(寒さが身に染みて)(二次創作)
牧場主ピートには、月山の大工が掲げているメニュー表のうち、ひとつだけ気になっている項目があった。
「階段」である。
台所やデッキテラスは判りやすい。ポプリと結婚してまもなく、子供用ベッドも依頼した。だが階段とは何なのだ。どこに何のために作るのか。考えれば考えるほど、判らなくなった。
ある日、意を決して大工に尋ねてみた。
「あの……階段って、何なんですか?」
すると大工は、さも当たり前のように言った。
「屋根に上がるためのやつだよ。あると便利だ」
何がどう便利なのかは教えてもらえなかったが、結局他のメニューに比べお手頃価格なのもあり、結局ピートはそれを注文した。
数日後、リビングの隅に、屋根へ続く階段が設置された。それは確かに階段だった。実物を前にして、ピートは吹き出した。確かに屋根に登るための階段だった。大工の言う通りだ。
真価が判ったのは更に数日後の夜だ。ふと、気が向いて試しに階段を上ってみる。屋根の上は思っていたより広かった。寒さが身に染みる気温の中、暗くて見えない地面から顔を背けるように上を見上げると、夜空が近くこちらを驚かせる。
「綺麗だな」
思わず呟いてから、ピートははっとして家の中に声を掛けた。
「ポプリ、ちょっと来てくれない?」
ポプリは不思議そうにしながらも階段を上り、屋根に出た瞬間、目を見開いた。
「わあ……」
「綺麗な星空だよね」
二人は並んで腰を下ろした。星の数から始まり、最近の牧場のこと、遠くを旅するバジルの話まで、取り留めもないことを、ゆっくりと語り合っていく。昼間は忙しくて、こんなふうに話す時間もなかなか取れない。
「階段、頼んでよかったね」
「何に使うか、よく判ってなかったんだけどな」
正直に白状すると、ポプリはくすっと笑った。
静かな夜、肩が触れる距離で、同じ空を見る。こんなに素敵な使い道があるなら、もっと早く階段を作っておけばよかったと少しだけ後悔する。それだけ良い買い物だった。
1/11/2026, 11:22:51 AM