「パパー」
双子の娘の姉、惺が俺を呼ぶ。
「なにー?」
「見てー、ママとおひなさま飾ったのー!」
惺はドヤ顔でひな壇を見せてきた。
「あれ、雫は?」
俺は嫁に双子の妹の雫の居場所を訊く。
「今寝てるよ、疲れちゃったんだね」
嫁はそう言ってちらし寿司の準備をし始めた。
無理もない。俺ら大人でさえ一苦労するのに子供が疲れないわけがない。
「もう、ボロボロだな」
ひな壇を見つめながら嫁に話しかける。
「そうだね、でもお義母さんがくれたものなんでしょ?」
お義母さん ——俺の母親は一年前、亡くなる前に俺たちにひな壇をプレゼントしてくれた。
『うちでも使ったけど、もう妹のさくらも家を出てしまったものだから、古いけどあげるわ』
そういってたのが脳裏に焼きついている。
「母さん、見てるかな」
「見てるといいね」
いつの間にか惺も寝てしまってる。この静かな空間で、ひな人形達が、楽しげにこちらを見ていた。
『ひなまつり』
「じゃあ、行ってきます」
私は家とお母さんに向かってそう言った。
「千代…本当に行っちゃうの?」
お母さんは寂しげに呟く。
「当たり前でしょ、大学東京なんだから」
福岡に住んでる私は、春から東京の大学に行くために引っ越すことになった。
私がいなくなったらお母さんはこの家に一人残されてしまう。
お父さんは去年病気で亡くなって、お姉ちゃんは私と同じく大学で東京にいるので、この広い家に一人暮らしすることになってしまったのだ。
一方私は、新学期で物件が埋まってしまっていたこともあって、しばらくはお姉ちゃんの家に乗り込むことになった。
「大丈夫だよ、実家にはまた顔出すから」
「分かってるわよ、じゃあ、気をつけて行ってきなさい」
「うん」
私は玄関のドアを開けた。後ろで涙を流すお母さんに気付かないフリをして。
『遠くの街へ』
君は今、どこにいるのか。
海がある場所?山のある場所?
寒い国?暑い国?
何も、分からない。
でも、僕はいつでも君を待つ。
『君は今』
クラスに空って子がいる。
いつも何考えてるか分からないし、なんなら自分でも何考えてるか分かってないらしい。
そんな彼が、私は好き。
いつか消えてしまいそうな儚さ、たまにすごく面白いことを言う時。
そんな彼を見て、恋に落ちた。
でも、彼には闇があると思う。
冒頭で言った通り、何考えてるか分からないし、なんなら自分でも何考えてるか分かってないし。
彼には、誰も入れないゾーンがあるかも。
『物憂げな空』#実話(※本名ではありません)
「真昼っていつも笑ってるよね」
真昼の親友という肩書きを持つ私がいつも思う事。
「え〜そうかな」
そう言ってる顔も笑ってる。
「あ!高橋くんだー」
彼女の視線の先を見てみると、彼女と性格が真反対の高橋桜夜がいた。
彼は真昼と私の視線に気づき、怪訝そうな顔でなぜか私の方を見てきた。
私じゃなくて真昼を見てあげてよ。
目線でそう促すと、真昼は満面の笑みで「おはよう!」と言った。
「…おはよう」
彼は真昼とは反対に朝の眠そうな顔で言う。
「あ、石井さん、昨日図書室に付箋置いてってたよ」
「え」
まさか私が使ってる付箋だと分かって持ってきてくれるとは思わなかった。
「あ、本当に私のじゃん。ありがと」
「ねーなんの話ー?私も混ぜてー」
太陽のように明るくて周りを照らしてくれる真昼と、月のように静かでゆっくりとみんなを観察している高橋くん。
2人はお互いを引き立てる唯一無二の存在なのかも。
『太陽のような』#高橋くんシリーズ