カレンダー
キッチンの白い壁に透明の画鋲で留めたカレンダー。
ここ数年ですっかり行きつけになってしまった犬の病院で貰ったカレンダーだ。
今年の表紙には、跳ねるような文字で『ぜーんぶ小犬』というタイトルが付いている。
カレンダーの下部には動物病院の名前と電話番号、ご丁寧に定休日まで書いてある。
お陰で毎月の通院予約を取るときにとても助かっている。
上下見開きの上半分を飾る小犬たちは、おそらくどこかの動物プロダクションに所属するモデル犬なのだろう。
彼女(彼?)たちは、どの月も思わず口元が弛んでしまうような可愛い小犬ばかり。
どの子も純血種の特徴をしっかりと受け継いだ姿形をしている。
おそらくは輝かしい実績を持つチャンピオン犬の親から産まれ、立派な血統書を持っているのだろう。
それぞれにありふれてはいるが、鑑賞に値する決めポーズを取り、毎月私を楽しませてくれている。
我が家のかつては小犬だった(チャンピオン犬の親も血統書も持っていない)愛犬は、今ではすっかり年老いてしまった。
日に日に寝ている時間が長くなり、時折掻くいびきが妙に年寄り臭く感じるときがある。
しかし、それはそれでモデル犬には負けない愛おしさがあるのだ。
カレンダーの数字に目をやると、月に決まって六つ、青い丸で囲まれた列がある。
夫の不在の青丸だ。
「どうやら、この先しばらくは月に数日出張になりそうだ。」
夫が訝しげにそう言ったのが数ヶ月前のこと。
「防犯のこともあるし、毎月日程が決まったら教えてね。」
私はそう言った。
会話自体どれくらい振りだろう。
覚えていない。
出張の日程は毎月夫からLINEで送られてくる。
もちろん私たちは一つ屋根の下に住んでいる。
赤ペンで丸をしたい気持ちをどうにか抑え、今月も青ペンを手にする。
感謝と愛情が比例しないということは、私が結婚から学んだ最も重要なことの一つだ。
お題
カレンダー
9/11/2024, 3:16:42 PM