子供のままでいれば
世の中の理不尽さも、腹黒さも、厳しさも
何も考えなくて良かったのに
子供のままでいれば
未来への希望も、夢も、理想も
何のしがらみもなく思い描けたのに
ね
2024/05/12(お題『子供のまま』で思うこと)
『見つめられると』
こんな伝説がある。
何百年も前、とある田舎の村の外れにある森の中で、体長10メートルは越える大蛇が住んでいた。その大蛇に見つめられると命を奪われてしまい、肉も骨もなくなってしまう。
森に入った村人の多くがその消息を絶ったという。
しかしある日、徳の高い僧侶がやってきてその大蛇を岩に変えて封印したのである。
再び大蛇が解き放たれないように村人はその岩を祀り、また年に一回は意思を継いだ僧侶の子孫が、その封印を再度行い続けなければならない。
――懐中電灯の灯りが夜の大蛇岩を照らす。
二人の少年が蛇の腹から頭に向かって歩みを進める。しかし一人は、もう一人の少年の体にくっついて怯えた表情をしている。
「ねぇ、よっちゃん、もう止めようよ……」
そう消え入るような声で囁いた少年に、よっちゃんと呼ばれた少年は怪訝そうな顔をして振り向く。
「まだ怖がってるのかよ。ハル、少しは男になれ!」
「だって、蛇が動き出したらさ……」
「……あのなぁ」
よっちゃんは足を止めてハルを引き離す。
「あんなのただの言い伝えじゃん。そんなのを信じて怯えてるお前は異常だって」
「で、でも……毎年お坊さんが鎮魂祭するじゃない。言い伝えだったらする必要、な、ないでしょ?」
「昔からの伝統だから、真実か嘘かなんて分からなくてもやるもんなんだよ。そういうもんだ」
「で、でもっ、明日が鎮魂祭だし今晩は、一番封印が弱まる時だって……に、兄ちゃんが言ってた」
「あー、もう! そんなに怖いならそこにいろよ! 俺だけで行くわ」
バカバカしいとばかりに、よっちゃんは一人で先へ進み始めた。
だいたい、伝説通りなら蛇に遭遇して誰も生きてないってことだろ?
じゃあ誰がそのことを伝えたんだよ。
よっちゃんはそう思っていた。
肝試しと称して友達を何人か誘ったが、ハル以外は誰も来なかった。皆ビビっている。ハルは断れない性格だから来たのはわかっていた。
だけどこんなにビビり散らかして足を引っ張るなら置いてきたほうがマシだと思ったのだ。
大蛇岩の正面に来たとき、よっちゃんは懐中電灯の光を大蛇の顔に当てた。
夜は初めてだったが、昼間と変わらず大蛇は岩としてそこにあるだけ。
「やっぱりただの岩だっつ―の。おーい、ハル! 来いよ! 何も心配いらねぇか――」
ハルは地面に尻餅をついた。
大蛇岩の腹がうねったように見えてビビったのだ。
――いや、見えたのではない。事実、うねった。
顔を上げるとやっぱりそれはうねっていて、ハルは恐怖で声が出なかった。
よっちゃんがさっき呼んだ気がしたが、もうそれどころではない。
漏らしたかもしれないと感じたが、ハルは構わず立ち上がって震える足を必死に動かした。
逃げなければと。
今までにないくらい走って、森を抜け麓の寺院に駆け込んだ。震える声で騒ぎ立て、住職に話をしたところ大騒ぎになった。
ハルにはどういう経緯でそうなったかはわからないが、気付いたら警察やハルの親……よっちゃんの家族が来ていた。
警察に事情聴取をされ、よっちゃんの家族は泣いているし、自分も震えが止まらなかった。
その後、警察や捜索隊に大蛇岩は大蛇岩としてそこにあったし、動いたなんてありえないと告げられた。
幻覚を見たんだと言われた。
ハルが大人になった今も、よっちゃんは行方不明のままである。
終わり
『こんな夢を見た』
「俺は団子が食べたいのだ」
縁側に腰を掛けた兄上が呟いた。
幼い頃から、二人で縁側に座り込んで話すのが好きだった俺はそれを懐かしく思う。
「……されど兄上。団子ならいつも置いているでしょう」
しんしんと降る雪はいつ止むかもわからない。
辺り一面の銀世界を眺める兄上の視線は、こちらには向かないのだ。
「あれではない。俺は団子が食べたいのだ」
「団子以外の何ものでもないと思うのですが」
「違う。あれは違うのだ」
少し俯き加減に違う違うと連呼する兄上。いつも団子を置いているのに、なぜ違うと申されるのか俺には分からなかった。
――と、まぁ
こんな夢を見たんだと、兄上の妻にあたるお菊さんに話した。お菊さんは、しばらく考えていたがふと思い立ったように「もしかして」と声を上げた。
「もしかしてだけれど、みたらし団子じゃなくて草団子の方かしら?」
「草団子?」
「あの人、最期に草団子が食べたいと言って……」
「しかし兄上の好物はみたらし団子のはずだが」
兄上は昔からみたらし団子が好物であった。
団子屋にいけば必ずみたらし団子という程にみたらし団子好き。そんな兄上が草団子など想像がつかない。
しかしお菊さんは、それがですねと話し始めた。
「あの人が亡くなる半年ほど前だったかしら。いつもいくお団子屋さんから、草団子を新しく拵えたから試しに食べてくれと言われたんですよ。あの人はみたらし団子以外に顔をしかめていたけれど、お団子屋さんの主人にせがまれて仕方なく食べたら……それが美味しかったらしく。それから時々食べるようになっていたの」
その話は初耳だ。亡くなる半年ほど前といったか。それ以降にも何度も会っているが、俺にはそんなこと一言も言わなかった。俺が買ってきたみたらし団子に対しても「やはりこれだな」と美味しそうに食べていたのを思い出す。
「みたらし団子の方が好きだけれど、時々食べたくなるとあの人言ってたわ。もしかしたらそれのことかもしれないですね」
――兄上、俺の夢に出てきて違うと言われても分かるわけないじゃないか。
草団子が好きになったなんて恥ずかしくて言えなかったのかもしれないが、俺には内緒にしていてお菊さんには……。
兄上の妻に嫉妬するなんてみっともないが、少し悔しいので俺は絶対にみたらし団子しかお供えしないと誓った。
終わり
創作 2024/01/23
『寂しさ』
どんなに安らぐ香を嗅いでも、懐かしいあの香りはどこにもない。
優しい太陽のようなあなたを求めて、何度季節が巡っただろう。
それは遠い昔に約束した記憶と共に蘇る香り。
生まれ変わってもまた一緒になりたい。最期の言葉に私も頷いた。
あなたの香りは何度巡っても忘れられない。
どうして出会えないのかどうして私は覚えているのか。
この記憶を恨めしく思った。
それでも覚えているのは、あなたとまた巡り会うためだと信じている。
きっと見つけるからこの匂いを忘れないでくれと呟いた願いを、私はこの魂に刻み過去を消しされない。
孤独な愛がいつまでも私に付き纏っている。
2023/12/20 創作
(輪廻転生の愛物語が好きです)
『雪を待つ』
子供の頃はしゃいでいたあの気持ち
降り積もった光景はもう
今となってはみることができない
大人のほとんどは嫌がる
寒いし
渋滞するし
滑るし
家から出られなくて仕事に行けない
など
けれど私は意外にも嫌いではない
雪ではしゃげる年齢じゃないけれど
雪ではしゃいでしまう自分がいる
ちょっぴり恥ずかしいけれど
雪を待つ自分がいる
2023/12/16 ノンフィクション