るね

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12/6/2024, 1:29:48 PM

【逆さま】


「何それ、タロットの解説?」
 たまたま友人が見ていたスマホの画面が見えて、それが意外なものだったので思わず声が出た。
「そういうの興味あったっけ?」
「いや、全然」
「じゃあなんで調べてんの」
「んー、ちょっとね」

 これだよ、と見せられた画面には『吊られた男』のカードがあった。なんとも古めかしい絵柄だ。
「これさあ、足が上なんだね」
「え?」
 『吊られた男』は男性が不自然な姿勢で足首に紐をつけられ木にぶら下げられた絵柄のカードである。

「私これ、逆だと思ってたんだよ」
「頭が上ってこと?」
 それではカードは逆位置だけど。
「だって……人を吊るすって、ねぇ」
「いやいやいや、怖い怖い」
「でもほら、ここに『死刑囚』って別名もあるって書いてあるし?」
「それじゃあ逆さまだから。ちゃんと足に紐あるから。首にはないから。よく見て」

「おかしいなーとは思ったんだよ? 流石に物騒すぎるもんね」
 占いとか興味ないから知らなくて、と言って友人は「あはは」と苦笑した。
「だったらなんで調べようと?」
「ん? なんかSNSで画像が流れてきたから気になっただけ」
「ふぅん」

「でも、こういうのは背中を押してくれるものだと思えば悪くないね」
「珍しいこと言うじゃない」
「占い師はほとんどカウンセラーと同じって言ってる人がいてさ、なるほどなーって思ったわけよ」
「……アンタは何か後押しして欲しいことでもあるの?」
「別にないかな。今はね」

 私もタロットに詳しいわけじゃないけれど。『吊られた男』は試練を表すと同時に『試練を受け入れる強さ』や『困難があっても大丈夫』というような意味もある……らしい。興味を持つにしてもこの子らしいかもしれないなぁと私は思った。
 この際、上下逆さまだと思っていたことについては気にしないでおこう。



12/5/2024, 10:30:47 PM

【眠れないほど】


 暖房なしでは眠れないほどの寒さも、君とくっつく口実になる。上着を脱いで横になれば、私の枕を踏んで擦り寄ってくる君。
「にゃああん」
 布団に入れろと催促してくるキジトラ模様の毛玉様。少し捲ってやれば、どういうわけか、私の二の腕に顎を乗せる。それ、腕枕っていうんだけど知ってるの?
 って、痛い痛い痛い。私の腕をふみふみしないで。爪出てる出てる。そりゃあ、脂肪でふにふにですけどね!?
 ついでのように齧られて、同衾を諦める。
 きちんとエアコンの温度を上げて部屋を暖めればほら。『暑い』とばかりに布団を出ていって、もう寄り付きもしない。お気に入りの毛布の上で丸くなっているのだろう。
 気まぐれな君。それでも尽くさずにいられないのは、私の遺伝子に『猫に仕えよ』と刻まれているのかも。


12/5/2024, 2:10:46 AM

【夢と現実】


夢が出てくる話はすでに二回くらい書いた。
今このテーマを出されても正直、書きにくくて困る。

どんなお題でもそれなりに書ければ良いんだけどね。
私はなるべく創作でやっていこうと思っているから、尚更なのかな。

なかなか難しい。理想通りにはいかないね。




12/3/2024, 10:18:46 PM

【さよならは言わないで】


「アルフォンス。君とは必ずまた会えると信じている。だから、さよならは言わないでくれ」
 そう言ってウォーレンは微笑んだ。
 僕は『でも』と言いたくなって唇を噛んだ。

 彼は異国からの留学生だった。王位をめぐる争いから逃げるように遊学に出た王子様。ウォーレンの故国には五人の王子がいたものの、最近、第二王子と第三王子が相次いで亡くなっている。第四王子は後ろ盾が弱く、末子のウォーレンが国に呼び戻されることになったのだ。

 では第一王子はと言えば、生まれつき体が弱いらしい。足に障害があるとも言われている。それでも第一王子を王位にと願う王妃が、側妃の子供たちを暗殺したのではないかという噂があった。王妃の実子は第一王子だけなのだ。第五王子であるウォーレンが国に帰れば、彼の身も危ないかもしれなかった。

「大丈夫。私がこの国で何を学んできたかは知ってるだろ?」
「それはもちろん……」
 ウォーレンが専攻していたのは薬学だ。調合の腕は確かなものだし、素材に関する知識も豊富である。 

「私が薬を作りたいと思ったのは第一王子の兄上のためだ。国に帰ったら、兄上のお役に立ってみせるさ」
 ウォーレンはそう言うけれど、すでに異母弟を二人排除しているかもしれない方が、彼の薬を信じて飲んでくれるだろうか。

「私は王位に野心はないし、兄上が健康になってくださればそれが一番いい。アルフォンスはこの国の宰相補佐官になるんだろ?」
「一応はその予定だよ」
 今の宰相閣下は僕の伯父にあたる。縁故だと言われればその通り。でも、実際に仕事をこなせるだけの知識は身につけてきたつもりだ。

「いつか私の国に来てくれ。国交はあるんだ、きっと機会はある。君が来るまでに国内の問題を落ち着けておくと約束するよ」
 この国は比較的暖かく、僕は本の中でしか雪を知らない。北方にあるウォーレンの故郷はもっと寒いらしい。雪景色を見にくればいいさ、と彼は笑った。そして「またな」とだけ言って国に帰っていった。








 五年後。北方の国を訪れた僕は、伯父と共にその国の国王陛下の前に膝をついていた。面をあげよと声が掛かって、そっと見上げた先にはかつての友の姿があった。伯父の挨拶をちゃんと聞いていたのかどうか、ウォーレンは嬉しそうに僕に笑いかけてきた。

「やあ。久しいね、アルフォンス。また会えて嬉しいよ。たった数年だというのに本当に懐かしいな」
「……国の太陽たる陛下に直にお声掛けいただけるとは、身に余る光栄にございます」
 ウォーレンの眉がきゅっと寄った。
「堅苦しいのはやめておくれよ」
 そういうわけにもいかないだろう。今の彼は国王陛下で、周囲には人の目があるんだから。

 ウォーレンが留学から戻って間もない頃、この国を含む北方の地域で流行り病が蔓延した。元々体が弱かった第一王子はウォーレンの薬で一命を取り留めたものの王妃が亡くなり、先代の王は後遺症が残って退位を決めた。後継者にウォーレンが指名されたというわけだ。

「約束通り君に雪景色を見せよう。春までゆるりと滞在するといい」
 王になった友が笑う。僕は膝をついたまま頭を下げた。
「お言葉に甘えさせていただきます」

 けれど、僕は結局、春になっても帰れなかった。信頼できる側近が欲しいというウォーレンが僕を離してくれなかったのだ。
 二人きりになった時に僕は尋ねた。
「あの病で当時の王妃殿下だけが助からなかったのですよね。あなたなら薬を作れたのでは」
「アル」
 僕を愛称で呼んで、ウォーレンは僕の唇に指先で触れた。

 目を細めて友が笑う。
「滅多なことは言わない方がいい。この王城で長生きしたければね」
「ウォーレン……」
 敬称ではなく名を呼べば、笑顔が曇った。
「色々あったのさ。色々な」


12/3/2024, 1:13:38 AM

【光と闇の狭間で】

すごく書きたいんですが今は無理そうです
また書けそうな時にゆるゆると続けていけたらと思っております

狭間、ということは『光は見えている』
希望があるということかもしれません
真っ暗闇ではない分、余計に葛藤しそうです

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