そうして終わりは告げられた。
一方が滅び、一方が生き延びた。
それは慈悲などない戦争だった。
私は歩いていた。
一面は焼け野原であった。
グレーと茶と黒だけが遺り、レンガ造りだった家も、整えられていた花壇も、大きな複合遊具も全て煤けていた。
灰の匂いがした。死んだ匂いがした。何もない匂いだった。
ふとゾッとした。それは此処で鍛えられた第六感だった。
振り返ると少女が瓦礫の裏からこちらを――震える手で拳銃を構えていた。
もう可哀想で仕方がなかった。
私は堪らず両手を上げて少女に近づいて膝をついた。
家族は?家は?友人は?
そんなことを聞いても仕方がないのはお察しだった。
少女に手を差し伸べ、私はこう言った。
「一緒に来ないか。」
少女は煤けていた。しかしまだ生きていた。
疑いを帯びた視線と拳銃を握る手が迷いに揺れて、やがて降ろされた。
「それでいい。」
私よりひと回りもふた回りも小さな手を、握り潰さないように包んだ。
生温く生きた感触がした。
立ち上がった。
私達はまた歩き出した。
「何もいらない。」
何が欲しいのか?あるいは、何が欲しかったのか?今はそれすら分からない。ただ此処で眠っていたい。
「何もいらない。」
こんなものは望んでいない!要らぬものを受け取るくらいなら、何も持たない方が余程マシだ。
「何もいらない。」
私は自由だ。私を縛るものなどもう無い。私は遥かに見えるあの雁たちのように、ただ真っ直ぐに、好きに生きるのだ。
「何もいらない。」
君さえいれば、僕は溺れる程の幸福の最中にいられる。僕と、君と。これ以上に、僕は一体何を望めようか?
何もいらない。今も、誰かがそう思う。
私はずっと夢を見ている。
あぁ、今目の前にあるのが現実であることは分かっている、安心してくれ。
これはそう、確かに現実であるんだが――。
告白しようか。私は現実を正しく認識することができない。
目が悪いわけでも、幻覚が見える訳でもないのだが、単に入ってきた情報を脳が処理しないと言うか。
いや、幻覚は、見ようと思えば見えるのだが……そうなると幻覚と言うよりは妄想に近いのか?まぁそんなことはどうでもいいのだ、ほんとうに。
ただずっと本物の現実が見えないんだ。いや、見えるのだが、現実味が湧かないと言うか。現実にしてはあまりにも薄味なのだ。なにも……。
おっと、こんなお題だったから、つい勝手な独白を書いてしまった。どうでも良かっただろう、謝罪させてくれ。
本当に締まらない話だったな。仕方ない、こういう時は名言を借りるに限る。私の好きなゲームのキャラクターの手記だ。良ければ調べてくれ。では。
夢が現実なのか、現実が夢なのか。
バルドゥークの冒険を通して私が辿り着いた答えは酷く単純だ。
「どちらでもいいではないか。」
どちらが真実なのか――ではない。どちらも真実なのだ。
いずれをも肯定して受け入れ、そして未来を生きて行こう。
アドル・クリスティン24歳時の冒険を描いた冒険日誌『バルドゥークの檻』より
青――青である。
見上げると陽光が眩しい。目を細めても、やはり視界には青しか映らない。
かざした黒手袋はただ暗く、背景との対比が美しい。やはり青いのである。
手と視線を下げると緑。こちらもまた私と同じ穏やかな光を受けている。彼らは風に吹かれて、さわわと鳴いた。
仲間の呼ぶ声が聞こえる。
もう時間だ、行かなければ。ここにはもうじき、この青さえも無くなる。それはなんて寂しいものなのだろうか。
立ち上がった。芝生は本物の感触がした。私は、私たちのこの青を、また惜しみながら歩き始める。
舞っている、私は舞っている。
澄んだ青と天空の国。
羽を持つ美しい存在達が生きている。
タイル張りの地面は私の心を踊らせて、賑やかな楽団が演奏を始めた。