もちろんです!」
兄のように思っていた人が孤児院の責任者になっていた。三年分大きくなった子供たちにもみくちゃにされて、私はようやく、自分が今生きているのだと実感できた。
「シャロン様。今度は長生きしてくださいね」
ロナンが泣きそうな顔で言った。
「もちろんよ」
7/20/2025, 11:00:00 AM