(良いお年を)(二次創作)
今年も残すところあと数日だ。
年始早々に先代の皇帝が退位し、次の皇帝に即位してからというもの、リチャードは目まぐるしい時間を過ごしてきた。そもそも先代の退位は、人魚の踊り子との駆け落ちによるもの。挙句いろいろ走り回っていた軽装帝国軽装歩兵の自分にお鉢が回ってくるとは、とリチャードは思っていた。
(移動湖の遺跡でノエルと話を付け、武装商船団の反乱を抑えて――)
自慢ではないが、あまり頭の良い方ではない自分が、よくぞこれだけの成果を残せたものだと思う。陛下、と呼ばれて顔を上げると、護衛兼側近でもあるマゼランがニヤニヤと笑っていた。
「まーた一人で難しい顔をして。そろそろ今年も終わりですよ?」
「む、そうだったか」
「アンタが部屋に戻らないと、他の連中も帰れないでしょう」
今日は朝から玉座に座り、臣下たちの年末の挨拶を受けていた。臣下以外にも、帝国を助けてくれる様々な種族、人種の代表者たちも挨拶に訪れている。だがそのすべては終わり、あとは文官たちが皇帝が去る時まで静かに近くに控えているだけとなっていた。
「……私も失礼しよう」
リチャードが立ち上がると、マゼランもそれに続く。
「そう来なくちゃな」
そのまま当たり前のように、マゼランは皇帝の私室前までついてきた。途中、すれ違う侍従や家臣たちも、怪訝に思ったり指摘する素振りもない。リチャードはその様子を背後に感じていた。それぐらい、マゼランは公私ともに当代皇帝の傍にいる。武装商船団の反乱について第一報が入った時、誰もがそれを疑うぐらいには。
「さて、流石の俺もここまでですね」
マゼランは、部屋の前で止まると、慇懃に見える礼をする。リチャードはわざとらしさに笑いながらも、鷹揚に頷いた。
「今年は特にお前には世話になったな」
「勿体ないお言葉です」
リチャードはマゼランを気に入っている。来年の今頃は、もしかしたら二人で部屋に入るかもなと思いながら、一人笑いながら部屋のドアをくぐった。
(星に包まれて)(二次創作)
ピートが荒れ果てた牧場に来て、3年と半年が経った。
その夜、ピートは一人で裏山の山頂にいた。3年半前、初めてこの地に足を踏み入れた朝のことは、今でもよく覚えている。たった一人でこんな広い土地をどう切り盛りしていいのか、途方に暮れた。だがすぐに出荷業者の青年が街に連れていってくれ、皆の歓迎を受けて少しだけ安心したのだ。
(まずはカブを育てたんだっけ)
最初は畑9枚を耕すだけでへとへとになったものだ。それに、芽吹いたら中央の苗にはじょうろの水やりが届かないことも知らなかった。その分、雨の日は最高な気分だった。
(鶏を飼って、家を大きくして……)
秋と冬は、鶏の卵だけでは資金が心もとなく、裏山のキノコや洞窟の薬草を必死に集めたっけ。そうこうしているうちに、季節が廻り、最愛の人と結婚し、そして――。
「あなた」
妻の声に振り返る。桃色の髪がふわりと揺れた。花屋の娘ニーナ。ピートの最愛の人。
「お父さんに認められて、よかったね」
「うん」
今日は両親が牧場の様子を見に来る日だった。もし父に認められなければ、牧場から放り出されていただろう。妻と、まだ幼い息子を残して。だが父はピートを認め、ピートの家族を祝福し受け入れてくれた。
ふと空を見上げる。満天の星空は、別世界のようにも見えた。と、ピートの隣まで歩みを進めたニーナが、ぴとりと身を寄せてくる。そっと抱き寄せて、二人で星空を見上げた。星に包まれて、二人きりの時間が流れる。これまでの牧場生活で、いいことはたくさんあったけれど、一番は彼女と一緒になれたことだ、とピートは思っている。すると不思議なことに、ニーナもこちらの目を見つめて、ぽつりと呟くのだ。
「幸せよ、あなた」
「うん、僕も」
今頃家では両親が子供たちを寝かし付けているころだろうか。子供たちに良い夢がありますようにと願った瞬間、応えるかのように星が一つ流れ落ちた。
(静かな終わり)(二次創作)
あとでかく
(心の旅路)(あとでかく)
二次創作
(凍てつく鏡)(二次創作)
思い切って肥料撒き機を買った。「今更?」などと不躾な感想を述べたロックは心の中で簀巻きにした。いくら無尽蔵の体力を誇る牧場主シオンとて、寄る年波には抗えないのだ。
(随分、遠いところまで来たなぁ)
冬を待つばかりとなったアンバーの月10日、凍てつく鏡に映る自分を見る。髪はすっかり色褪せてシルバーに近い色、顔には幾つもの皺。一方、一緒に暮らしている穀潰しはというと、大きい子供がいるとは思えないぐらい若々しい。
(あいつ働かないで遊んでばかりだもんな。この年になっても)
どこからか拾ってきた捨て子も今や立派な若者になり、ロックより余程牧場仕事を手伝ってくれる。将来は芸術家になりたいらしく、ゴーディの元に頻繁に通ってはいるが、ゴーディがいるからこそ谷で生きる意思も強く、片手間だが牧場自体は継いでくれるらしい。
「いやぁ、ゴーディいなかったら絶対あいつ谷から出てたよね」
いつの間にかロックがいて、能天気に鏡を覗き込んでくる。本当に、自分と同年代とは思えないぐらいの風貌に、一周回って腹が立ってきた。
とはいえ、昔に比べればロックも随分早起きになった。そして聞くところによると、昼間も谷のあちこちで昼寝をしているらしい。体力の貧弱なことだ。
「さて、と」
シオンは鏡に布を掛けると外に出る。季節の変わり目を前に、畑で出来る仕事は少ない。家畜たちを放牧して、搾乳や毛刈りを終わらせれば、最低限やることは終わりだ。今日は気分もいいから、喫茶店あたりまで足を伸ばそうか。
(ロックがいそうな気もするけど)
恋愛感情はお互いなく、友情も然程無いのだが、なんとなく一緒に暮らし始め、なんとなく拾った赤子を育て上げ、今に至る。まあそれでも悪い人生では無かった。
「一雨、来そうだな」
そしてそれは、夜更けすぎに雪へと変わるだろう。インディゴの月は、もう目と鼻の先だ。