川瀬りん

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『花畑』
(ホラー)


満開の花畑なのに人っ子一人いないことに、カメラマンの小木は首を傾げた。

「こんなキレイな花畑、観光スポットになりそうなのになぁ。まぁ良いか、独り占めだ」

じっくり撮影出来ると思って、カメラを構える。
パシャパシャとしゃがみ込んで何枚も花を撮影していると、ふと隣に気配を感じた。
小木はカメラから目を離し、視線をやると一人の可愛らしい少女が大きな瞳でじっと見つめていた。

「っ……」

誰もいないと思っていたので少し小木の心臓が跳ねた。
10歳前後に見える少女は、白っぽいが水色が混じったような色のワンピースに大きなつばの付いた帽子を被っている。

「何してるの?」

少女が口を開く。

「……何って写真撮ってるんだけど」

見れば分かるじゃないかと思いつつ小木が答えると、少女はふーんとその場でくるりと回った。

「私も撮ってよ」
「え?」
「撮って撮って撮って!」

愛らしい顔を向けてくる少女の純粋な表情に、小木はカメラを向けた。

「人物は専門じゃないんだけど……」

2〜3枚撮ったがどれもモデルのように出来た笑顔を見せている。
少女に写真を見せると、とても嬉しそうに笑い

「ありがとう! また撮ってね!」

と少女は走り去っていった。

「なんだったんだ……」


――
その夜、小木はホテルにて今日撮った写真を見返そうとカメラのスイッチを入れた。

「は?」

そこに写っていた光景に小木は戸惑いを隠せない。
なぜならあんなにあった無数の美しい花が、枯れているのだ。
小木は確かに花畑にいき花を撮った。しかし枯れた草木しか写っていない写真に心臓のバクバクがとまらない。

「ぅわぁあっ」

震える指を動かし写真をチェックしていると、小木は突然声をあげてカメラを放り投げた。

何なんだ何なんだ!?
カメラの液晶画面には、あの可愛らしい少女などではなく顔が真っ白で目が真っ黒の何かが映し出されていた。

「何なんだよこれ!」

撮ったはずの花畑は枯れた草木に。可愛らしい少女は世にもおぞましい姿に。
自分は幻を見ていたのか?そんなことがあるのか?
小木がパニックになっていると、ふと背後に気配がした。

「……っ」

振り向けない。
逃げないと!
そう思ったときだ。

「ねぇ、撮ってよ」

あの少女の声が耳元で聴こえた。




創作 2023/09/18
(よくありそうな話)

9/18/2023, 9:48:10 AM