『巡り会えたら』
身分違いの恋でした。
貴方は一緒に逃げようといって手を引いてくれたけれど、貴方の父上と母上は貴方を引きずって家に連れ戻しましたね。
貴方の婚約者は私に平手打ちをして、見せるけるかのように貴方の隣を歩いていました。
私は、貴方を誑かした女として周りから怪訝な顔をされ、噂をされ……合わせる顔がなくて、近くを通る貴方を見ることが出来ませんでした。たまに貴方を盗み見れば目が合うこともあったけど、私がすぐ目を逸らしてしまうから次第に貴方もこちらを見ることがなくなりましたね。
違うんです。
私のような下民と呼ばれる人間が貴方を見ることは、周りがよく思わないから見てはいけないと目を逸らしていたんです。
決して嫌いになったわけでもないし、貴方への想いは変わっていないのです。
でもそれは逃げでしかなくて、言い訳でしかありませんね。
周りのことなんて気にしないと貴方が手を引いてくれたことも鮮明に記憶しているのに、私がやっぱり気にしていたから貴方は私への気持ちに整理をつけたのでしょう。
婚約者と仲睦まじい姿を見ると酷く胸が痛みますが、仕方のないことだったと割り切るしかないのです。諦めるしかないのです。
頭では分かっていても、私の心はそれを受け入れられないのです。
だからといって、やはり身分違いの貴方に縋ることは険しい道を貴方に背負わせることになる……いえ、もう貴方は整理をつけているから私を拒絶するでしょう。
隠れて恋し合った日々はとても幸せで、私の人生の中で一番の思い出です。
もし、身分など関係ない恋ができる世界に生まれ変わってまた巡り会えたら……今度こそ貴方と生きていきたい。
それが夢なのです。
昭和19年某月某日―― 遺書。
−−−
君は僕の太陽でした。
柔らく控えめに笑う君に恋をした時から、僕は君と共に生きたいと願っていました。
しかし君と僕は身分が違って、僕はそれでも構わないくらい君を慕っているのです。
僕の父上と母上は僕が君と駆け落ちることを見逃しはしませんでした。
ひっそりと逢瀬を重ねていることが明るみになって、僕は君の手を取りました。けれどやはり父上と母上は先回りをして、逃げることが出来なかったのです。
婚約者をあてがわれましたが、僕は君が一番でいつも見ていました。
でも君は僕と目が合うとすぐに顔を逸らしましたね。
わかっているのです。
君が周りから何を言われたかも知っているし、君が目を逸らす理由も。
身分が違ってもいいという気持ちは変わりありません。
でも僕は、君のことを思うからこそ君を諦めなければいけないと思いました。
君が周りから非難の言葉を浴びせられ、君の家族も含めて不安な毎日を過ごすくらいなら、僕は身を引かなければならないと思ったのです。
でも……
僕はそうやって逃げていた恥ずべき男だったのです。
本当は両親や婚約者の手を振り払い、君の側に行くべきでした。不甲斐ない、腹の括れぬ男で申し訳ないと君に謝りたい。
もし、また生まれ変わって君に巡り会えたら……
今度は君の手を離さず何があっても添い遂げたいと思います。
昭和20年某月某日 特攻隊員―― 。
(創作です)
『カレンダー』
朝起きて、壁にかかったカレンダーに✕をつけていく。
こうして✕をつけていくのはもうどれほどだろうか――。
西暦2200年の初夏、中国の山奥に落ちた隕石から発生した謎の病原体。最初の感染は猿と思われた。そこから野生動物の多くに感染し、人へと感染が広がった。
すぐさま、ワクチンの研究が始まったもののその病原体の脅威は凄まじいもので、開発速度を遥かに上回るスピードで変異が始まったのである。
あろうことか、変異した病原体は生物の体内で体の形成を始めた。その形成された物は寄生体の体を中から食い破った。
その姿はグロテスクなモンスター……2000年前後の映画好きの男が「まるで『エイリアン』だ」と口にしたことから、その病原体はエイリアンの種だという認識が世界中に広まった。
有効なワクチンも開発もされず、人類はあっという間に存続の危機を迎える。
そして西暦2210年現在。世界の人口は10年で7割減少し、人々は増え続けるエイリアンから身を守り戦うため各地に基地を作った。
生き残った3割の人類はほぼ全て各地の基地内で生活を余儀なくされた。
アメリカテキサス州に作られた基地で2年前から対エイリアン部隊に配属されたサリアは、✕が並ぶカレンダーを見てため息をついた。
(創作。思いついたので書いたが、終わりそうにない物語が始まりそうだったのでここで終わり〜(笑))
『やりたいこと』
「不正ができるだけないようにするために、日本人の体にチップが埋め込まれて50年経つらしいんすけど……今や文句をつける人はチップがない頃を知ってる老人が主らしいっすよ。若い子たちはむしろそんなこと気にもしてない。でも、俺達それでいいんすかね?」
下町の蕎麦屋は今や少ないが、残っている店は常連客で溢れかえる。
2年以上通い詰めてやっと常連に食い込んだ、田中伝次郎は蕎麦を口にしながら話した。
向かいに座って、同じ蕎麦を食べるのは松永愛弥美。伝次郎の上司だ。
「……田中君は埋め込みチップ反対派?」
「反対とかはないんすけど、じいちゃんが昔は良かったと言ってて。それ聞いたら俺達自由がないっていうか。松永さんはないっすか? じいちゃんばあちゃんに聞いたってこと」
「ないわけじゃないけど、私は別に自由がなくなったとは感じないわね。だって、今の老人が言っていることって悪いことが出来なくなったって言ってることが多いもの。……例えば、チップのおかげで私たちはどこにいても位置情報でわかってしまう。数分おきに記録もされる。また、死亡すれば生体反応消失によってチップの位置情報が役所と警察に送られ死亡通知が届く。チップの記録は遡れるし、全国民のチップ位置記録と照らし合わせて何人もの殺人犯がそれによって特定されているのよ」
「それはわかってますよ。でも、デメリットもあるっすよ。俺達、監視されてるみたいじゃないっすか」
「あら、やましいことでもあるの?」
「そうじゃないっすけど。知られたくない秘密とか……」
ゴニョニョと口を動かす伝次郎に、愛弥美はひらめいたように声をあげた。
「そういうこと……何? 彼女に浮気でもバレた?」
「違いますよ! 浮気なんかしてないっす! ってか、そもそも彼女いないし。……親っすよ」
「親?」
「松永さんとこの前、張込みでホテル行ったじゃないっすか? あのとき、親が居れの位置情報検索したらしくって……帰ったら質問攻めっすよ。捜査情報漏らせないし」
愛弥美は苦虫を噛み潰したような顔をした。
確かにそれは辛いものがある。
「いい年した大人なのに未だに位置情報調べられるんっすよ。ましてや俺刑事なのに、誘拐なんかされねぇっつーの」
「でもチップの位置情報で助かった命がごまんとあるのも事実よ」
「分かってますよ」
店内の古いテレビに、5歳の女の子がチップの位置情報で無事発見されたニュースが流れているのを伝次郎は目にする。
「今後は犯罪をした瞬間にチップから警察にデータが送られるようになるって噂もあるみたいよ」
「それはあと何年かかるんすかね」
「さぁね。でも――」
「どうしたんっすか?」
「警部からメッセージきたわ。いつまで蕎麦屋で食ってんだって」
「自由って……」
「サボってるわけじゃないもの。でもそろそろ行かなきゃね」
会計機は今やセルフが主流だ。チップ1つで会計もできる。
「田中君、経費で落とすからチップスキャンするね。上むいて」
伝次郎が上を向くと、顎の下に小さな黒い点が愛弥美の目に写った。そこにスキャナーをかざすと、会計機がピロンと音を立てる。
「松永さんのチップ俺やるっす」
「お願い」
愛弥美は松永にスキャナーを渡すと、後ろを向いて右耳を思いっきり顔側に折りたたんだ。
耳の後ろに黒い点があり、伝次郎はそこにスキャナーを当てた。
会計機がまたも音をたてる。
愛弥美がササッと操作すると、あっという間に会計が済んだ。
「これだってチップのおかげよ」
「……何も言ってないじゃないっすか」
「目が言ってたわ」
「まぁ便利っすよね。警視庁にここから領収証が送信されるんっすから」
蕎麦家を後にして二人は仕事に戻った。
っていうような話を書きたいのだけど、現代では創作も批判されそうな感じがするでしょう?
サザエさんだって昭和の舞台がアニメなのに現代の家族と違う、専業主婦なんて!って言われるんだから。
でも書きたくなる。これが私の『やりたいこと』
2024/06/11 (創作→本音)
『狭い部屋』
よく、〇〇しないと出られない部屋。という創作話を目にする。しかしこの部屋はそれっぽくてそれとは違うのだとすぐに分かった。
ドアや窓は開かないが、とにかく狭い。縦3m、幅2mくらいだろうか。そこに今、俺は一人で閉じ込められている。
狭い部屋からどうやったら抜け出せるかヒントもない。
このままじわじわ2mくらいしかない天井でさえ迫ってくるんじゃないかとヒヤヒヤする。
そしてとにかく熱いのだ。灼熱の夏というような気温に、俺の全身からは汗が吹き出てベタベタとして不快だ。
――何かが変だと感覚がそう告げている。
突然襲われたその感覚に、俺は思いっきり自分の頬をぶった。
痛くない。
そう確信したとき、これは夢だと悟った。
しかしこの夢から覚めるにはどうしたらいいか分からなかった。
終わりがわからないこの状況に恐怖感が増す。
(2024/06/05 創作)
ちょっと書く時間がないので中途半端で終わります(笑)
『また明日』
また明日。
その言葉の約束が果たされる保障なんてどこにもない。
明日が来る前に命を落とすかもしれないし、明日が来る前に世界自体が消えるかもしれない。
それでも明日を迎えられると当たり前のように思っていて過ごす自分達は、愚か者にすぎない。
「なに、小説の一節みたいなこと言ってんのよ!」
「いや真澄、それは違う。こいつのは厨二病だ。妄想に取り憑かれてる」
「どっちでもいいわよ。小説だって妄想の一種みたいなところあるし」
匠と真澄と俺は幼馴染ではあるが、中学に入って思うことがある。もし幼馴染ではなければ絶対友だちになれなかったということだ。
ギャルに変貌した真澄に、ますますガリ勉博識野郎になった匠。そして冴えない馬鹿な俺。
幼馴染じゃなければ混じり合うことがなかっただろう。
「遼太郎、さっきから本当に小説の一節みたいなこと言うよね……」
ちなみに今まで語ったことは思っていることじゃない。俺が口に出した事だ。
故に真澄がツッコミを入れているのだが……。
「遼太郎は最近そういう言い回しにはまってるんだ。真澄、邪魔をしてやるな」
「匠もちょっと似たような感じだけどね……いつか黒歴史になるよあんた達」
「それも青春だ」
確かに青春だ。
話を戻して「また明日」なんて本来は約束できない言葉だ。それなのに俺達は毎日家に帰る時には「また明日」と呪文のように言い合う。
でももしこの約束が果たされなかったとき。怒ったり、時には泣いたりして「約束したじゃないか」と叫ぶのだろうか。
「そこまで気にしてたら人生ストレスだらけよ」
「確かに真澄の言うとおりだな。それに気にしてたら何も出来やしない」
一理ある話だ。
しかし、約束を破るというのはいささかいい気はしないのではないか。
「あーもう! あんたの話聞いてるとストレスだわ! 私帰るね! ”また明日”!!」
「……」
……。
わざわざ強調して言うこともないだろうに。
「俺も帰る。明後日の試験の勉強の追い込みをしたい」
明後日なんて来るのだろうか。
「来ても来なくても今やるのは来たときの為……それでいいんじゃないか。じゃあ”また明日”」
…………。
匠の言うとおりだ。
明日が来る保障はない。けれど来ない保障もない。
勉強嫌だなぁ……
(創作 2024/05/22)