美佐野

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6/4/2024, 5:27:25 AM

(二次創作)(正直)

「まず起きたのがお昼前だったでしょー。シオンいなかったから冷蔵庫にあったものを適当に食べてー、腹ごなしの散歩してたらバァンさんが露店開いてたから冷やかしてー、ちょうど通りがかったルミナちゃんからお茶に誘われたからお屋敷行ってー、次はケセランさんのところで遊んで、お腹空いたからいったん帰って来たところだよ」
「ダウト」
 シオンはロックの陳述を一刀両断した。
「ダウトって、別にボク嘘言ってないけど」
 ロックはあどけなく首を傾げている。シオンはそれをスルーして、事件の本質を突くことにした。
「僕は、君が、パウンドケーキを食べたんだと睨んでいる。正直に、白状しろ」
 それは昨日の出来事。不甲斐ない息子を貰ってくれてありがとうと、直々にテイとルウ夫妻が牧場を訪ねてきた。当然ロックはその時間帯は家で寝ていたわけで、仕事の手を止めて応対したのはシオンである。お礼に、とルウが差し出したのは、彼女お手製のパウンドケーキだ。妙にオレンジがかっていると思えば、何とカボチャをふんだんに使っているらしい。わすれ谷ではなかなか手に入らない野菜の名前に、俄然嬉しくなったシオンは、間違ってもロックに食べられないようにとそれを冷蔵庫に仕舞ってから、仕事を再開した。
 思いのほか仕事が忙しく、お昼ご飯がやや後ろにずれこんだシオンは、それでもわくわくした気持ちで冷蔵庫を開けた。そうしたら、まあ見事に、パウンドケーキだけ無くなっている!
「だってシオンのだって思わないじゃん」
 ロックは口を尖らせている。
「ちょうど美味しそうな料理があったら、そりゃ食べるよね。大体ケーキだなんて判らなかったし」
 微塵も反省の色はない。確かに名前を書いていなかったが、ここはシオンの家なのだ。なんじょう自宅の冷蔵庫の中身にいちいち記名するものか。とはいえ、ロックを責めても結果は変わらず、今はただ幻となったパウンドケーキの味を夢想するだけであった。

6/3/2024, 6:01:45 AM

(二次創作)(梅雨)

 この村は今日も雨だった――なんて言うと多少はサマになるかもしれないが、残念なことに、昨日も一昨日もその前も雨で、空模様を見るに明日も明後日もその次もきっと雨だ。何故ならば、今は6月だからである。
 畑の水やりは要らないし、田んぼの稲たちは嬉しそうだ。犬は暇に耐えかねて外に遊びに出ている。この季節の雨は生ぬるいとはいえ、長らく当たっていれば風邪の一つ引きそうだが、今のところ元気だった。猫?あいつは家の中を飛んだり跳ねたり走ったりしているね。
 で、犬や猫と同じぐらい暇だった僕はというと、傘作りにチャレンジしていた。しばらく前に材料を買ったきり、手を出せずじまいだったのだ。
「よし、出来た」
 挑戦してみると拍子抜けするほど簡単に出来上がってしまった。
 番傘、もしくは和傘と呼ばれるジャンルの傘だが、蝋がたっぷり塗ってあるので今日ぐらいの雨なら簡単に弾いてしまう。ただ、やや大きすぎて、たとえば作業のおともに使うには少し邪魔になりそうでもある。
 そうだ、行商のおばあさんにプレゼントしたらどうだろう。
 いったん思いついてしまうと、何故今までそれを考えなかったのか不思議になるぐらいだ。農作に必要不可欠な種、苗はもちろん、苗木、紙、果ては海水まで仕入れて売ってくれる、僕の生活に欠かせない大事な人だ。そしておばあさんは、いつも、雨でも雪でも傘もささずに僕の家に通ってくれている……。
 本当は、おばあさんが座っているベンチに、上手い具合に屋根が付けられればよかったんだけど、僕は流石に大工ではないからなあ。うっかり弱い組み方で、台風の日に倒れておばあさんに覆いかぶさってきたら大惨事だ。でもこの傘ならば、範囲は広いし、軽いし、扱いも簡単だ。
「おばあさん、喜んでくれるといいけど」
 傍らに潜り込んでいた猫が、にゃあと鳴く。

5/31/2024, 7:55:08 AM

(二次創作)(「ごめんね」)

 かくして牧場はかつての姿を取り戻す寸前まで立て直された。誰もが、たった一人でこれだけの仕事を成し遂げた青年を褒め称えた。実際、よくやったと思う。建物だけはどうにか維持してあったが、大地は荒れ放題で、長らく手入れされていなかった農具はボロボロだ。足の踏み場もないほど散らかったその荒れ地に、青年は根気よく鍬を入れ、種を蒔き、作物を育てて収穫した。ある程度資金が溜まれば牛や羊たちを飼うための牧草地を作り、実際に数々の家畜を迎え入れた。世代交代も順調で、愛情深く育てられた彼女たちは質の高いミルクや羊毛を産出するようになった。
 青年の名は、ピートといった。
「誰がどう見ても、立派な牧場だ」
 ピートは一人、そう呟いた。本当に、自分ひとりでよくやったと思う。ちょうどすり寄ってきたアンゴラウサギの頭を撫でた。もふもふの手触りは最高だが、アンゴラウサギが暮らしている小屋を考えると、いつも、あの鶏のことを思い出すのだ。
牧場主になりたての頃、右も左も判らなかったピートは、それでもようやく貯めた資金で鶏を買った。初めての家畜に舞い上がり過ぎたのか、餌やりを忘れてしまい、結果、病気になって死んでしまった。あれ以来、鶏だけは飼う気になれず、今に至っている。
(ごめんね、なんて、謝って済む問題じゃないよな)
 誰もピートを責めなかったが、だからこそ余計に心にずんと沈んだまま、今も変わらない。きっとこの先、鶏を飼うことは二度とないんだろうなと思いながら、ピートは目についた雑草を引き抜いた。
 感傷に浸っている場合ではない。 たとえば家畜一匹一頭ずつ、期限が悪くないか、体調を崩していないか声掛けをしていく。ついでにブラシもかけて、ミルクやウールがとれる個体からは収穫も。次は育った牧草を刈り取って飼い葉にして、一方では畑の水やりと種撒きもしたい。そう、今日の仕事はまだまだたくさん残っているのだ。

5/29/2024, 6:56:55 AM

(二次創作)(半袖)

 牧場主エイジは蕩けていた。
「あーつーいーーーー」
「そうだろうね」
 道具屋のクレメンスが苦笑いをしている。
 珍しくも三日間絶えず振り続けた雨は、今朝ようやくやみ、久しぶりの陽光が差し込む。しかし湿った大地と空気は重く、太陽に温められたせいで却って肌にまとわりつく。確かに夏の月まであと数日と言ったところだが、この湿度と温度はヤバいのだ。
「もう半袖にしちゃえばよかったああぁぁ」
「急に暑くなったもんな」
「というか、クレメンスさんは暑くないんですかぁぁぁ」
 エイジの視線はクレメンスがいつも着ている作業着に注がれた。僅かに色味の違う作業着が何着かあって、それらを着回しているのは知っているが、そういえばそれ以外の服装を見たことがない、とエイジは気付いた。いつも似たような服を着ているのはエイジも同じだが、こちらは単に懐が寒いせいで服まで資金が回せないだけだ。この街で道具屋を営むクレメンスは、まさか貧乏ではないだろう。
「オレは雪国の出身だから……」
「出身だから?なに?クレメンスさん」
「下手に半袖になると、一日で日焼けしちゃうんだよ」
 夏にバイクの修理やメンテナンスをするとき以外は、特に困らないらしい。暑いのは確かだが、下手に半袖にして日焼けした方が後で熱が出たり腕がヒリヒリ痛んだり大変な目に遭う。
「僕の知らない世界だ……」
「そりゃあ、君がすぐ日焼けするタイプだったら、牧場主は無理だろ」
 クレメンスの言う通りだ。エイジは日焼けするまでもなく肌が黒い方で、特に困ったことはない。いや、あったな、とエイジは手をぽんと打つ。
「僕、半袖全く持ってないんだよね」
「さっき、半袖にしちゃえばって言ってなかったっけ?」
「あれは言葉の綾。実際は買うところからなんだよね」
 そうと決まれば、さっさと行動だ。ここに来る前に見た財布の中身は1,000Gしかなかったが、もしかしたらあと1,000Gぐらいあるかもしれない。儚い希望を胸に外に向かう牧場主を、クレメンスは静かに見送った。

5/18/2024, 12:40:26 PM

(二次創作)(恋物語)

 世界には必ず運命の人がいて、いつか出会うことができれば恋に落ち、結ばれ、幸せになれるなんて、一体誰が決めたのだろう。恋物語は千差万別で、作り物の世界ですらハッピーエンドとは限らないのに、なぜ幸せになると言い切れるのだろう。
(なんて、ちょっとヒロイックに考えすぎよね)
 クレアはぴょん、と勢いを付けてベッドから起き上がった。
 小さい頃、まだ元気だった祖父と共に過ごした牧場を忘れられなかったクレアは、一念発起して牧場主になった。幸いかな、大きな失敗もなく、いっぱしの牧場主と呼ばれる程にはなった。街の人々はみんないい人ばかりで、クレアと仲良くしてくれる。平穏で穏やかな日々がゆったりと重なっていく。
 それでも、皆それぞれの人生があり、次のステージに進むこともある。まさに今日がそうで、クレアの脳裏には幸せそうな花嫁の笑顔がこびりついていた。
(ドクター、ちょっといいなって、思ってたんだけどな)
 ドクターは、看護師のエリィと結婚した。クレアは彼とちょくちょく話していたし、思い切って冬の感謝祭にチョコを渡したこともあった。一度、星夜祭に呼ばれた時なんて、ガラにもなくドキドキしたものだ。
「ま、結婚とか恋愛とか?正直、私には縁遠いものだけど?」
 大きくなった自宅に独り言がこだまする。仕事は軌道に乗り、人付き合いも悪くないのに、クレアはひとりぼっちだ。もしかしたらドクターが運命の人かも?なんて思ってたのに、そのささやかな期待も完全に打ち砕かれた。
(何よりも、そんなにショックを受けてない私がいる)
 このまま恋の一つも知らず、独り身のまま生きていくのか。えも言われぬ寂しさを感じ、クレアは頭を横に振る。こんなセンチメンタルな気分を振り払うために、今日はもう寝てしまおう。何、明日になればまた、仕事がいっぱい待っているのだ。

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