美佐野

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(二次創作)(梅雨)

 この村は今日も雨だった――なんて言うと多少はサマになるかもしれないが、残念なことに、昨日も一昨日もその前も雨で、空模様を見るに明日も明後日もその次もきっと雨だ。何故ならば、今は6月だからである。
 畑の水やりは要らないし、田んぼの稲たちは嬉しそうだ。犬は暇に耐えかねて外に遊びに出ている。この季節の雨は生ぬるいとはいえ、長らく当たっていれば風邪の一つ引きそうだが、今のところ元気だった。猫?あいつは家の中を飛んだり跳ねたり走ったりしているね。
 で、犬や猫と同じぐらい暇だった僕はというと、傘作りにチャレンジしていた。しばらく前に材料を買ったきり、手を出せずじまいだったのだ。
「よし、出来た」
 挑戦してみると拍子抜けするほど簡単に出来上がってしまった。
 番傘、もしくは和傘と呼ばれるジャンルの傘だが、蝋がたっぷり塗ってあるので今日ぐらいの雨なら簡単に弾いてしまう。ただ、やや大きすぎて、たとえば作業のおともに使うには少し邪魔になりそうでもある。
 そうだ、行商のおばあさんにプレゼントしたらどうだろう。
 いったん思いついてしまうと、何故今までそれを考えなかったのか不思議になるぐらいだ。農作に必要不可欠な種、苗はもちろん、苗木、紙、果ては海水まで仕入れて売ってくれる、僕の生活に欠かせない大事な人だ。そしておばあさんは、いつも、雨でも雪でも傘もささずに僕の家に通ってくれている……。
 本当は、おばあさんが座っているベンチに、上手い具合に屋根が付けられればよかったんだけど、僕は流石に大工ではないからなあ。うっかり弱い組み方で、台風の日に倒れておばあさんに覆いかぶさってきたら大惨事だ。でもこの傘ならば、範囲は広いし、軽いし、扱いも簡単だ。
「おばあさん、喜んでくれるといいけど」
 傍らに潜り込んでいた猫が、にゃあと鳴く。

6/3/2024, 6:01:45 AM