(二次創作)(半袖)
牧場主エイジは蕩けていた。
「あーつーいーーーー」
「そうだろうね」
道具屋のクレメンスが苦笑いをしている。
珍しくも三日間絶えず振り続けた雨は、今朝ようやくやみ、久しぶりの陽光が差し込む。しかし湿った大地と空気は重く、太陽に温められたせいで却って肌にまとわりつく。確かに夏の月まであと数日と言ったところだが、この湿度と温度はヤバいのだ。
「もう半袖にしちゃえばよかったああぁぁ」
「急に暑くなったもんな」
「というか、クレメンスさんは暑くないんですかぁぁぁ」
エイジの視線はクレメンスがいつも着ている作業着に注がれた。僅かに色味の違う作業着が何着かあって、それらを着回しているのは知っているが、そういえばそれ以外の服装を見たことがない、とエイジは気付いた。いつも似たような服を着ているのはエイジも同じだが、こちらは単に懐が寒いせいで服まで資金が回せないだけだ。この街で道具屋を営むクレメンスは、まさか貧乏ではないだろう。
「オレは雪国の出身だから……」
「出身だから?なに?クレメンスさん」
「下手に半袖になると、一日で日焼けしちゃうんだよ」
夏にバイクの修理やメンテナンスをするとき以外は、特に困らないらしい。暑いのは確かだが、下手に半袖にして日焼けした方が後で熱が出たり腕がヒリヒリ痛んだり大変な目に遭う。
「僕の知らない世界だ……」
「そりゃあ、君がすぐ日焼けするタイプだったら、牧場主は無理だろ」
クレメンスの言う通りだ。エイジは日焼けするまでもなく肌が黒い方で、特に困ったことはない。いや、あったな、とエイジは手をぽんと打つ。
「僕、半袖全く持ってないんだよね」
「さっき、半袖にしちゃえばって言ってなかったっけ?」
「あれは言葉の綾。実際は買うところからなんだよね」
そうと決まれば、さっさと行動だ。ここに来る前に見た財布の中身は1,000Gしかなかったが、もしかしたらあと1,000Gぐらいあるかもしれない。儚い希望を胸に外に向かう牧場主を、クレメンスは静かに見送った。
5/29/2024, 6:56:55 AM