優しさだけで、きっと(オリジナル)
SNSにはたくさんの情報が溢れている。
読書と同じで、自分の意見に近いものを選別し、己の主義主張の正当性を強化する事もできる。
逆に、陰謀論など洗脳される事もある。
私は先日、職場でミスをした。
リカバリーに奔走していたのだが、同僚が笑いながら手伝ってくれて。
彼は仕事上のライバルだった。
だから、彼の笑顔は嘲笑や嘲りに見えたし、正直助かる手助けも、周囲や上司への良い人アピールとしか思えなかった。
けれど。
一件落着後、何も変わりはなくて。
後から、実は彼も昔似たようなミスをした事があって、手伝えると思ったと聞いて。
うまくいって良かったと、俺すごいだろ、と、本当に嬉しそうに笑うから。
私は衝撃を受けた。
私の見ていた世界は何だったのか。
彼の中には見返りを求める気持ちなんてなくて。
純粋に、優しさだけで、きっと。
私は疑り深く、「お綺麗なだけの人間なんていない、裏には必ず汚い気持ちを隠し持っているのが当然だ」と思っていた。
だから世界はそうあるべきだという認識で、人も物も見ていたようだ。
けれど、他人の気持ちなど、本当に理解などできるはずもない。それを推し量ってきっとこうだろうと決めつけるのは、本当に良くない。
私はここに至って初めて、彼に心からの謝罪と感謝を伝える事ができたのだった。
カラフル(914.6)
北欧の家具や小物は色鮮やかで可愛い。
フィンランドを旅行した時に聞いたのは、北欧は曇天が多く、気が滅入るのを防ぐためにも家の中を色鮮やかにするからと言われて、確かに太陽に照らされたような明るい色合いの物が多く、なるほどと思った。
他国では状況が違い、流行りも好みも異なるため、北欧ブランドの日本限定品は色合いが地味になるらしい。
北欧家具小物可愛くて羨ましいなと思っていたけれど、日本は太陽や四季に恵まれて外が色鮮やかだからこそ、家の中や持ち物が地味で良いというのは、すごく幸せな事なんだなと再認識した出来事でした。
楽園(914.6)
楽園とは。
苦しみのない生活を送る事ができる場所。
その状態が短い時間で良いのなら、楽園は沢山あるかもしれない。
けれど、人の欲望には際限がない。
どんなに恵まれていようと、それが当たり前になれば、すぐに何かしら不満を持つだろう。
それと、自分が苦しまずとも、誰かしらに皺寄せが行っているかもしれない。
その状態を楽園と称するのもどうかと思う。
自分が楽園だと思える時は、他の人はどうなのか考えを巡らせる事のできる人でありたい。
風に乗って(オリジナル)
風に乗って聞こえてきた音がある。
耳を澄ますと、どうやら何かの曲のようだ。
楽器は笛、だろうか。
立ち止まり、目を閉じ、どこから聞こえてくる何のメロディなのか把握しようとした。
とたん、立ち止まったはずの足が、勝手に動き出した。
「え?」
軍隊の行進のように。
音の鳴る方に向かって。
自分の意思に関係なく。
やがて、長い人の列に合流した。
皆、困惑と恐怖の表情を浮かべている。
私の脳裏にも、皆と同じ想像が浮かんでいた。
(ハーメルンの笛吹き男?)
あれは連れて行かれて洞窟に閉じ込められる話ではなかったか?
何の恨みも買った覚えはない。
恐怖から列を離脱しようともがくが、全くビクともしなかった。
「誰か!助けてくれ!この音を止めてくれ!」
私は大声で喚いた。
そこで、目が覚めた。
夢だった。
部屋の窓が開いていて、昼間の爽やかな微風が、汗ばんだ額に張り付く前髪を揺らした。
隣の部屋から、子供が練習する笛の音が漏れ聞こえてくる。
(これか)
私は頭を抱えた。
妻に内緒で子供と約束をしていた。
テストで100点取れたらゲームを買ってやる、と。
そこまで優秀ではない我が子であったが、まさかの100点を取ってきた。
妻が禁じているゲームを買う約束を叶えるわけにもいかず、うやむやにしていた罪悪感が見せた夢のようだ。
約束を守らない事は、子供の教育上よろしくない。
仕方ない。妻に怒られよう。
私は観念したのだった。
刹那(オリジナル)
僕の恋人はすごく可愛い。
僕はベタ惚れだ。
何をしても可愛い。
目に入れても痛くないし、何があっても彼女の事を愛していると断言できる。
彼女といる時、世界はキラキラと輝いていた。
デートの記憶はどれも美しかった。
ある日、恋人が改まって僕に言った。
「私、男なんだ」
最初は言っている事が理解できなかった。
ポカンとしている僕に、恋人は証拠を見せた。
それは、まごう事なき証拠だった。
彼女は生物学的に男だった。
理解した刹那、僕の世界はガラリとその様相を変えた。
輝きは失せ、色褪せた。
何があっても愛していると思っていた恋人に対し、1ミリの愛も湧かず、嫌悪と憎悪が湧いた。
男だと気づかなかった己に失望し、男と楽しそうにデートをしていた過去を呪った。周囲が気づいていたとしたら己が滑稽すぎて、消えてなくなりたい。
世界は一瞬でこんなにも変わるものなのか。
僕は驚くとともに、どうしようもなく己が異性愛者である事を理解したのだった。