美佐野

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(良いお年を)(二次創作)

 今年も残すところあと数日だ。
 年始早々に先代の皇帝が退位し、次の皇帝に即位してからというもの、リチャードは目まぐるしい時間を過ごしてきた。そもそも先代の退位は、人魚の踊り子との駆け落ちによるもの。挙句いろいろ走り回っていた軽装帝国軽装歩兵の自分にお鉢が回ってくるとは、とリチャードは思っていた。
(移動湖の遺跡でノエルと話を付け、武装商船団の反乱を抑えて――)
 自慢ではないが、あまり頭の良い方ではない自分が、よくぞこれだけの成果を残せたものだと思う。陛下、と呼ばれて顔を上げると、護衛兼側近でもあるマゼランがニヤニヤと笑っていた。
「まーた一人で難しい顔をして。そろそろ今年も終わりですよ?」
「む、そうだったか」
「アンタが部屋に戻らないと、他の連中も帰れないでしょう」
 今日は朝から玉座に座り、臣下たちの年末の挨拶を受けていた。臣下以外にも、帝国を助けてくれる様々な種族、人種の代表者たちも挨拶に訪れている。だがそのすべては終わり、あとは文官たちが皇帝が去る時まで静かに近くに控えているだけとなっていた。
「……私も失礼しよう」
 リチャードが立ち上がると、マゼランもそれに続く。
「そう来なくちゃな」
 そのまま当たり前のように、マゼランは皇帝の私室前までついてきた。途中、すれ違う侍従や家臣たちも、怪訝に思ったり指摘する素振りもない。リチャードはその様子を背後に感じていた。それぐらい、マゼランは公私ともに当代皇帝の傍にいる。武装商船団の反乱について第一報が入った時、誰もがそれを疑うぐらいには。
「さて、流石の俺もここまでですね」
 マゼランは、部屋の前で止まると、慇懃に見える礼をする。リチャードはわざとらしさに笑いながらも、鷹揚に頷いた。
「今年は特にお前には世話になったな」
「勿体ないお言葉です」
 リチャードはマゼランを気に入っている。来年の今頃は、もしかしたら二人で部屋に入るかもなと思いながら、一人笑いながら部屋のドアをくぐった。

12/31/2025, 1:40:35 PM