𝓌𝓟𝔃𝓟𝓎𝓪𝔃𝓮

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9/11/2024, 3:16:42 PM

カレンダヌ


キッチンの癜い壁に透明の画鋲で留めたカレンダヌ。

ここ数幎ですっかり行き぀けになっおしたった犬の病院で貰ったカレンダヌだ。

今幎の衚玙には、跳ねるような文字で『ぜヌんぶ小犬』ずいうタむトルが付いおいる。

カレンダヌの䞋郚には動物病院の名前ず電話番号、ご䞁寧に定䌑日たで曞いおある。

お陰で毎月の通院予玄を取るずきにずおも助かっおいる。


䞊䞋芋開きの䞊半分を食る小犬たちは、おそらくどこかの動物プロダクションに所属するモデル犬なのだろう。

圌女(圌)たちは、どの月も思わず口元が匛んでしたうような可愛い小犬ばかり。

どの子も玔血皮の特城をしっかりず受け継いだ姿圢をしおいる。

おそらくは茝かしい実瞟を持぀チャンピオン犬の芪から産たれ、立掟な血統曞を持っおいるのだろう。

それぞれにありふれおはいるが、鑑賞に倀する決めポヌズを取り、毎月私を楜したせおくれおいる。


我が家のか぀おは小犬だった(チャンピオン犬の芪も血統曞も持っおいない)愛犬は、今ではすっかり幎老いおしたった。


日に日に寝おいる時間が長くなり、時折掻くいびきが劙に幎寄り臭く感じるずきがある。

しかし、それはそれでモデル犬には負けない愛おしさがあるのだ。


カレンダヌの数字に目をやるず、月に決たっお六぀、青い䞞で囲たれた列がある。

倫の䞍圚の青䞞だ。

「どうやら、この先しばらくは月に数日出匵になりそうだ。」

倫が蚝しげにそう蚀ったのが数ヶ月前のこず。

「防犯のこずもあるし、毎月日皋が決たったら教えおね。」

私はそう蚀った。

䌚話自䜓どれくらい振りだろう。
芚えおいない。

出匵の日皋は毎月倫からLINEで送られおくる。

もちろん私たちは䞀぀屋根の䞋に䜏んでいる。



赀ペンで䞞をしたい気持ちをどうにか抑え、今月も青ペンを手にする。

感謝ず愛情が比䟋しないずいうこずは、私が結婚から孊んだ最も重芁なこずの䞀぀だ。




お題
カレンダヌ

9/10/2024, 11:36:15 AM

喪倱感


胞にぜっかりず穎が空く。

あなたはそんな経隓をしたこずがありたすか

私はありたす。

それは比喩の類などではなく、文字通り本圓に胞にぜっかりず空掞が出来るのです。

その空掞はどこたでも続く、広く深い暗がりで、奥を芗くず果おしない闇が広がっおいたす。

盎接目で芋お確認したわけではないのですが(そんなこず怖くお出来たせん)、そうなっおいるに決たっおいたす。

私には分かるのです。

そしお、穎が空いおいるので圓然そこには颚が通り、胞がスヌスヌしたす。

よく胞がほっこりするなんお衚珟がありたすが、あれずはたったく真逆の状態です。

枩かみずいうものを䞀切感じないどころか、垞に胞の真ん䞭が冷え冷えしおいるような感じです。

それは䜕ずいうか、たるで自分の䞀郚が䞞々どこかに消えおしたったような感芚ずでも蚀いたしょうか。

ある意味での喪倱感なのかもしれたせん。


私の欠けおしたった郚分には、か぀おずおも倧切なものがありたした。

それは、生きる意味や垌望、もしかしたら私自身の尊厳に関わるようなものだったのかもしれたせん。

しかし、それはもう今では完党に私の元から去っおしたいたした。

おそらく二床ず戻っおは来ないでしょう。

そうならないために、もっず手を打おたのではないか、そう思ったこずも䞀床や二床ではありたせん。

しかし、結局のずころは無理でした。

気付いたらもう、それは私の手の届かないずころぞ行っおしたったあずでした。


あれからずいぶん月日が経ちたしたが、今でも胞には穎は空いたたたです。

その埌、少しず぀ではありたすが、その穎はだんだん小さくなっおきおいたす。

自然治癒力ずでも蚀うのでしょう。

以前のように、吹きさらしの荒れ野のような状態ではありたせん。

しかし、この先も完党に穎が塞がるこずはないでしょう。



今、私は生きおいたす。

どんなに倧切なものを倱おうず、そのせいで胞に倧穎が空こうず、人は生きおいくのです。


きっず、どんな人の胞にも倧なり小なり穎が空いおいるのでしょう。


人生ずはそういうものなのかもしれたせん。



もし、あなたの胞にぜっかりず穎が空いたずき、あなたはきっず蚀うでしょう。

あヌ、胞にぜっかりず穎が空くなんおこずが、人生には本圓にあるんだなあ、ず。




お題
喪倱感

9/6/2024, 11:08:40 AM

時を告げる


たたやっおしたった。

迂闊に恋になど萜ちぬよう、あれほど気を付けおいたのに。


男性はい぀だっお優しい。

うんず若くおも、さほど若くなくおも、たずえ若さはもうずっくに手攟しおいたずしおも。


圌らは眩しいものでも芋るようにそっず目を现め、柔らかな、それでいお少し困ったような衚情を浮かべ、私を芋る。

私はそっず目を䌏せ、そんな圌らの芖線にはたるで気付かなかった振りをしお軜く埮笑み、その堎を立ち去る。

い぀ものこずだ。

泚がれる芖線にいちいち応えおいたら身䜓がいく぀あっおも足りないし、物事がちっずも前に進んでいかないからだ。

しかし、時々思いがけないアクシデントが起こる。


颚薫る五月。

䜕でもない駅のコンコヌス。
客先ぞず向かう乗り換えのためのその堎所で。


私の芖線が圌を捉える。

呚りより䞀぀飛び出した頭。
艶のある黒髪から芗く圢の良い額。


前方8メヌトル。

圌も同じように私を芋おいる。
県光は鋭い。

お互いに歩幅を進め、吞い寄せられるように埐々に距離が近付く。


前方5メヌトル。

私は圌に釘付けになった。
この気持ちは知っおいる。

そう、い぀も私が気付かぬ振りをしお受け流しおいるあの感情だず。


前方3メヌトル。

心臓が錓動を早め、うっすらず銖筋が火照り始める。

他にも倧勢の人たちが行き来しおいるずいうのに、私には呚りを窺う䜙裕はない。

いけない兆候だ。


前方2メヌトル

手先が震え、だんだん冷たくなっおいくのがわかる。

しっかりしなければ。
立っおいられなくなる。


前方1メヌトル。

お互いに自然ず歩みが止たった。

ドンッ

心臓が小さく砎裂した。
そう、もちろん私の心臓が。


圌はず蚀えば、私を芋䞋ろしながら玠っ気ないくらいぶっきらがうにこう蚀った。

「䜕ですか僕の顔に䜕か付いおたす」

眉根に皺を寄せ、たるで迷惑だず蚀わんばかりに私を芋る。

「あ、えヌっず、違うの、ごめんなさい。䜕でもないんです。」

私はふら぀きながらも、慌おお螵(きびす)を返しその堎を去ろうずするず、咄嗟に手銖を掎たれた。

「埅っお、ちょっず埅っお  」

そのあずで声が远いかけおくる。
思いがけずの切矜詰たった声。


「倧䞈倫顔真っ青だけど。」

「  倧䞈倫、うん、倚分。」


圌は「はははっ。」ず短く快掻に笑った。

「そっちで、少し䌑もう。」

子䟛のように手を匕かれ、雑螏の䞭、私ぱレベヌタヌの陰たで連れお来られた。

そこでやっず手を離される。
急に血流を取り戻した手銖を私はさすった。


「あの、違っおたらすいたせん。僕たち前にどこかで䌚ったこずありたせんか」

䞀芋、䜿い叀されたその蚀い回し。

照れくさそうにそう蚀いながら、圌は必死に䜕かを思い出そうずしおいる。

その顔すら、私は䞍思議なほど懐かしさを芚える。

「実は私もさっきそんな気がしお、気が付いたらあなたから目が離せなくなっおいお。」

私は圌を䞀目芋たその瞬間に起きた出来事をそう告癜した。


「そっかそっか。そうなんだ、参ったなあ。」

これからどうするべきか混乱で頭がいっぱいの圌を前に正午(たひる)の鐘が鳎った。

駅の時蚈台の鐘だ。

倪陜はちょうど東でもない、西でもない䞭間地点にいる。


私たちはただ戻るこずも出来るし、このたた先に進むこずだっお出来る。

どちらを遞がうず自由なのだ。
たるでお互いの人生のように。


「お倩気もいいし、少し歩きたしょう。知っおるこの先にツツゞが綺麗に咲いおいる公園があるのよ。ちょうど今芋頃なの。」

私はツツゞが奜きだ。
どんな花を芋るよりも心が浮き立぀。

赀や癜、薄ピンクに赀のふの入ったものなど、様々だ。

少し毛矜立った葉のあの緑だっお、もちろん矎しい。

初倏の青く眩しい日差しの䞭、䞀斉に咲き誇るツツゞの矀萜に、心が螊る。


私はそう蚀っお、巊手でただ戞惑っおいる圌の右手を取り、改札を出た。

駅の階段を䞋る途䞭で、

「ありがずう。 僕を芋぀けおくれお。たた䞀緒にツツゞが芋られるんだね。」

ふず、そんな声が聞こえた気がしお数段䞊にいる圌を振り返るず、噚甚に巊手でスマホを操(あや぀)りどこかに電話を掛けおいた。


あれ今の声、気のせい


「あヌ、すたん。午埌の予定はキャンセルだ。みんなでうたくやっおくれ。」

気難しそうなビゞネスマンの顔をした圌がいた。


あ、ふふふっ。
やっぱりそうか。間違いない。

たた私たち、今回も二人そろっお巊利きだ。




お題
時を告げる

9/5/2024, 2:10:55 PM

貝殻


これは私にただ呜があった頃のお話です。

今でこそ、こうしお他の拟われた仲間たちず䞀緒に、ブロヌチやピアスに圢を倉えおガラスケヌスに䞊んでいるけれど、か぀おの私は旅人でした。


私の名前は瑠璃貝(ルリガむ)。

青色の薄い殻に芆われた私は、たるでむンク瓶から零れ萜ちたかのような淡い光を攟぀巻貝です。

人は蚀いたす。
この貝は単玔に貝殻ず呌んでしたうには盞応しくないほどの芋目麗しい貝だず。

しかし、私は芋た目が矎しいだけのひ匱な貝ではありたせん。

砂浜の砂の䞭でほが䞀生を終える他の貝たちずは違い、私は自分で出した泡のむカダに乗っお倧海原を旅するのです。

私の仲間たちは、䞖界䞭の暖かな流れのある海の衚局を優雅に挂いながら暮らしおいたす。

奜物はギンカクラゲやカツオノカンムリずいった青色のクラゲたち。

私の矎しい瑠璃色は䜕を隠そう圌らからの莈り物なのです。


しかし、波任せの優雅な旅は、ずある秋の日の嵐の倜に突然終わりを告げたした。

私は他の倧勢の仲間たちず䞀緒に、島根県益田の海岞ぞず打ち䞊げられおしたったのです。


生きた貝ずしおの呜は、あの時あの堎所で終わりを告げたした。

しかし、今はこうしお矎しいアクセサリヌぞず姿圢を倉え、第二の人生を歩み始めおいたす。

あなたがもしどこかで矎しい青色の貝殻を芋぀けるこずがあったなら、それはきっず私です。

その時は、たた私のこずを思い出しおくださいね。




お題
貝殻

9/4/2024, 1:33:36 PM

きらめき


あの日䞀぀の呜が消えた。

最期の最期、その䞀瞬たで君は私の手の䞭で生きるこずを諊めず、矜ばたこうずしおは、力尜きた。


矎しく淡いブルヌの翌を持぀君は可憐で気高く玔粋で、

どこたでも無垢でお茶目で思慮深かった。


ひずしきり空䞭散歩を楜しむ最䞭(さなか)、気たぐれに私の肩に降り立っおは倢䞭になっお埌れ毛で遊んでいたりしお。

かず思えば、い぀の間にやらその肩先でちんたりず䞞く膚らみ眠っおいお。

その愛らしい姿に私は䜕床枩かい気持ちを貰ったこずか。


埮かに空気を震わす薄絹ほどの質量しか持たない儚げな君の、その最沢で圧倒的な呜のきらめきに、私はい぀も驚かされおばかりだったんだ。


ピュロロピュロロず凛々しく誇らしげに私を呌ぶ声が、二人で過ごした蚘憶の森から今もずきおり聞こえおくるよ。

その鳎声(めいせい)が求愛だったず知った今、無性に君に䌚いたくなった。


愛鳥アゞュヌルに捧ぐ



お題
きらめき

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