―秋風―
オシャレな紅葉スポットとして名高い
公園にデートで来ていた
秋風に吹かれ、僕の隣で髪をなびかせる彼女
格子柄のワンピースの裾を気にしているようだ
髪を弄んでいた秋風は、
やがて、髪だけじゃ足りなくなったのか、
彼女の被っていたキャスケットにまで
手を出したらしく、
紅葉と共に飛んで行ってしまった
それを見兼ねた僕は、彼女が手を伸ばす前に
すかさず右手を伸ばし、パシッと掴んだ
『はい、どうぞ』
彼女は素直にキャスケットを受け取ると、
それで自分の顔半分を隠し、
上目遣いでこちらを見ながら
「ありがと…」と呟くように言った
僕はそれに応じるように、
彼女へ笑みを向けた
彼女は恥ずかしくなったのか、
キャスケットで顔全部を覆ってしまった
いつの間にか2人で止めていた歩みを
また進めながら、僕は彼女の肩に手を回した
彼女は僕より遅いテンポで歩きながら、
諦めたようにキャスケットを顔から離し、
頭に被る
そこに流れる幸せな時間…
なんてシーンを、妄想して思わず笑みをこぼすが、
そもそも自分に彼女なんてものは
存在しないことを思い出し、
哀しく感じつつ自嘲する秋の夜長
11/14/2022, 2:04:17 PM