川瀬りん

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『こんな夢を見た』



「俺は団子が食べたいのだ」

縁側に腰を掛けた兄上が呟いた。
幼い頃から、二人で縁側に座り込んで話すのが好きだった俺はそれを懐かしく思う。

「……されど兄上。団子ならいつも置いているでしょう」

しんしんと降る雪はいつ止むかもわからない。
辺り一面の銀世界を眺める兄上の視線は、こちらには向かないのだ。

「あれではない。俺は団子が食べたいのだ」
「団子以外の何ものでもないと思うのですが」
「違う。あれは違うのだ」

少し俯き加減に違う違うと連呼する兄上。いつも団子を置いているのに、なぜ違うと申されるのか俺には分からなかった。


――と、まぁ
こんな夢を見たんだと、兄上の妻にあたるお菊さんに話した。お菊さんは、しばらく考えていたがふと思い立ったように「もしかして」と声を上げた。

「もしかしてだけれど、みたらし団子じゃなくて草団子の方かしら?」
「草団子?」
「あの人、最期に草団子が食べたいと言って……」
「しかし兄上の好物はみたらし団子のはずだが」

兄上は昔からみたらし団子が好物であった。
団子屋にいけば必ずみたらし団子という程にみたらし団子好き。そんな兄上が草団子など想像がつかない。
しかしお菊さんは、それがですねと話し始めた。

「あの人が亡くなる半年ほど前だったかしら。いつもいくお団子屋さんから、草団子を新しく拵えたから試しに食べてくれと言われたんですよ。あの人はみたらし団子以外に顔をしかめていたけれど、お団子屋さんの主人にせがまれて仕方なく食べたら……それが美味しかったらしく。それから時々食べるようになっていたの」

その話は初耳だ。亡くなる半年ほど前といったか。それ以降にも何度も会っているが、俺にはそんなこと一言も言わなかった。俺が買ってきたみたらし団子に対しても「やはりこれだな」と美味しそうに食べていたのを思い出す。

「みたらし団子の方が好きだけれど、時々食べたくなるとあの人言ってたわ。もしかしたらそれのことかもしれないですね」

――兄上、俺の夢に出てきて違うと言われても分かるわけないじゃないか。
草団子が好きになったなんて恥ずかしくて言えなかったのかもしれないが、俺には内緒にしていてお菊さんには……。
兄上の妻に嫉妬するなんてみっともないが、少し悔しいので俺は絶対にみたらし団子しかお供えしないと誓った。






終わり
創作 2024/01/23

1/23/2024, 10:22:19 AM