ちか@修行中

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8/31/2024, 2:52:36 AM

香水

手首にしゅっとかける。鼻に近づけて匂いを嗅ぐ。
んー、なんか違う。
あの人の匂いではない。
時間が経つと匂いが変わると言うが、それでもなんか違う気がする。
自分でも馬鹿なことやってるとは思うけど、止められないのだ。
そして今日もあの人の匂いを探しに行く。
人によって匂いが変わるということも知らず。

8/29/2024, 11:03:43 PM

言葉はいらない、ただ…

そっと手を伸ばす。けれど触れるのは怖くて手前で止まる。椅子の冷たさが伝わってくる。
臆病者め。そう自分を詰ってると、指先に触れる温かさ。
ぱっと顔を上げるとそっぽ向きながらこちらに手を伸ばす姿。
驚かせてはいけないと捕まえたいのを堪えて、待つ。
そっと手の甲まで来た手に、耐えきれず指を絡める。
びくりとあちらが動いたのが分かったが、それでも手を引っ込めずにいてくれる。
その温かさだけで充分だった。

8/27/2024, 10:27:44 PM

雨に佇む

しとしとと、なら可愛げがあるのに、今日の雨はバケツをひっくり返したような土砂降りだ。
折りたたみ傘でなんとか対抗していたが、雨の余りの強さに負けそうだったので、シャッターの閉まるお店の軒先を借りて凌いでる状況だ。
意地を張らずに待たせて貰えば良かったか。
先程出てきた彼女の家を思う。こんなタイミングで喧嘩しなくても、と思うがしょうがない。
ふと、水の跳ねる音が混じった。あまりの土砂降りで聞き取りづらいが、確かに聞こえている。
雨足が強くて視界が白くもやが出る中、1人傘を指しているのが辛うじて見えた。
あれ?まさか――
「こんな雨の中、出てくくらい嫌い?」
そう言って傘を閉じ、軒先に入ってきたのは先程喧嘩した彼女だった。部屋着でそのまま出てきたらしく、ノーメイクのままだし、湿気が苦手な髪はとても膨らんで跳ねまくっている。手には傘が2本あった。
「すまん……」
謝罪の言葉がするりと出てくる。我ながら現金なやつだが、普段からガッチリメイクの彼女とはかけ離れた行動が、嬉しくてしょうがなかった。
「もう一声」
「明日はケーキ買ってきます」
横柄な態度も可愛くて即答する。
「よろしい」
そう言って差し出された傘。それよりもその笑顔に安堵した。

8/26/2024, 10:44:45 PM

私の日記帳

「……なことがありました。うーん、つまらない」
日記を書きながらそんなことを呟く。その日あったことを書くのだが、あまりにも書いていてつまらない。思ったことというのがどうにも思い浮かばず、それがつまらなさに拍車をかけている。
毎日ドラマのような出来事があるわけがないのだが、それにしても単調な日々だ。
辺りを見渡す。白いベッドは薄い水色のカーテンに囲われている。その外には見飽きた景色。部屋の中は見飽きた病室。毎日毎日投薬の日々。変わらぬ毎日ではつまらないのも当然だった。
「なんか、面白いことでも起きないかしら」
日記の最後にそうしたためる。いつ治るとも知れぬ病がもたらす苦痛も、最早彼女にとって飽き飽きしたものだった。
「……つまらない」
ベッドにぼふりと倒れ込みこぼす。
日記に綴る変わらない日常に押しつぶされそうだった。

8/25/2024, 10:28:32 AM

向かい合わせ

アイツとは随分長いこと競い合ってきた。勉強も運動も、アイツがいたから頑張ってこれたし、引っ張ってもらえたと思っている。
そしてそれはきっと、自惚れでなければアイツも同じことを思っているんじゃないかと感じている。
だからもう少し――。
「おい!しっかりしろ!」
俺を抱きかかえたヤツが大声と共に揺さぶってくる。頭痛むから止めろ。ただでさえ全身痛いんだ。
交差点に突っ込んできた車、その前にいたヤツを突き飛ばしたのは、助けたいとかそんなんじゃなくて、咄嗟すぎてわからない反射だった。
でもきっとコイツも同じことしたんじゃないかな。
俺とそっくりな――向かい合わせの鏡のように――ヤツはぼろぼろ泣きじゃくりながら俺に向かって何か叫んでいる。なんて言ってるかは聞こえない。けど。
――俺も、もっと一緒にいたかった。
言葉として出てかはわからない。喉も口も動いていなかったかもしれない。けど伝わってほしい。
今まで隣を一緒に歩んできたコイツに。

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