美佐野

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1/11/2026, 11:22:51 AM

(寒さが身に染みて)(二次創作)

 牧場主ピートには、月山の大工が掲げているメニュー表のうち、ひとつだけ気になっている項目があった。
「階段」である。
 台所やデッキテラスは判りやすい。ポプリと結婚してまもなく、子供用ベッドも依頼した。だが階段とは何なのだ。どこに何のために作るのか。考えれば考えるほど、判らなくなった。
 ある日、意を決して大工に尋ねてみた。
「あの……階段って、何なんですか?」
 すると大工は、さも当たり前のように言った。
「屋根に上がるためのやつだよ。あると便利だ」
 何がどう便利なのかは教えてもらえなかったが、結局他のメニューに比べお手頃価格なのもあり、結局ピートはそれを注文した。
 数日後、リビングの隅に、屋根へ続く階段が設置された。それは確かに階段だった。実物を前にして、ピートは吹き出した。確かに屋根に登るための階段だった。大工の言う通りだ。
 真価が判ったのは更に数日後の夜だ。ふと、気が向いて試しに階段を上ってみる。屋根の上は思っていたより広かった。寒さが身に染みる気温の中、暗くて見えない地面から顔を背けるように上を見上げると、夜空が近くこちらを驚かせる。
「綺麗だな」
 思わず呟いてから、ピートははっとして家の中に声を掛けた。
「ポプリ、ちょっと来てくれない?」
 ポプリは不思議そうにしながらも階段を上り、屋根に出た瞬間、目を見開いた。
「わあ……」
「綺麗な星空だよね」
 二人は並んで腰を下ろした。星の数から始まり、最近の牧場のこと、遠くを旅するバジルの話まで、取り留めもないことを、ゆっくりと語り合っていく。昼間は忙しくて、こんなふうに話す時間もなかなか取れない。
「階段、頼んでよかったね」
「何に使うか、よく判ってなかったんだけどな」
 正直に白状すると、ポプリはくすっと笑った。
 静かな夜、肩が触れる距離で、同じ空を見る。こんなに素敵な使い道があるなら、もっと早く階段を作っておけばよかったと少しだけ後悔する。それだけ良い買い物だった。

1/10/2026, 7:11:49 PM

(20歳)(二次創作)
あとでかく

1/6/2026, 8:27:07 PM

(君と一緒に)(二次創作)
あとでかく

1/5/2026, 10:11:18 PM

(冬晴れ)(二次創作)


 冬になると、マザーズ・ヒル中腹の泉は一面凍り付く。泉の中央にある小島は地下が採掘場となっており、宝石を求める者たちには最適なスポットなので、凍り付いて渡れるようになること自体は広く知られていた。一つ大きな変更点があるとしたら――氷の中に、パンツが閉じ込められていたのだ。
「いや、パンツって」
 第一発見者はグレイだ。よく晴れた冬の朝、上質な宝石を採りに、いの一番に凍った泉に駆け付けたらこれである。
「いや、パンツって」
 思わず2回呟いてしまった。それだけ異様なのだ。氷の中にパンツがあるなんて。
 不幸中の幸いは、それが女物では無かったことか。もしスケスケやフリフリやセクシーだった場合、グレイの命は無かった。おそらくメイビー。
 捨てる神あれば拾う神ありという。今日の場合、それは牧場主ユウトだった。
 おおよそ冬の山に登るとは思えないほどの軽装だが、背中には籠を背負っていた。採掘場で出た宝石を片端から入れるつもりだろうか。ユウトは、凍り付いた泉の前にいたグレイに気付くと、その視線を追って氷の中のパンツにも気付いた。
「あ、それ、僕のだ」
「僕のだ!?」
 きゅうりの総柄という作り手のセンスも買い手の脳内も疑いたくなるようなデザインのそれは、ユウトのものだった。曰く、春から秋にかけてよく泉に飛び込んでいたのだが、しょっちゅう溺れかけておりその度にパンツを失っていた。それが浮かび上がり凍り付いたのだろう、とユウトは結論付けた。
「さすがに冬はダイビングできないしなあ」
 そう呟くユウトは少し寂し気である。いかにも特別な事情がありますと言わんばかりだが、それ以上の追求はしないでおく。氷漬けのパンツは1枚ではない。何枚もパンツを失くしても飛び込む男がまともな感性をしているとは思えない。
「かっぱに会いたいなぁ」
 ――たとえ、気になり過ぎる独り言を耳にしたとしても。

1/4/2026, 11:58:27 AM

(幸せとは)(二次創作)

 長かった冬が終わり、春がやってきた。
 この牧場に来るまでは、ピートにとって春はただの季節の一つでしかなかった。学校を出て、何となくダラダラと過ごしていた当時の自分は、季節を気にすることもなく生きていた。それが今や、春の訪れが嬉しくて仕方がない。
「ふふ、今にでも飛び出してしまいそう」
 妻のイヴが、可笑しそうに目を細めた。
 今年の春は、ジャガイモを主軸に育てるつもりだ。ここに来てすぐの頃は、よく判らずに耕してない地面に種を蒔き、無駄にした。今は違う。蒔ける土とそうでない土の違いは判るし、密集させすぎて発芽した後にじょうろの水が届かないなんてヘマはしない。
「イヴは何するの?子供達なら、畑の近くで遊ばせとけばいいし」
「私はまずは、甕の確認かしら」
 イヴと結婚したのは2年前の夏の終わりだ。牧場に来てすぐに、彼女に出会い一目惚れした。一緒になってそろそろ2年経つが、今でも家に帰って彼女がいると、ちょっとびっくりしてしまう自分がいる。不思議なものだ。
 約束通り子供達を近くで遊ばせながら、ピートは鍬を振るっていった。秋も冬も作物が育たないこの地域では、土仕事は本当に久しぶりだ。たまに、耕した土を足で踏みならして遊んでいる子供達を捕まえたりしながら、夕方にはジャガイモ畑が完成していた。
「うーん、我ながら完璧」
 ひと足先に帰った子供達を追うように自宅に戻る。いい匂いが漂い腹の虫が鳴いた。これが幸せなんだろうな、と思う。人生修行だなんて言われてここに放り込まれた日からは、到底想像できなかった未来だった。
(そう言えば、親父たちが様子を見に来るって言ってたな)
 牧場はもちろんだが、結婚して孫までいるなんて、知ったらきっと開いた口が塞がらないはず。母親は涙ぐんでしまうかもしれない。その様子を想像して、少し楽しみになるピートだった。

 

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