川瀬りん

Open App
9/15/2023, 2:57:23 PM

『君からのLINE』
(※ホラー要素注意)


[トイレの電気点けっぱなし]

ある日突然、そんなメッセージがLINEで届いた。
思わず、えっと声を出し固まってしまった。
普段なら気味が悪いから速攻ブロックするが、トイレの電気が本当に点けっぱなしになっていたから無視が出来なったのだ。
だって家の状況を知っているなんて逃げ場がないじゃない。

[誰ですか?]

そう文字を打って送信するとすぐに既読がついて、数秒後に返事が来た。

[俺は翔。そうだな、信じられないだろうけどこの家に住む幽霊かな]

何を言っているんだ?
ますます気持ち悪い答えに私は眉間にシワを寄せてしまう。

[通報します]
[いやいや待って!聞いて!]

何を聞けというのだろうか。

[今まで色々おかしなことあったでしょ?それ俺の仕業なんだよ。色々気づいてほしくてやってたけど、君は気付かないから頑張って言葉を伝えるスキルを身に着けたんだ]

そんな訳わからない事言われて納得できるわけがない。
どう返すべきか悩んでいると再度メッセージが来る。

[音とか出してたし物とかも移動してたでしょ?君は怖いと言って友達に電話とかしてたみたいだけど、ごめん俺なんだ。俺は昔ここに住んでて、死んじゃったんだけどここから離れられなくて。でも悪いことはしないから!今回もほら!トイレの電気教えられたから電気代勿体ないってならなかったでしょ?]

確かにポルターガイスト現象的なものはこの部屋で起こっていた。
事故物件とも聞いてなかったし、どうしたものかと悩んでいた矢先だ。

[でも貴方は男でしょ?嫌なんですけど]
[それは、ごめん。でも覗きとかはしないから!]
[どうだか]
[お願いだから通報しないで。こうしてメッセージを送れるようになったんだから助けてあげるからさ]
[結構です]
[そう言わずに!]

押し問答の結果、私は翔と名乗る幽霊をそのままにすることにした。
――それから実際、やり取りをしていると助かったことがいくつもあった。
テレビを見ていて洗濯の出来上がり音に気づかなかった時も教えてくれたし、お風呂に入るのに収納ケースからタオルを取り忘れたら教えてくれた。
留守中に家に誰か来たら教えてくれるし、なんだかアシスタントを持ったみたいだった。
ただ時折、買っておいたパンがなくなるとかあったけど翔は[幽霊も食べなきゃやってられないこともある]と言われた。

そうして数ヶ月過ごしたが、それは突然訪れた。
独り暮らしの私を心配して訪ねてきた両親。私は留守にしていたので合鍵使って入ってもらったのだが、父から
[不審な男がお前の部屋にいる]とメッセージが送られてきた。
急いで帰ると、無精髭を生やし髪がボサボサの男が警察に連れて行かれるところだった。
一瞬目があった気がしたが、既にパトカーの中。
警察官から話をされるのを聞きながら、ゾッとした。

翔からのLINEはそれ以来ない。




創作 2023/09/15

9/14/2023, 11:41:38 AM

『命が燃え尽きるまで』


生まれてみれば、もう幾らかは涼しい時分であった。
土から孵り時間をかけて高いところへと登り、思いっきり鳴くものの
もう既に時は遅い。
他の仲間はとうの昔に番を見つけ、土の中に子孫を残したあとだ。
日が暮れる前に声を張り上げても、仲間の声はせず次の季節の声が聴こえるだけ。

出遅れた蝉の独唱ほど寂しい夏の終わりはないだろう。

しかし、もしかしたら一匹でも番になれる命が残っているかもしれない。
どこかで同じように探しているかもしれない。

少ない生、その命が燃え尽きるまで諦めないでおくれ。



ノンフィクション 2023/09/14
(ミンミンゼミが一匹だけ鳴いていた日暮れ前)

9/13/2023, 10:15:53 AM

『夜明け前』


夜明けの前の景色はとても良い。
日は昇ってないが真っ暗闇でもない。
朝の匂い、これから始まる予感、静かな空気――。

本当は窓からその夜明け前を堪能したいが
起きれない私は、SNSで夜明け前の写真を検索して見る。
写真越しでもあの夜明け前の光景は私の心を震わせ動かしていく。

この気持ちがわかる人が他にいるだろうか。

言葉では表せないあの高揚感を私は夜明け前の景色に感じている。




ノンフィクション 2023/09/13
(夜明け前の景色への思い入れを語りました)

9/8/2023, 2:00:34 PM

『胸の鼓動』


胸の鼓動と聞いて真っ先に思い浮かんだのは恋であった。
しかし、考えてみれば何も恋だけではない。
驚いたとき、不安なとき、走ったとき、苦しいとき――。
心臓は激しく動き、その鼓動をこの身で感じる。

だけどそのどんなときでも必ず付き纏うのは、
「今にも心臓が止まってしまうのではないか」
という思いだ。
電池が入ってるわけでもなければ、充電式でもない。
生まれてこの方、自分の体の中で自然に動いている。

この鼓動は何だ?
なぜ鼓動が聴こえる?
なぜ動いていられるんだ?

こんなに激しく動いて、この心臓は止まらないのだろうか?
激しく動いて酷使し続けていれば人より早く止まってしまうのではないか?
この心臓の音が、明日もあるなんて保障などどこにもないのではないか?

様々な思いが頭をよぎるが、それは全て死への恐怖なのかもしれない。




ノンフィクション+創作加味 2023/09/08
(どんなときでも付き纏うという部分が創作。実際は毎回じゃないけど、時々思うことです)

9/7/2023, 11:49:08 AM

『踊るように』


「まるで踊っているようだ」

呟いたはずの言葉は思いの外、大きかった。
文机でさらさらと筆を滑らせていた先生が、何を言っているんだというような目を向けてくる。

「あ……その……すみません。先生の筆が踊っているように見えたので」

なんでもありませんと言うつもりだったのに、先生の視線には勝てなかった。
踊っているよう、と表現した訳を話すと先生はそっと筆を置いて体をこちらに向けた。

「踊るなんて初めて言われました。具体的にお聞きしたいです」
「え、あの……それは」

まるで責められているかのように感じた。
そんなことを聞かれるなんて思っていなかったから。
何となく焦りはしたが、咄嗟に誤魔化しが思いつかなかったのでもう素直に答えることにした。

「先生の筆の動きが大きかったり小さかったり、早くなったり遅くなったり……時折止まったり……そういう動きが何だか踊っているように見えたのです」

別に先生だけではない。筆を使う時はそうなることが多いので、当たり前のことではある。
しかし先生の筆の動かし方は美しく、落ち着いていて優しく紙の上で自由に踊っている気がしたのだ。
それを包み隠さず伝えると、先生は一瞬だけ驚いたような表情をした。
そして再び文机に向い、筆を手にする。

「嬉しいお言葉です。しかしそこまで見られたと分かると、少々恥ずかしいので……あまり見ないでください」

先生の横顔は少し照れくさそうな顔だった。




創作 2023/09/07

Next