川瀬りん

Open App
10/17/2023, 12:09:28 PM

『忘れたくても忘れられない』



「忘れたくても忘れられない出来事は誰しもあると思います。皆、話してみて」


心理カウンセラーのケイトの言葉で、自分の心の内を一人また一人と語り出した。
理不尽に叱られた怒りや、誤解されて誤解を解いたのに謝ってもらえなかった燻り、子供の頃にやらかしてしまった失態への恥ずかしさ……多くの人が負の感情を表す中、私は逆のことを語った。

――私には忘れたくても忘れられない人がいる。
それは若い頃にとても愛した人。苦しくなるくらいに愛したけど、その恋は叶わなかった。
二人でおじいちゃんおばあちゃんになるまで生きようねと語り合った十代の頃、何でも出来ると錯覚した。
親の権力がなんだ、身分違いがなんだと二人で駆け落ちしようと決めた。
しかし、やっぱりそう簡単ではなかった。
色々あって、彼は親の決めた相手と結婚をした。
「離れても君だけを愛している」
そう別れ際に伝られた言葉だけが拠り所だった。

でも、数年ぶりに見かけた彼は無理矢理結婚された奥さんと笑い合い、3人の子供の父親になっていた。
お腹の大きい奥さんは4人目を妊娠中だった。
彼に声をかけることは出来なかった。
私の事を愛しているといったのに、私のことはきっともう忘れているというくらいに幸せそうだった。
もう、彼の心は私にないのだと知った。

走って家に帰って沢山泣いた。
心が張り裂けそうになる中で、辛くて自ら命を絶ちたいとも思った。
でも出来なかった。
次の日は目が腫れがあったまま仕事にでた。


「恨みはないの?」


同じカウンセリングに出ていたエドが聞いてきた。
私は淡々と答える。


「最初は嫌だったわ。でも恨む程じゃなかった」


エドはそうかというように頷いた。
私は話を続ける。

――恨みはないけど、悲しかった。辛かった。
だって彼をまだ愛していたから。
でも時間とともに自分の中で納得するようになった。
仕方のないことだったのだと。
結局、私は誰とも結婚出来ないままこの歳になった。
彼のことは忘れたくても忘れられない。


「それじゃあ今日はこの辺で解散しましょう」


話し終えると丁度カウンセリングの時間が終わり、ケイトが解散を口にした。
皆が立ち上がって部屋を出る中、私は車椅子を動かしケイトに近づいた。


「ケイト、ちょっと良いかしら」
「はい、どうしました?テイラーさん」
「さっきの私の話なのだけど」
「あぁ、大丈夫ですよ。その……何もトラウマだけが皆さんの心理カウンセリングの必要条件ではないので。思い出話でも問題ないです」
「いえ、そうではないの」

私は、ケイトの腕を掴んだ。

「テイラーさん?」
「ケイト、ジョセフ・ハンスさんは元気?」
「え?」

ケイトは驚いた顔をした。

「ジョセフ・ハンスよ」
「……テイラーさん、私の祖父を知っているの?」


ケイトの腕を引っ張った。


「っ!?」


ひざ掛けに隠していた刃物をケイトの腹に刺した。
感触、伝わってくる熱い血液。何もかもが憎かった。


「テ、イラー……さん。何を……」
「ジョセフは私の生涯愛した人。彼に恨みはないけど、彼の奥さんは憎いわ。そして彼を奪ったあなた達もよ」


刃物を抜くと、ケイトは口をパクパクさせながら倒れる。
声にならないようで何を言っているのかはわからない。


「ケイト、私がなぜ心理カウンセリングに来たか知ってる?貴女がいたからよ。彼の奥さんの血を引く存在をやっと見つけたんだからね」
「っ、ぁ」
「何を言いたいのかわからないけど、消えて頂戴」


静かなカウンセリング室になった。
刃物をひざ掛けの中に入れ、動かなくなったケイトを置いて私は部屋を出た。

彼は私の愛する人。
忘れたくても忘れられない人。
彼だけ、私の心には彼だけなのよ。






創作 2023/10/17

10/15/2023, 1:03:28 PM

『鋭い眼差し』


見ないで
見ないで
そんな目で見ないで

全てを射抜くように
何もかも見透かすように
全知全能かのように

そんな目で
見ないで
見ないで

鋭く刺すような眼を
私に向けないで






創作・詩風 2023/10/15

10/7/2023, 3:19:27 AM

『過ぎた日を想う』



楽しかったあの頃のような充実さが今はない。
あの時ああすれば良かったと後悔しても、結果論なんていくらでも語れる。
しかし人生の選択肢と判断が、正解だったか失敗だったかなんて分かるはずもない。

今この時の先行きの見えない不安、このままじゃ老後に一人になることは分かりきっている孤独、どうしたらいいか考えてもわからない迷い。
そして将来どうなりたいのかもわからない空っぽな自分。

目先のことばかりで、苦しい思い怒る思いをする日々の繰り返し。ただただ死への恐怖を回避する為だけに生きている。
生きるための行動しかしていないのである。

昔に戻って人生の選択肢を変えたとしても、今よりもっと最悪な展開だったかもしれない。
今が一番マシな選択肢だったかもしれない。
そう思おうとしても、結局は今楽しめてめず自分でもわからない人生が無意味に感じてしまうのである。

だから趣味や楽しいことをして何も気にしてなかった子供の頃が羨ましい。もちろん嫌なこともあったし、二度とやりたくないこともある。
わがまま言えば、その嫌なことを全て排除した好きなことが出来る時間だけが永遠に続けばいいのに。

そうやって絶対に得ることのできない過ぎた日を想い、現実逃避をして前を向けない私は一生を無駄に過ごすのだろう。




ノンフィクション(私の想い) 2023/10/07

9/21/2023, 1:28:39 PM

『秋恋』


さつまいも、栗、パンプキン。
秋には美味しい食べ物が沢山ある。
雲模様、紅葉、涼やかな虫の声。
秋には綺麗な自然が沢山ある。
読書、スポーツ。
秋には過ごしやすい中やることが沢山ある。

他の季節もないわけじゃないけど、私はそんな秋に恋している。




創作+ノンフィクション 2023/09/21

9/18/2023, 9:48:10 AM

『花畑』
(ホラー)


満開の花畑なのに人っ子一人いないことに、カメラマンの小木は首を傾げた。

「こんなキレイな花畑、観光スポットになりそうなのになぁ。まぁ良いか、独り占めだ」

じっくり撮影出来ると思って、カメラを構える。
パシャパシャとしゃがみ込んで何枚も花を撮影していると、ふと隣に気配を感じた。
小木はカメラから目を離し、視線をやると一人の可愛らしい少女が大きな瞳でじっと見つめていた。

「っ……」

誰もいないと思っていたので少し小木の心臓が跳ねた。
10歳前後に見える少女は、白っぽいが水色が混じったような色のワンピースに大きなつばの付いた帽子を被っている。

「何してるの?」

少女が口を開く。

「……何って写真撮ってるんだけど」

見れば分かるじゃないかと思いつつ小木が答えると、少女はふーんとその場でくるりと回った。

「私も撮ってよ」
「え?」
「撮って撮って撮って!」

愛らしい顔を向けてくる少女の純粋な表情に、小木はカメラを向けた。

「人物は専門じゃないんだけど……」

2〜3枚撮ったがどれもモデルのように出来た笑顔を見せている。
少女に写真を見せると、とても嬉しそうに笑い

「ありがとう! また撮ってね!」

と少女は走り去っていった。

「なんだったんだ……」


――
その夜、小木はホテルにて今日撮った写真を見返そうとカメラのスイッチを入れた。

「は?」

そこに写っていた光景に小木は戸惑いを隠せない。
なぜならあんなにあった無数の美しい花が、枯れているのだ。
小木は確かに花畑にいき花を撮った。しかし枯れた草木しか写っていない写真に心臓のバクバクがとまらない。

「ぅわぁあっ」

震える指を動かし写真をチェックしていると、小木は突然声をあげてカメラを放り投げた。

何なんだ何なんだ!?
カメラの液晶画面には、あの可愛らしい少女などではなく顔が真っ白で目が真っ黒の何かが映し出されていた。

「何なんだよこれ!」

撮ったはずの花畑は枯れた草木に。可愛らしい少女は世にもおぞましい姿に。
自分は幻を見ていたのか?そんなことがあるのか?
小木がパニックになっていると、ふと背後に気配がした。

「……っ」

振り向けない。
逃げないと!
そう思ったときだ。

「ねぇ、撮ってよ」

あの少女の声が耳元で聴こえた。




創作 2023/09/18
(よくありそうな話)

Next