雷鳥໒꒱·̩͙. ゚

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11/19/2022, 1:57:48 AM

―たくさんの想い出―

初めて貴方を見た時、私は違和感を感じた
クラスの…ムードメーカーって訳ではないけれど、
このクラスには絶対的に必要不可欠な存在で、
みんなが貴方を慕っていた
でも、クラスから取り出してじっくり見てみると、
近づきたくないくらい、一風変わった人で、
『自分の世界』を持った人
頭が良くて、想像力が豊かで、突飛的な発想が多くて
思考回路がちょっと理解しがたい
そんな貴方に惹かれた
心も頭も君のことでいっぱいになって、
帰ってこなかった
これが俗に言う恋ってやつなのだろうか?
いや、たぶん違うと思う
好きと言うよりかは、どっちかというと、
懐かしいって感じがする
授業中は授業をしっかり受けつつ、
貴方を意識してた
黒板を真剣に見る目や、
机に頬杖をつきながら目を細めて、
実に面白いとでもいうように
他の生徒の発言を聞くところ、
或いは、また別の生徒の的はずれな回答を
クラスのみんなと一緒になって笑うところ、
全てが懐かしいと感じたんだ
気づけば貴方を目で追っているって訳じゃない
意識的に君を観察していた
そんなある日、貴方の発言が気に掛かった
校外学習のしおりを配られた時のこと
「僕、ここ、行ったことありますね
幼稚園ときに行きました」
いつも通り、誰に対しても使う敬語
でも、気になったのは内容の方
しおりに書かれている行先…実は、
私も幼稚園児のときに遠足で行ったことがある
貴方は幼稚園の遠足とは別に行っただけだという
可能性も十分有り得る
が、幼稚園児の時に行った記憶を
なんとか呼び覚ましてみる…と、
居た、貴方が居た
紺色の体操服に並んだ6つのひらがなは貴方の名前
あまり親しくしていた訳ではないようだけど、
確かに居た、
私のたくさんの想い出の中には
しっかりと貴方が映っていた
だから懐かしく思ったんだ
頭の中のモヤッとした部分が、
スッキリと晴れていく感じがした
胸の中に張り巡らされた糸の絡まった部分が、
するりと解けていく感じがした
それから、月日は経ち、私は
私が1番大好きな想い出の中にも居た貴方
そんな貴方に惹かれていた
無意識に君を目で追っていた
黒板を真剣に見る目や、
机に頬杖をつきながら目を細めて、
実に面白いとでもいうように
他の生徒の発言を聞くところ、
或いは、また別の生徒の的はずれな回答を
クラスのみんなと一緒になって笑うところ、
全部が好きだと感じたんだ

11/18/2022, 8:45:46 AM

―冬になったら―
「もうすぐ冬ね」
「確かに、もう寒くなってきたもんね!」
「とても嬉しいようね、感情が尻尾に出てるわ」
「だって!!冬になったら雪遊びができるでしょう!?」
「あぁ…雪ねぇ…」
「そっちは?冬になったら何がしたい?」
「そうね、特にこれといってしたいことはないわ
雪も好かないし、
こたつで温まっているのがいいかしらね」
「えぇ〜!そんなの面白くない!遊ぼうよ!!」
「庭を駆け回るのが面白いっていうの?
貴方、猫なのに?」
「雪を目の前にしてじっとしとくなんて、
私には無理なんだもん!
そっちの方こそ、犬なのに
こたつで丸くなってたいの?」
「んふふ、私は寒いのが嫌いなのよ」
「つまんなぁい!!」
「あぁあぁ、なんにも聞こえないわ」
「むぅ…」
「はぁ〜…冬が待ち遠しい」
「私も!」

11/17/2022, 9:16:14 AM

―はなればなれ―

«««««««««««««««««««««««««»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»
望結へ

もうずっと昔のことなんだけど、
はなればなれになってしまった君。
今まで忘れてたってわけじゃないんだけど、
こっちも色々忙しくってね。
あれから暫く君のこと気にかけられなかったけど、
君は元気だった?
僕は元気でやってるよ、今のところはね。
そっちの暮らしはどんな感じ?
居心地悪くない?寂しくない?
友達はできた?喋り相手は居る?
いじめられたりしてない?独りになってない?
毎回思うけど、こうも返事がないと、
不安で仕方ないんだよ。
特に君は環境に慣れるのが早くなかったから、
余計に心配なんだ。
君にも色々事情があるんだろうけど、
もし無視してるだけっていうなら、
僕はどうにかなりそうだ。
そうそう、もうすぐ僕もそっちに向かう予定なんだ。
まだ予定ってだけだけど、ほぼ確定してる。
だから、そっちに着いたら、
君がちゃんとガイドしてね。
そっちに行くのを、君に会えるのを、
とても楽しみにしてるんだから。
今すぐ行くよ、待ってて。

輝空より
«««««««««««««««««««««««««»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»»

宛先を書いていない封筒に包んだ手紙と
小箱から取り出した古びている竹とんぼ、
近くにあったハードカバーの本を手にすると、
スマホや財布、鍵さえも持たずに、
時間が止まっているかのように静かなその家を
あとにした
予定通りに向かった先は
来月に取り壊しが決まった廃墟ビルの屋上
黒字でKEEP OUTと太く書かれた黄色のテープを
くぐって中に入った
朽ち果て、今にも壊れてしまいそうな階段を
慎重に上り、屋上に着く
勇んで来たはいいものの、
まだ下にはたくさんの人がいて
僕は一瞬迷ってから、少し時間を潰すことにした
持ってきた本を読みながら夜を待つ
本好きの僕が1番気に入っている本
これを読み終える頃には夜も更けてくるだろう
誰も自分を邪魔しない、1人だけの空間を
僕は思う存分、堪能した
そして、めくるページを照らす太陽が
空から消え、代わりに月がやってきた頃、
屋上の端に移動した
人が少なくなってきたのを確認すると、
僕はそこで靴を脱いで揃え、
その傍に手紙を置き、
風で飛ばないよう、本で抑えた
そして竹とんぼを両手に挟むと、
書いた手紙の末尾を暗唱する
『そっちに行くのを、君に会えるのを、
とても楽しみにしてるんだから。
今すぐ行くよ、待ってて。』
祈るような声でそう呟くと、
僕は深く大きく息を吸い、
右手を前方、やや下向きに勢いよく突き出す
竹とんぼが飛び出し、舞い始めるのと同時に
僕も飛び出した
さすがに舞うことはできなかったけれど
僕は全身で風と重力を感じた
そして薄れゆく意識の中で君を想う
目の前にタイミング良く舞い降りてきた
竹とんぼにやっとの思いで手を伸ばす
弱々しく伸びたその手が、
風を遮り伸びたその手が
竹とんぼをゆっくりと掴んだ
僕はその手を大切に引き寄せ、
胸に抱くように押し当てると目を瞑り、
そのまま意識を失った

11/16/2022, 10:47:12 AM

―子猫―

私はかわいい子猫ちゃん

の、フリをした凶暴な猫

表の顔は愛らしい子猫

でも、裏では自慢の爪と牙、それと眼光の圧で

近所のペット共をビビらせていて、

誰も私に逆らえやしないの

能ある鷹は爪を隠すらしいんだけれどね、

私には鋭い爪や牙がある

ってこと、きっとみんなは知らないわ

かわいいかわいいね

なんて、みんなして私を愛でているもの

油断と隙だらけの飼い主は

私のことを自慢げに話すのよ

私の裏側を、知ろうともせずにね

捨て猫時代の私に言った、あなたのあの言葉

まだはっきり覚えてる

今じゃだいぶ強くなったけれど、

昔はかなり傷ついたし、根に持ってたの

だからそっくりそのままお返しするわ

『なんて哀れな子猫ちゃん』

ンフフッ…ねぇ、今、どんな気持ち?

11/14/2022, 2:04:17 PM

―秋風―

オシャレな紅葉スポットとして名高い
公園にデートで来ていた
秋風に吹かれ、僕の隣で髪をなびかせる彼女
格子柄のワンピースの裾を気にしているようだ
髪を弄んでいた秋風は、
やがて、髪だけじゃ足りなくなったのか、
彼女の被っていたキャスケットにまで
手を出したらしく、
紅葉と共に飛んで行ってしまった
それを見兼ねた僕は、彼女が手を伸ばす前に
すかさず右手を伸ばし、パシッと掴んだ
『はい、どうぞ』
彼女は素直にキャスケットを受け取ると、
それで自分の顔半分を隠し、
上目遣いでこちらを見ながら
「ありがと…」と呟くように言った
僕はそれに応じるように、
彼女へ笑みを向けた
彼女は恥ずかしくなったのか、
キャスケットで顔全部を覆ってしまった
いつの間にか2人で止めていた歩みを
また進めながら、僕は彼女の肩に手を回した
彼女は僕より遅いテンポで歩きながら、
諦めたようにキャスケットを顔から離し、
頭に被る
そこに流れる幸せな時間…

なんてシーンを、妄想して思わず笑みをこぼすが、
そもそも自分に彼女なんてものは
存在しないことを思い出し、
哀しく感じつつ自嘲する秋の夜長

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