川瀬りん

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『命が燃え尽きるまで』


生まれてみれば、もう幾らかは涼しい時分であった。
土から孵り時間をかけて高いところへと登り、思いっきり鳴くものの
もう既に時は遅い。
他の仲間はとうの昔に番を見つけ、土の中に子孫を残したあとだ。
日が暮れる前に声を張り上げても、仲間の声はせず次の季節の声が聴こえるだけ。

出遅れた蝉の独唱ほど寂しい夏の終わりはないだろう。

しかし、もしかしたら一匹でも番になれる命が残っているかもしれない。
どこかで同じように探しているかもしれない。

少ない生、その命が燃え尽きるまで諦めないでおくれ。



ノンフィクション 2023/09/14
(ミンミンゼミが一匹だけ鳴いていた日暮れ前)

9/14/2023, 11:41:38 AM