るね

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BLです。苦手な方ご注意ください。長いです。
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【好きになれない、嫌いになれない】




 男爵家の三男である僕、マール・ロヴェットと、侯爵家のご令息アレクシス・ランズデール様の魔力回路は繋がっている。

 それは魔力回路に突然障害を生じたアレクシス様の命を救うためには必要な措置だった。

 魔素を取り込み魔力に変換することは呼吸と同じくらい大事な、体の仕組みのひとつである。そのために必要なのが魔力回路だ。

 魔力の自然放出ができなくなってしまったアレクシス様は、放っておけば魔法を暴走させていた可能性が高く、どれだけの被害を出したかわからない。

 厳重な結界の中に幽閉すべきだという意見もあったらしい。けど、アレクシス様のご両親は彼を諦めることができなかった。そして選ばれた手段が、他人と魔力回路を接続すること。

 魔力回路を繋げれば、アレクシス様の過剰な魔力は繋がっている相手に流れ込む。そして、正常な魔力回路の持ち主であれば、過剰な魔力は自然と放出される。

 僕と魔力回路を接続することで、アレクシス様は幽閉されることなく、魔法の暴走も起こさずに済んだ。

 問題はアレクシス様が僕からあまり離れられなくなったこと。一日くらいならいいけれど、長い間遠くにいると魔力が受け取れなくなって危険なんだ。
 僕は侯爵家に部屋を用意されて、そこで暮らすことになってしまった。

 アレクシス様は僕にとても優しい。僕は彼を助けることができて嬉しかった。身分の差はあるものの、アレクシス様は同じ学院の同級生で、正直ずっと憧れていた相手なんだ。

 でも、僕からの好意なんて、アレクシス様には迷惑だろう。

 アレクシス様には元々婚約者がいた。その婚約はすでに解消されている。それでも……
 アレクシス様はいつか可愛らしい令嬢を伴侶に迎えるはず。そうなった後も近くに居なければいけないのが僕の立場だ。恨んで嫌うこともできない。気まずくなるのは辛いから。

 これ以上、アレクシス様を好きになれない、嫌いになれない。僕はもう、どうしたらいいのかわからない。

 ランズデール侯爵家の跡継ぎがアレクシス様ではなく弟君になることが正式に決定された。

 やはり、僕の補佐がなければ暮らしていけないアレクシス様が当主になるのは難しいのか。僕は僕なりにアレクシス様を支えようと、ランズデール家の執事長から色々と教わったりしていたのに。

 僕とアレクシス様の学院卒業が近付いてきた。アレクシス様は卒業後しばらくは侯爵家の仕事を手伝うらしい。僕も彼の側仕えとして住み込みで補佐する予定である。 

 ある日、僕は学院の庭園でアレクシス様が元婚約者のパトリシア嬢と話しているのを見かけてしまった。

「どうしよう、パティ。マールが今日もとても可愛い」
「はいはい、良かったわね」
「今朝はちょっと寝癖が残っていたんだ。寝坊したのかな。私が起こしてあげたい」
「……わたくし、あなたと婚約を解消できて、心の底から良かったと思ってるわ。本当に、本気で」

 聞き間違い……だよね。
 うん。きっとそう。確かに今朝はなかなか寝癖が落ち着かなくて苦戦したけど。

「あら。マールじゃないの」
 しまった。パトリシア嬢に気付かれた。目が合ってしまって、誤魔化せない。

「え。今の、聞いてた……?」
 アレクシス様の顔が真っ赤になって、僕も何故か釣られてしまって真っ赤になった。

「ちょうどいい機会だわ。よーく話し合いなさいな」
 なんて呆れたように言って、パトリシア嬢は立ち去ってしまった。

 離れることができない僕たちは、ようやくお互いの気持ちを確認し。僕は自分が最初からアレクシス様の伴侶候補として侯爵家に迎えられていたことを知った。

 そもそも接続する相手に僕を選んだのは、アレクシス様が僕を好ましいと思っていたからだとか。

「そういうことは早く言ってください」
「ごめん。卒業パーティーで婚約を申し込むつもりだった」

 そういえば、この学院の卒業パーティーで婚約を決めた二人は幸せになれるというジンクスがあるんだったな……



4/29/2025, 12:05:12 PM