美佐野

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6/17/2024, 12:44:55 AM

(あじさい)(二次創作)

 6月は暇だ。何しろ一日中雨が降っている。畑仕事なんて水やりの必要がないだけでやることがぐっと減るし、外で作業してもいいんだけどぐっしょり濡れるから何かヤだ。風呂だって下手すると雨水たっぷりになってしまうがまあそれはそれとして、とかく僕は暇だった。
(そうだ、紫陽花を探しに行こう)
 外で作業はしたくないが、散策するのは別である。僕は早速、合羽を着込むと家を出た。雨の日だろうと散歩をしたい犬が寄って来るのを、お前は家で待っておけと制する。猫はまず出てこない。余談だが、そろそろこの二匹に決まった名前を付けたい。もうツーとユーでいいかな。ちょうど梅雨だし。って、うち鶏もいるんだった。
(随分賑やかだよなあ)
 ここに来たのは去年の3月か4月だった。ボロボロの古民家を直すところから始めたのだ。散らかったゴミを片付け、床を直して、雑巾がけをして、もちろん庭の草も取って。地主さんに認められたのもその時だ。今までも何人か田舎暮らしに憧れて引っ越してきた若者はいたけれど、誰も長続きしなかったから、つい疑ってしまったんだって。
 神社の前を通り抜け、集落に向かう。去年は集落に続く道端に、それこそ紫陽花が咲いていた。今年はまだ咲いていない。いや、蕾すらついてないから、咲かないのかも?この集落の紫陽花は、あちこちに株があるけれど、その年に咲く株はある1箇所だけらしい。実は僕の家を出たところにも、株だけはあるんだ。去年も今年も咲かなかったけどね。
(あー、ここだったかぁ)
 何人かの観光客とすれ違いながら、花開いた紫陽花の株を見つけたのは、地主さんの庭の前だった。集落に出た僕は、すぐに曲がって商店の前を通り、お寺、墓地、学校と下ってきた。もし集落からまっすぐ橋を渡っていれば、もっと早く見つけられたんだけど、まあいいかと思い直す。雨に濡れた紫陽花はいよいよ瑞々しくて華やかだし、いい時間潰しにもなったし、僕は満足だ。

6/13/2024, 6:11:16 AM

(好き嫌い)(二次創作)

 リーグ本部の廊下を歩いていたグルーシャは、何やら行く手がたいへん賑やかなことに気付いた。ジムリーダーたちが集まり、一般トレーナーの挑戦を受ける立場として、どんな人物なら嬉しいか、反対にどんな人物だと辟易するかをやいのやいの言い合っているようだ。至極くだらない話で、通り過ぎようとし、あえなくグルーシャは捕まった。
「グルーシャやないの。せっかくや、自分も話混ざってな」
 グルーシャを捕まえたのはチリ。最近グルーシャを見掛ける度にちょっかいを出してくる、グルーシャからすれば変わり者の人物だ。少しぐらい聞こえないふりをしても通じない彼女に呼ばれ、結局その輪に加わることとなった。
 ハッコウジムのナンジャモに、カラフジムのハイダイ、リーグの面接担当チリに、最近チャンピオンになったばかりのハルトと、なかなかな面子である。グルーシャは、四人がわいわい話しているのを静かに聞いていた。実力が足りないのはまだいいけどマナーがなってないとか、こちらの都合も考えずに飛び込んでくるとか、どちらかというと愚痴に偏っているが楽しそうだ。そして部屋に入ってから知ったのだが、片隅にチャンプルジムのアオキが控えている。彼もまた、話に加わるつもりはなさそうだ。
 ちょうどいい、自分も壁の花になろうとするグルーシャを、しかし放っておいてくれないのがチリなのだ。アオキは放っているのに、グルーシャ相手だとそうはいかないらしい。
「なあ、自分はなんかおらんの。苦手なタイプとかさ」
「ジムリーダーが好き嫌いしても仕方ないでしょ」
「んな教科書的な答えやのうてさあ」
「そもそもそんなに挑戦者が来ないからね。好きも嫌いもない」
 二、三問答を繰り返したところで、今度はハルトが最近頻発する迷惑挑戦者の話をし始めた。何人かはチリのところにも来たようで、お陰様で彼女の注意がグルーシャから離れる。ほっと一息ついて、傍らのアオキを見やれば、目を開けたまま居眠りをしていた。

6/13/2024, 5:52:13 AM

(やりたいこと)(二次創作)

 むらびとも含めたった6人で暮らし始めたこの小さな島も、随分と賑やかになりました。
 たぬきちさんに習ったDIYで様々な家具や小物を作りました。博物館を誘致するために、虫や魚をたくさん捕まえました。本当の無人島に遊びに行って、偶然出会ったキャンパーを島暮らしに勧誘しました。しずえさんが加わり、きぬよさん姉妹も店を出し、そして遂にたぬきちさんの夢でもあった「とたけけのライブ」を達成したのです。
 しかも、とたけけは、これから毎週土曜日に、ライブを開きに来てくれると言うのです。
 しかしむらびとは、困っていました。
「何をすればいい?」
 右も左も判らない移住当初から、むらびとはいつも、たぬきちさんの助言を求めていました。住民が10人になったのも、様々な来訪者が顔を見せるようになったのも、すべてはむらびとの功績でした。しかしどれも、たぬきちさんの言葉に従って動いていただけ。
 たぬきちさんは、にっこりと答えます。
「なーんも!これからは、むらびとさんがしたいようにすればいいんだも。やりたいことをやって、行きたい場所に行って、飾りたいものを飾って、会いたい人と会って――むらびとさんはもう、自由なんだも」
(やりたいこと……)
 それが無いから困っているのです。むらびとは、一人、空を仰ぎました。
 たとえば、新しく出来るようになった料理に取り組みましょうか。たとえば、まだ見ぬ大物を求めて釣り糸を垂らしましょうか。夜になると出てきてはこちらを刺していなくなる、にっくりサソリをとっ捕まえてもよいでしょう。しずえさんやレイジが話していた、黒い薔薇から咲くという金の薔薇を追い求めてみましょうか。
 どれもこれも、たいへん魅力的です。
 魅力的なのですが、何故か、ひとつもしっくりこないのです。
(そもそも、どうしてこの島に来たんだっけ)
 移住ですらその場の勢いで決めたむらびとは、降ってわいた自由を持て余していました。

6/10/2024, 5:47:37 AM

(朝日の温もり)

 ぽかぽかと温かい日差しを感じて、ガルシアはゆっくりと目を開いた。
 見知らぬ天井が真っ先に視界に入る。身体はベッドの上で、薄い布団の中、だらんと弛緩している。ぐっと腹に力を込めて起き上がれば、何ということはない、そこは宿屋の一室だった。カーテンが開け放たれており、そこから日差しが降り注いでいたようだ。
「……………」
 同室の仲間たちの姿はない。荷物はあるから、宿を出たわけではないだろう。寝起きのぼんやりした頭で考えながら、のそりのそりとベッドを出る。階下より、いい匂いが漂ってきて、応じるかのように腹が鳴った。
「おはよう、兄さん」
 予想通り、仲間たちは階下で朝ご飯を食べていた。ジャスミンの隣に座ると、シバが大皿に残ったサラダをかき集めてガルシアの方に差し出す。冷えた水で喉を潤し、サラダを咀嚼しているうちに、少しずつ目が覚めて来た。すると頃合いを見計らったかのように、おかみが出来立ての目玉焼きを持ってきた。なるほど、先ほどの旨そうな匂いはこれだったようだ。
「エアーズロックを目指すんでしたよね」
 ピカードが、本日の予定を確認する。
「ええ。風のエナジストとして、行かないといけない予感がするの」
 シバの言葉に、スクレータが重々しく頷いた。
 一行がいるのはミーカサラ村で、ここから北東に進むとポピーチー村がある。その村からさらに進めば、砂漠が広がっており、その中にエアーズロックがあるとのこと。観光地として知られていたが、最近は急に魔物が強くなり、立ち入りが危なくなったとのこと。もちろん、戦士たるガルシアたちには関係のない話だ。
 世界には、他の属性のエレメンタルロックもあるらしい。たとえば水のアクアロック、地のガイアロック。そんな話を、ピカードとスクレータが楽し気にしている横で、ガルシアは一人、黙々と朝食を平らげていた。

6/9/2024, 11:50:46 AM

(世界の終わりに君と)(またあとで)

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