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3/8/2026, 11:16:02 AM

お金より大事なもの(オリジナル)(異世界ファンタジー)

「ラッツさんはお金より大事なもの、ないんですか?!」
ユーズにいきなり喧嘩腰でそう言われ、ラッツは目が点になった。
「へ?急にどうした?」
「どうしたもこうしたもないです!ラッツさんお金にガメついですよね」
確かにその自覚はあったが、お金に困った事のある人なら誰しもこうなると思う。
「人聞きの悪い事言うなよ。何をするにもお金は大事だろ」
「だからって、ほぼ全財産受け取ったらしいじゃないですか」
その発言で、数日前この街で受けて解決した依頼の事らしいと理解した。誰から何を聞いたやら。
ラッツはため息をついた。
「そりゃ依頼人が設定した金額だったからな。後から金ないとか言って値切ろうとしてきたから断っただけ。悪いのはあっちだろ」
ユーズは当初の勢いを失ったが、まだ不満があるらしく、小声でブツブツと文句を言った。
「そうかもしれませんけど…生活が立ち行かなくなるくらい払わせるなんて」
「それこそ、依頼のブツが金より大事なものだったんじゃねぇの?知らんけど」
ユーズを完全に言い負かし、ラッツは続けた。
「そもそも、お金より大事なものって、いくらを想定してるんだよ。金額によるだろ。1ピケ(10円)より大事なものなら山ほどあるけど、1000シーニ(1000万円)だったら仲間くらい簡単に裏切るかもしれん」
隣で話を聞いていたアレスが目を丸くした。
「1000シーニで?!」
「そこ?!大金だろ?!」
地方とはいえ王宮騎士だった彼は、高給取りだったのかもしれない。金銭感覚が違いすぎる。
同意を求めて見回すと、ネオが頷いていた。
彼とは貧乏人仲間だったようである。良かった。
「そういうお前らはどうなんだよ。金より大事なもの」
そう聞くと、アレスが即答した。
「私はいくら金を積まれようと、名誉と己の良心を重んじますね」
彼らしい、期待を裏切らない回答だった。
ユーズは少し考えていたが、
「私も…自分に失望する事や己の正義を裏切る事はしたくないです」
と、言った。聖職者らしい模範回答だった。
そしてネオは、じっくり考えて、
「俺は……家族」
と言った。
ラッツは目を丸くした。
ネオは故郷の里を滅ぼされて家族全員皆殺しにされており、今現在、守るべき家族はいないはず。
その話を知っているのはこの中でラッツだけなので、知らない二人は「家族!良いですね」「さすがネオさんです。お優しい」などとネオに話しかけている。
(あれ?それってお金が一番大事、になってしまうのでは??)
ラッツはネオを盗み見た。
ネオはぼんやりと中空を見つめている。
今は亡き家族の事を思い出しているのかもしれない。
何よりも大事なものだった、それを。
(それを言うなら俺も、か)
だから金より大事なものがないのかも。
ラッツは自虐の苦笑いを浮かべた。

3/7/2026, 1:59:27 PM

月夜(オリジナル)(異世界ファンタジー)

満月が照らす夜だった。
(あいつ…本当に何やってんだ)
ラッツは宿を出て歩いていた。
何やら胸騒ぎがして、アレスを探していた。
本当は、しつこく追ってくる彼を避けていたのだが、数日前、街で彼に遭遇したユーズが、今日会う約束をすっぽかされたと言って心配していた。
あの、真面目が服を着て歩いているようなアレスが、である。
何か事情があったに違いない。
そして、ユーズが心配していたのも無理はない。
今この街では満月の夜、連続殺人鬼が現れるという。
おかげで、真夜中かつ満月の今、道には人っ子1人いない。
アレスは剣の腕は確かであるが、ただのヒトである。もしも殺人鬼が強力な魔術師や半獣であったら勝てるかどうか。
「はぁ」
ラッツはため息をついた。
全く、彼を探す義理も助ける義理もないのであるが、彼をよこした王様に悪いというか、ここで死なれると寝覚めが悪いというか。
(どうせなら、俺の知らぬところでどうにかなって欲しいもんだ)
そう、物騒な事を考えて、閉店後の明かりの消えた飲食店街を通り過ぎる。
と、左側の路地の向こうで、何やら物音がした。
(?)
ラッツは左の細い路地に入った。
通り抜けた先は、円形の広場だった。
中央に噴水があって、右手に人影がある。
フードを被った、いかにも怪しい手合いであった。
「おい」
ラッツはそう声をかけて、後悔した。
フードの男の足元に、血溜まりがあったからだ。
そして、刺殺死体。
フードの男の右手に握られた剣。
剣から放たれる黒いモヤ。
(魔剣か!)
ラッツは剣を鞘走らせた。フードの男が飛びかかってくる。
ギィン!!
重い一撃に、手が痺れた。
ラッツはかろうじて身をかわし、再度男に対峙した。
「お前がやったのか!」
男の目が、闇に爛々と赤く光っている。
正気を失って、何かに操られているようであった。
(もしかして、満月に現れる殺人鬼って、あの魔剣の仕業か?!)
操られた殺人鬼は、次なる獲物をラッツに定めたらしい。凄まじい殺気を放って飛びかかってきた。
「わっ!」
剣を絡め取って弾こうとするが、腕力負けして逆に押し込まれる。
鍔迫り合いをしながら男の顔が近づき、その顔を正面からまともに見て、ラッツは舌打ちをした。
アレスだった。
アレスはこの街に来たばかりなので噂の殺人鬼ではあり得ない。ただこの数日の間にこの剣を手にする機会があったのだろう。
「おっまえ…どこでこんなの手に入れた!!」
剣をそらして壁に激突させ、膠着から抜け出し、ラッツは叫んだ。
正気を失っているアレスは何も応えない。
「こんの…馬鹿野郎が!!」
ラッツはアレスに飛びかかった。


アレスを気絶させ、何とか魔剣をもぎ取る事に成功したラッツだったが、2人とも満身創痍だった。
アレスは正義感の強い、クソ真面目な性格だ。
剣に操られたとはいえ、民間人を手にかけた事がわかれば、かなりショックを受けるだろう。
知ったことではない。知ったことではないが。
ラッツは考え、ユーズとネオに頼る事に決めた。
ユーズに傷を治してもらい、ネオにはアレスを元の宿の寝室まで運んでもらう。
何もなかった。
そういう風にしようと決めた。
そこまでは自力で運ばなければならない。
アレスを背負う。
気を失っている大柄な男は、ずしりと重かった。

3/6/2026, 1:21:56 PM

絆(914.6)

今日は30年前の入社同期5人で同期会でした。
若い頃はキャラが違くて合わないと思っていた人も、今となっては懐かしい仲間で、ずっと元気でいて欲しい大事な人で。
この年で元気で集まれる事が、とても嬉しくて。
みんな色々あるけど頑張ってる。
頑張れ。
頑張れ。
私も頑張れ。
楽しかったなぁ。
家に帰る電車の中で泣いてます。
何の涙だろ。謎。
歳をとると涙もろくなっていかんですなぁ。

3/5/2026, 3:50:10 PM

たまには(オリジナル)(秘密の手紙続編)

「かずくんさ、2日くらいこの家離れても平気?」
夜の食事の席で、聡が言った。
「旅行にでも行くのか?」
幽霊のかずやは宙を浮遊しながら問うた。
「うん。九州の温泉に行こうと思って。かずくんはお仕事があるでしょ。この家に縛られてるなら行けないかなって」
「ん?それは留守番って話じゃなくて、一緒に行けるかって聞いてる?」
「そう」
かずやは嬉しそうに飛び上がった。
「行く!行く!確かにこの仕事、誰かの家を拠点にしろとは言われたけど、俺、地縛霊じゃないし。仕事が入っても幽霊には距離とかあんまり関係ないから平気。俺、新幹線より速く飛べるんだぜ」
「そうなんだ。すごいね」
「いつ行く?」
「旅館これから取るからちょっと先になるけど」
「なんで九州?」
「僕がハマってた夏期のロボットアニメあったでしょ。あれの聖地巡礼。コラボカフェとかイベントあるらしいから、どうせなら近くの温泉に泊まりたいなって思って」
かずやは腹を抱えて笑った。
「予想を裏切らない聡!面白れぇ!好き!」
「はいはい、ありがと。かずやにも付き合ってもらうからね」
「了解了解。俺もあのアニメ好きだったから大いに賛成」
楽しみだなぁと目を細めるかずやを見て、聡はホッとした。
最近、最期の手紙配達員としての仕事で考える事があったらしく、元気がなかった。
「幽霊でも胸がモヤついたりギュッとなったりするんだな」とか「綺麗な恋でも、相手がいる事だから成就するとは限らない。当たり前だけど切ないな」とか「なんでアレで成仏できるのかわからない」とか、ボソボソと吐き出していた。
守秘義務があってもちろん詳しくは言えないが、口に出したくなるほど苦しいのだと思う。
たまには気晴らしに遠出をするのも悪くない。
かずやも気に入っていたあのアニメ関連であれば楽しんでくれるだろう。
そう思っての提案であった。
的中である。
(良かった)
聡はかずやの晴れた顔を見て、口元をほころばせた。

3/4/2026, 3:07:11 PM

大好きな君に(オリジナル)(秘密の手紙続編)

俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしている。
今日の依頼人は20代後半の綺麗な人だった。
憂い顔に儚い笑みを浮かべ、手紙の内容をずいぶんと悩んでいたが、
「よし」
と、心を決めたら早かった。
スマホに音声をふきこむ場面に立ち会わなかったが、終わったと呼ばれて行くと、
「彼が私の家に着く前に渡してもらえますか?」
と託された。
専用スマホで位置情報を確認すると、届け先は動いていて、まさに依頼人の家に向かっているようであった。
「い、行ってきます!」
俺はすぐさま手紙を届けに飛んだ。

依頼人の家に到着する直前の曲がり角で、なんとか彼に追いついた。
急に目の前に現れた俺にびっくりしたようだったが、俺を無視して避けて通ろうとするので、
「ま、待ってください。お届け物です」
と、封筒を差し出した。
「はぁ?何だお前」
不審者を見る目で見られて、焦った。依頼が達成できないのは困る。
「これ!これ見てください!」
封筒をくるりと回して差出人を見せた。
彼は名前を目にして、ハッと息を飲んだ。
「何だこれ!お前、あいつの何なんだ!」
俺の返事を待たずに彼は俺の手から手紙を奪い取ると、手紙の封を破いた。
封筒が消え、少し掠れたハスキーな声が、彼に届く。
「大好きな君に、伝えたかったことと、伝えられなかったことがあるんだ」
「あゆむ…」
彼は涙を堪えるように、空を仰いで依頼人の名前を呟いた。
「伝えたかったのは、君を愛してるってこと。友達としての愛じゃないよ。君のためなら何でもしてあげたかったし、幸せにしたかった。もっと具体的に赤裸々に言っちゃうと、肉欲込みの愛だった」
「俺も…」
「伝えられなかったのは、私が女じゃないってこと」
「えっ?」
俺と彼の声が重なった。
ビシッと空間がひび割れたような気がした。
涙目で空を見上げていた男が、おそらく予想だにしていなかったであろう告白に固まっている。
俺もだ。
「私は普通に男なんだ。女顔だから良く女に間違われるし、女性の服や化粧は好きで良く真似ていたし、髭も永久脱毛してて。無理に女装してたわけじゃないんだけど。誤解させたよね。ずっと黙っててごめん」
男は涙を引っ込め、青ざめてフルフルと震えていた。
「君も私のことを好きでいてくれたのは知ってる。けれど、男だってわかったらどうなるかわからなかったから、ずっと言えなかった。家に来たらわかっちゃうことだから自分の口から言いたかったんだ。ごめんね。そして、ずっとありがとう。私はあなたと過ごした日々、幸せでした」
手紙が終わると同時に、依頼人の家から、黒い喪服を着た50代くらいの女性が出てきた。
手紙の音声は幽霊と宛名人にしか聞こえないので、彼女が出てきたのは偶然だ。
母親だろうか。泣き腫らした目をこちらに向けて、通行人なのか客人なのか逡巡している様子だった。
俺は役目を終えて透明化している。
男はポツンとひとり残されて、黒いスーツに黒ネクタイの格好でフラフラと歩き出し。
彼女の前を、無言で通り過ぎた。

「…これで良かったんですか」
俺は依頼人の元に戻り、尋ねた。
彼は寂しそうに笑って、
「母に、私は男が好きだって言えてなかったから。ショック受けると可哀想かなって思って。それは阻止できたから良かったかな。それに、彼に黙ってた罪悪感もあったし…仕方ないよ」
俺は胸がキュッとなった。
色々とままならない。
「ありがとうね」
彼はそんな悲しい結末ながらも、未練は断てたようで、薄く溶けて、消えた。
俺の胸に、苦しさを残して。

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