美佐野

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4/26/2024, 6:03:09 PM

(二次創作)(流れ星に願いを)

 いよいよ明日、プロクスの大地に足を踏み入れ、マーズ灯台に向かう。
 長い旅もこれで終わるのだ。先に行ったカーストたちが火を灯しているとは到底考えられず、であれば何か待ち受けている障壁があるのだろう。強大な敵か、難解な仕掛けか。緊張と興奮がないまぜとなった気分のせいか、却って目が冴えてしまい、メアリィは困ってしまった。
 夜風にでも当たろうと甲板に出れば、どうやら寝付けないのは自分だけではなかったようで、イワンとピカードがいた。二人して、空を見上げている。
「こんばんは」
 声を掛けて、隣に立ち、二人を真似すれば、薄い雲の合間にいくつもの輝ける星が見える。思い返せば冒険の途中、何度もこうして空を見上げたものだ。
「人は亡くなったら星になると聞いたことがあります」
「星は本当は空のずっとずっと上にいて、何年もの時間をかけて光がここに届くそうですよ」
 イワン、ピカードが、それぞれ星にまつわる話をする。
「流れ星が消えるまでに願い事を唱えれば、それが叶うと言われていますわ」
 メアリィもまた、イミル村に伝わる話をする。
 出身地がばらばらな三人は、星一つとっても見ているものが違うのだ。これは星以外でもそうで、その視点から見ればこの旅路は得るものも、新しく知る事柄も多く、楽しかったと振り替えられる。もちろん大変なことも危険なこともたくさんあったけれども。
「マーズ灯台、どんな灯台なのでしょう」
 何よりも、全て火を灯し終えた先に、何があるのだろう。旅は終わり、また元の平穏な日々に戻るのだろうか。マーキュリー一族の使命は破られ、ヘルメスの湧水が復活した今、イミルに自分の居場所はあるのだろうか。
(なんて、今心配しても仕方ないわ)
 メアリィは小さくかぶりを振る。そんな彼女と仲間たちを励ますように、星々が小さく瞬いた。

4/25/2024, 9:18:36 AM

(二次創作)(ルール)

 毎日顔を合わせて会話をする。出来ればプレゼントを贈る。好きな物なら効果が高く、嫌いな物だと下がるので注意。相手を選べるタイプの行事があれば積極的に選び、時々起きるイベントで相手が喜びそうな選択をする。そうすれば、たとえ本人が本当は別の人を好きであっても、もれなく牧場主に恋をする。
「このルール、何かつまらないわよね」
 牧場主クレアは淡々と呟く。相対するのは泉の女神さまで、本来人間には姿はおろか声すら聞こえないはずの存在である。だが、クレアはいわゆる主人公であるため、彼女と会話をすることができる。
「でも、何度も会って、それなりにお喋りをして、イベントごとではその人を選び、ましてプレゼントをくれるのよ?意識しないでって言う方が無理じゃない?」
 女神はころころと笑っている。クレアはそんな彼女を真正面からにらみつける。
「そうじゃなくて!嫌いになる方法が、その人が嫌がるものをプレゼントするしかないのが単純でつまらないの。前は牧場の敷地の外にアイテムを捨てるとか、黄金の資材を畑に挿すとかいろいろあったのに」
「前って何の話?」
「女神さまの髪形がくるくるお団子三つ編み野郎だったときの話」
 クレアは空を見上げる。この街に、クレアが夢中になるような相手はいない。だが、子供は欲しいし花嫁にはなりたいから、きっと誰かを選ぶことだろう。そして選ばれた誰かは、クレアの配偶者になる以外のゴールがない。誰もクレアにプロポーズ出来ない代わりに、誰もクレアのプロポーズを断れない。
 クールなように見えて情熱家のドクター、苦労人だが優しいリック、別の意味で苦労人だが面倒見のいいクリフ、真面目にコツコツ修行中の勤勉なグレイ、陽気で頼りがいのあるカイ、何でもできそうでいて庇護欲をかきたてるブランドン。みんなみんな、クレアからは逃れられない。
「あー、もう、タイクツ」
 そう呟き頬を膨らませる彼女は、確かにこの世界の主人公であった。

4/24/2024, 11:59:43 AM

(二次創作)(今日の心模様)

「へっ?結構行き当たりばったりだよ?」
 牧場主ユカは、素っ頓狂な顔でそう答えた。
 話の発端はジャックの問いかけだった。晴れて恋人同士になった二人は、今日も今日とて*ホテルのレストランにお茶をしに来ていた。雑貨屋が休みの火曜日は、こうしてお昼からお喋りしようと、言い出したのはユカの方。他、金曜日の夜に彼の部屋に行って配信するラジオの内容についてあれこれ打合せしているのは、また別の話である。
 一人であんな広い牧場を切り盛りするのは大変だろう、というのがジャックの意見。母と一緒に切り盛りしている自分でさえ、やることの多さに目が回るぐらいなのに、一人でやるユカはもっと大変だろうと慮ったわけだ。実際、ユカがのんびり歩いているところを見たためしがない。
「確かに、出来ること、やれることは多いけど」
 ユカは手元のカップを傾ける。ミルクをたっぷり入れた珈琲で、砂糖は抜きだがほんわか優しい甘みがする。今はほっとカフェラテだが、夏になればこれをアイスラテで飲むのだと心に決めていた。
「毎朝の水やりも、家畜の餌やりも自動だし?畑は作物が実ってたとして収穫しないで放っておいてもいいし、副産物集めも同じだし。たとえば素材集めだったり、釣りだったり、採掘だったりかいぼりだったり、やらなきゃいけないことはいっぱいあるけど、必ずすぐやらないとってことはあんまりないかな」
 だから、その日一日、何をするかは朝の気分次第なのだ。畑作業がしたければ畑に行く。バケツを振るいたい気分ならかいぼりをする。点在するアイテムボックスの整理に半日掛けることもあれば、ひたすらレイナやブリジットと喋って終わる日もある。何より気ままな自営業、口を出す人もいない。唯一決まっていることがあるとすれば、ジャックと会う火曜日の昼と金曜日の夜だけ。
「そうなんだ」
 意外だと思いながらも、自分が彼女の特別であることを知り、少しだけ嬉しいジャックであった。

4/18/2024, 12:04:48 PM

(二次創作)(無色の世界)

 一面に広がる真っ白な、雪、雪、雪!
「…………!!!」
 昨日までは秋だったのだ。確かに今朝、急に冷え込んだなとは思ったが、たった一夜でここまで雪まみれの世界になるなんて、誰が考えるだろう。牧場主ナナミは、外の世界に飛び出した。
「ひゃっはーー!!」
 柔らかく冷たい雪の牧場をひたすらに走り回る。通った場所に足跡が残るのも良い。ついつい、その足跡を使って地上絵を描いてしまった。次に、雪玉を大量に作って積んで、次々に投げまくって遊んだ。中には花や木の実が入った雪玉も混ざっていて、ちょっとした宝探しやくじ引きのようだ。お昼ご飯を食べるのも忘れ、冬の作物を畑に植えるのも忘れ、ひたすら無色の世界を堪能し続ける。
 やがて17時になった。
「何をしているんだね」
「ひゃっ?」
 その時ナナミはちょうど、雪をかき集めて雪うさぎを作っていた。子供の頃、テレビで何度か見かけたことがあり、一度やってみたいと思っていたのだ。
 やってきたのはフォードだった。フォードは、無言でナナミの前までやってくると、その手を取る。想定外の出来事と距離に、ドキン、と胸が高鳴った。だがフォードはどこまでも真面目な顔だ。
「冷え切っている。君の手まで色を失いかけているじゃないか。どれだけの時間、外にいたのかね」
「えっ……朝からずっと……」
「ずっと?」
 フォードがナナミの顔をじっと見る。メガネ越しに、こちらを射抜きそうな紫の瞳は叱責にも、呆れにも見てとれる。その間、ナナミの手はフォードの両手に挟まれていて――。
(先生の手、おっきい……)
 男の人なんだと意識した途端、今度は顔がぼん、と熱くなった。フォードは当然、こちらの変化など気付く気配もなく、ただただあかぎれや霜焼けについて注意喚起を続けている。変わらず真っ白な世界の中で、ただナナミの頬だけがほんのり色付いていた。

4/14/2024, 7:42:43 PM

(二次創作)(言葉にできない)

死した者の行く先は何があるのだろうと、ガルシアは考えていた。
 ウェイアードでは、死して間もなくであれば、蘇生させることが出来る。肉体が残っていれば、その具合にもよるが、地のヴィーナスの力を使って元の姿に戻せる。勿論、病や老衰で死した者は、蘇らせたとてもう一度死ぬだけなので、あまり意味はないけれど、災害や事故、魔物に殺された者たちには光明である。
 では、蘇生が間に合わなかったものたちは?
 そこまで話して、ガルシアは息を吐いた。相対するはスクレータ、錬金術の研究者である。死生観については門外漢だが、重ねた年は伊達ではない。
「ふむ、また難しいことを考えだしたな」
 スクレータはそう答えた。
「何かきっかけがあったのかの」
「ヴィーナス灯台に行ってきた」
 スクレータは口を噤む。それはプロクス族最強の戦士であったサテュロスとメナーディが最期を迎えた場所であった。それから一年以上が過ぎている。蘇生もままならぬだけの時間が流れている。
「彼らには、会えたのか?」
 スクレータの問いに、ガルシアは首を横に振る。
「そうじゃろうなぁ……。そも死者を蘇らせること自体、世界の理に反しておる」
 結局、死した者がどこにいくのかなんて誰にも判らない。蘇生させた者だって、しばらくの死は意識の欠落でしかない。そして蘇生のエナジーを使えるだけ地のエナジーに長けた者も、絶対数は少ない。ガルシアとて、ジンたちの力が無ければやすやすとなし得ないエナジーだ。
(大体、今更サテュロスたちと会えたとして、俺は何を話したいんだ)
 全ての灯台を灯した報告か。黄金の太陽現象後のウェイアードについてか。単に成長した自分を見せたいのか、認められたいのか。ガルシアの思考はぐるぐると回る。それに、だ。万に一つ、生き延びていたとして、あの場所にはもういまい。
(こだわっても仕方がないのは、判っている)
 スクレータは、黙り込んだガルシアを静かに見つめていた。

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