予感
自己紹介の時間だったはずだ。
高校生で出会ったある同級生への第一印象は、
静かめや声が小さいなどではなく、
左利きっぽい、だった。
他人への第一印象が「左利きっぽい」…
性格や声じゃないその人への印象は、
僕にとって不思議な感覚で、初めてのことだった。
出席番号順で隣同士だったその子は、
ペアワークがきっかけで友達になっていった。
何ヶ月が経ち、仲良くなってきた頃。
お昼ご飯を食べている時に
ふとその第一印象を思い出して隣を見る。
その人は右でお箸を持って食べていた。
まぁ、第一印象なんてそんなものか。
勝手に思ったことが普通に間違えていただけのこと。
誰も損をしないし得もしない答えを知った。
一年ぐらい経ってもその人とは仲良しだった。
親友とも呼べてしまうほどには気が合い、
放課後に二人で喋ることも日常になっていた。
親友にとっても僕は気が合う存在らしく、
落ち着いてゆっくり話せるから癒されるらしい。
まぁ、そんな小話はどうでもいいか。
ある日二人で話していると、第一印象の話になった。
親友から僕への第一印象は「大人しい子」だったが、
「意外と話せる子」だったらしい。
だから僕は記憶の片隅に置いていた第一印象を話す。
『何でか分からなかったけど、
第一印象は左利きっぽそうだったんだよ。』
親友は少し驚いて、
口に手を当てていたのを覚えている。
「え?話したことないよね?へー…」
『どうしたの。』
「いや、俺…元々は左利きだったらしいんだよ。
物心つく前に右利きに矯正したらしいけど…
だから当たってるというか…すごいなお前…?」
まさか第一印象が当たっているとは思わず、
僕は笑ってしまった。
女の勘はよく当たる。
そんな言葉もあるほどだが…
流石にピンポイントで当たるとは思ってなかった。
だから予感はあったんだ。
これだけ気が合う親友で、信頼できる相手なんだ。
漠然とした第一印象も当たったんだ。
結婚…するんじゃない?
梨
梨か林檎なら、林檎の方がよく食べていた。
リンゴジュースやアップルパイなどの
加工品を含めても含めなくても、
圧倒的に林檎を食べていた。
つまり、僕には梨という果物に思い出がない。
食べたのは小さい頃の数回だけな気がした。
味も感触も思い出せない。
困ったな。これじゃあ何も書けない。
梨で言葉遊びをしようにも、何だかつまらなかった。
ありきたりで平凡的な気がした。
逆張りというものだろう。
淡々と何かを書くことは好きだが、
一定のテンポや話題、個性の出し方がないと
見ている人を飽きさせるのだろうと感じる。
僕は小説家には向いてないのだろう。
話し口調じゃないと長く書けない。
一次創作や二次創作では役に立ちそうな能力だな。
社会じゃ何も役に立たないが。
こうやって何かを考えていつも話題を見出している。
だけど、今日は何も考えたくない日だな。
一時期話題になった懐かしい音楽でも聞きに行こう。
LaLaLa GoodBye
手から零れた命は救えない。
人は現実逃避や人生の全てに諦めて、
その手で自分を刺し殺してでも死んでいく。
劇薬を作って飲むことも厭わないほどに
心が壊死した人達のSOSに、
僕達も他人も親しい者すらも気付かない。
若い人が亡くなる第一位の理由は自殺だった。
僕もいつか自殺するのかな。
そう思いながら日々働いている不完全な若人は、
どう呼吸をしているのか、
酸素を本当に吸えているのか分からないまま、
適当に生きている。
秋恋
女性を愛する覚悟は僕には無いが、
少なくとも、恋愛対象としては見れるのだと
感じた出来事が昔あった。
それは、カッコイイ女性が
高校の部活動にいたからだった。
自分の考えや意見をハッキリと伝えられて、
相手にダメなところはダメとしっかり言える人。
綺麗な声を持っていて、心地よい。
きっと良きお母さんになれる。そんな女性だ。
少なくとも、
いいお母さんになれると思った女性は、
その人が初めてだった。
部活動で手を動かしながら、頭の中で考え続ける。
この感情の答えは、些細な信頼だろう。
だけど、その人と僕はあまり喋ったことがなかった。
ならばあれは恋の始まりだったのかもしれないな。
本当は出会った時から一目惚れしていた?
それとも長い間同じ空間で部活動をしていたから?
そう感じても、
この気持ちは捨てるしかなかった。
心の性別が無い人間だから「僕」を名乗っていたのに、
恋愛対象として見れるのは男女両方だったのか?
僕は男にも女にもなりきれない未完成の人間だなと
気付いても、寂しく笑うしかない。
それ以上に僕が女性を愛せない理由がある。
それが過去のトラウマだった。
友達の女の子から仲間外れにされ、
母親から暴言を言われたことがあった。
どこをどうしたって糸が切れたままのように、
僕は女性との関係を断ち切っていた。
糸を修復しようと、接し方も話し方も分からない。
また一人になるんじゃないかと恐れるより、
気楽に話し合える男性を愛する方がいい。
だから…女性に恋をしてしまったこの気持ちは、
捨てて、隠して、忘れ続けないと。
…こんな恋に、気付かなければ良かったな。
愛する、それ故に
この世界で必要のない人間を愛した貴方は、
その人間が天使であることに気付いたらしい。
白い羽根が今にも背中から現れそうなほどに
無邪気で健気で無知な天使は、
信頼して愛してくれた貴方に恩返しをしたいらしい。
だけど貴方には大きな傷跡が今も心に住んでいた。
治すことのできない病は、
天使が触れる事すらも許さない。
それでもいいんだよと天使は貴方に寄り添った。
「きっと神様のイタズラだよ。
…知らない神様のせいにしちゃおう。
貴方も、その子も、みんな悪くないんだよ。」
貴方は目を隠して、そうだねと静かに話した。
空には大きな花弁が音と共に咲き誇る夏の日、
貴方は天使の言葉に救われて、
静かに泣いたのだろう。
貴方だけの天使は、ずっとそばにいるよ。
どんな季節や天気が訪れようとも、貴方の隣に。