(二次創作)(「ごめんね」)
かくして牧場はかつての姿を取り戻す寸前まで立て直された。誰もが、たった一人でこれだけの仕事を成し遂げた青年を褒め称えた。実際、よくやったと思う。建物だけはどうにか維持してあったが、大地は荒れ放題で、長らく手入れされていなかった農具はボロボロだ。足の踏み場もないほど散らかったその荒れ地に、青年は根気よく鍬を入れ、種を蒔き、作物を育てて収穫した。ある程度資金が溜まれば牛や羊たちを飼うための牧草地を作り、実際に数々の家畜を迎え入れた。世代交代も順調で、愛情深く育てられた彼女たちは質の高いミルクや羊毛を産出するようになった。
青年の名は、ピートといった。
「誰がどう見ても、立派な牧場だ」
ピートは一人、そう呟いた。本当に、自分ひとりでよくやったと思う。ちょうどすり寄ってきたアンゴラウサギの頭を撫でた。もふもふの手触りは最高だが、アンゴラウサギが暮らしている小屋を考えると、いつも、あの鶏のことを思い出すのだ。
牧場主になりたての頃、右も左も判らなかったピートは、それでもようやく貯めた資金で鶏を買った。初めての家畜に舞い上がり過ぎたのか、餌やりを忘れてしまい、結果、病気になって死んでしまった。あれ以来、鶏だけは飼う気になれず、今に至っている。
(ごめんね、なんて、謝って済む問題じゃないよな)
誰もピートを責めなかったが、だからこそ余計に心にずんと沈んだまま、今も変わらない。きっとこの先、鶏を飼うことは二度とないんだろうなと思いながら、ピートは目についた雑草を引き抜いた。
感傷に浸っている場合ではない。 たとえば家畜一匹一頭ずつ、期限が悪くないか、体調を崩していないか声掛けをしていく。ついでにブラシもかけて、ミルクやウールがとれる個体からは収穫も。次は育った牧草を刈り取って飼い葉にして、一方では畑の水やりと種撒きもしたい。そう、今日の仕事はまだまだたくさん残っているのだ。
5/31/2024, 7:55:08 AM