溢れる気持ち(オリジナル)(秘密の手紙続編)(昨日お題「Kiss」の間の話)(腐)
僕と幽霊のかずやは同居している。
憑かれているわけではないので、お互いの行動に制限はなく、別行動も自由にできる。
僕が就職してからは特に、すれ違いの多い毎日だった。
最近、かずやの様子が変だ。
目が合う時に、ちょっとドキッとするような表情を浮かべる時がある。
(あれはどういう感情の表情なんだろうなぁ)
僕は喫茶店内でアイスティを啜りながら、ぼんやりと考えていた。
道ゆく人を眺めていると、近い表情を浮かべた女性を発見する。
(あ!あんな感じ)
手を大きく振った彼女は、恋人だろう男性と待ち合わせていたらしい。合流すると、人波に消えて行った。
(….いや、やっぱりちょっと違うかな)
続けて、また、近い表情をした男性を見つける。
彼は、駆け寄ってきた幼い少女、おそらく娘と手を繋ぎ、やはり人波に消えていった。
僕は思わず赤面する。
(どうしよう)
かずやの表情が、愛しいものを見るような表情に思えてきた。
(いやいや、自意識過剰だろ、僕!)
心の機微に疎い自分が、他人の表情から正確に感情を読み解けるとは思えない。きっと気のせいだと己に言い聞かせてみるも、そもそもかずやは単純で素直。気分がすぐ顔に出る人なので、誰でもかなりの精度で感情を把握できるとも思っている。
彼は元々スポーツマンで背も高く、モテモテイケメンだった。さらに最近はハードな仕事を経験しているせいか、より大人な雰囲気も加わって、色気マシマシなのである。
その彼にあんな風に見つめられたら、女性はイチコロだろう。
(僕だってクラクラするのに!!)
オタク特有の表現で言うならば「抱いて」である。
「………いや、ダメだろそれは」
「何が?」
耳元で急にかずやの声がして、僕は飛び上がった。
椅子から転げ落ちそうになって、なんとか踏みとどまる。
「おっとあぶね、聡どした?」
「どしたじゃないよ!急にびっくりしたよ」
僕は周囲に怪しまれないよう小声で文句を言った。
かずやはニコニコして、
「ごめんごめん。遅くなって悪かった。すっげー急いで飛んできた。映画、間に合う?」
そう、今日は二人で映画を観に行く約束をしていたのだ。スマホの時刻を確認するに、ちょうど良い時間である。
「30分前だから映画館に向かおうか」
「了解」
僕らは連れ立って映画館に向かった。
僕の好きなアメコミ風トンデモ洋画だった。
すごく面白かったので、最寄駅から家まで歩く道すがら、興奮してずっとかずやに感想をまくしたてていたのだが、ふと気がつくと、かずやが例のあの表情をしていた。
空気が柔らかくて、なんかちょっとくすぐったい。
(…やっぱり愛しいは違うよなぁ…ただのオタクの早口だしなぁ…微笑ましい、うん、これだ)
僕はなんとか納得いく答えを見出して、ひとりホッと胸を撫で下ろした。
Kiss(オリジナル)(秘密の手紙続編)(腐)
「やっと自覚しましたか」
3年前、俺を最期の手紙配達員にスカウトし、そのまま指導員をしている男が、急に現れてそう言った。
「……何を」
俺はわかっていながら無駄な抵抗を試みる。
彼は呆れたように笑って、
「あなたが成仏できない理由ですよ」
と言った。
俺は事故で死んだ時、彼に心残りを打ち明けた最期の手紙を託した。それは無事相手に届いたのだが、俺は成仏しなかった。
成仏しないのは配達員にスカウトされたからだと思っていたのだが、もしかしたら手紙を作成した時点で成仏できない事がわかっていたのかもしれない。
本人も無自覚だった、叶えたい願い。伝えたい想い。
「……自覚したところでな…」
俺は絶望して呟いた。
幼馴染の男友達に恋心を抱いている。
けれど、男同士。受け入れてもらえるわけがない。
伝えるだけで満足か?
俺はどこまで求めてる?
フラれて成仏できるだろうか。
ショックで悪霊になったらどうしよう。
悶々と考えていると、それを遮るように、
「実はあなたには成仏に至る道筋が二つあります」
と声がした。
俺が顔を上げると、彼は指を2本立て、真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「一つはもちろん、心残りをなくす事。もう一つは、配達員として働いたボーナスといいますか、一回、最大1日だけ実体化する事ができます」
「へ?すごっ!」
「ただし!実体化したらもう強制成仏です。あの世へ行っていただきます」
「…そんな事、本当にいいのか?」
「ええ。まぁ、覚悟が決まったら言ってください」
彼はそう言い、ウインクして消えた。
「実体化かぁ…」
俺は夢想する。
1日デートとか、頭を撫でるとか、手を繋ぐとか。
(小学生か!!)
いい歳の大人が考えるレベルに達していなくて凹んだ。けれど、幽霊の今、好きな相手に触れられないことは、思う以上にストレスだった。
そして、自分は歳を取らないが、彼は歳を重ねて大人になってきている。それも辛かった。
幸せになって欲しいと心から願っているが、彼に恋人や妻ができるのをそばで喜んで見守れる自信もない。
現在の居候関係の永遠を考える事はできなかった。
(まぁ、一緒にいる事に限界を感じたら使えるカードの一つとして覚えておこう)
そう、思っていた。
その時が来た。
絶対、今だと思った。
(今!)
精一杯に伸ばした手が、本当に久しぶりに肉に触れる感覚がして感動した。
(良かった!!間に合った!!!)
と、思った瞬間に、手に当たる以上の衝撃が身体中に走った。ドンっという大きな音と、金属が複数ぶつかってガラガラガシャンと跳ねる音がした。
バキボキと全身の骨が折れ、頭からドロドロした血が流れ出るのを自覚して、実体化すげえな、などとうっすら思う。
「か、かずくん?!?!」
震える声が聞こえた。
(良かった、聡は無事か)
過積載のトラックが、バランスを崩して歩道に突っ込んでいくのが見えた。その先に彼がいるのが見え、咄嗟に実体化して突き飛ばしたのだった。
俺は首も動かせずに仰向けに倒れていたが、その視界に、泣き顔の友の無事な姿が現れた。
「かずくん!?なんで?!どうしたの?これ何なの?大丈夫なの?!どうして?」
混乱して、俺の手をぎゅっと握って捲し立てた。
涙がポロポロ降ってくる。
「死んじゃダメだよ!!かずくん!!」
いや、元々死んでるんだけどな。
俺はクスリと笑おうとして、うまくいかなかった。生身ってすごい。痛い。
「さと、し」
俺はありったけの気力を振り絞った。
これが本当に最期だから、伝えなければと思った。
「すき、だった、よ…ありがと、な…」
幸せに、と続けたかったけれど、もう息が続かなかった。
「かずくん!そんなの!僕も!僕だって!」
力尽きて目を閉じた俺の両頬に手を当てて、聡は俺にキスをした。いや、人工呼吸かな?1日限定の実体化だったけど、身体がこんなになっちゃったらもう強制成仏しかないだろうな。人工呼吸しても無駄なんだけどな。聡ごめんな。
「かずくん!僕も君が大好きだよ!!愛してる!だからまだいかないで!一緒にいよう!ずっと一緒にいてよ!お願いだから!ねぇ!かずくん!幽霊にもなってくれないの?ねぇ!!」
本当になぁ。
俺は一筋の涙を流した。
俺は恥ずかしくて愛してると言えなかったけれど、正確に意図を汲んでくれた上に、同じ気持ちだったと言ってくれた。お前はなんて男前なんだ。
いつから両想いだったのだろう。
もっと早く言えていたら何か変わっていたのかな。
けれど、唯一の実体化を、聡を助けることに使えて、俺は嬉しかった。
きっとこの時のために俺は成仏しなかったんだ。
聡、ありがとうな。
俺は満足して意識を手放した。
1000年先も(914.6)
1000年先も残る物って何だろう。
1000年前には源氏物語があって、今も読めている。
さらに1000年前にはヒエログリフがあって、国や王や税がどうだったかわかっている。
時代の進みが早い現代から1000年後はどうだろうか。
音声や映像の記録媒体はネットを残して全滅だろうなぁ。
ネットも、古の有識者のホームページは駆逐されてAIが広がりつつある。
たかだか1000年。
されど1000年。
勿忘草(914.6)
私を忘れないで。
真実の愛。
真実の友情。
勿忘草の花言葉である。
ここ数日、ちょい長めの小説が書けていました。
妄想が捗っていたり自分の中で盛り上がっていると、お題をこじつけて色々書けるものです。
今回も上記花言葉を使って腐った話が妄想できたのですが、ちょっとお腹いっぱい気味なので小休止。
と、思ったのですが、お風呂に入ったら妄想が進みました。いつもそう。寝不足になるのに…。
残しておこう。
ちょっとだいぶ腐ってます。注意。
勿忘草(オリジナル)(秘密の手紙続編)(腐)
仕事を終えて我が家に帰り着くと、テーブルの上に、小さくて青い可憐な花が複数枚散らばっていた。
「かずくん?」
「おっ!お帰り、聡」
「これ、どうしたの?」
「ああ、これ、今日の仕事のお土産」
幽霊は物に触れられないのだが、彼が持つ仕事専用不思議スマホに、封筒に入るサイズの物であれば出し入れできる機能がついており、かずやは最近、それを使って時々こうしてお土産を持って帰ってくる。
僕は小さな花を大事に拾い集めた。
クローゼットの奥から、大事にしまってあった小さな瓶を取り出す。
「あ!それ!」
「懐かしいでしょ」
小学生の頃、かずやがハマっていた球団のグッズだ。
自分にくれたのをどう使ったものか、しまい込んでいたのだが、小さくて今回の花瓶にちょうど良い。
水を入れ、花を挿す。
花が少なすぎてパラパラ広がってしまったが、それもまた良し。
僕らはテーブルを挟んでしばらくその花を見つめあった。
side:聡
青い勿忘草。花言葉は真実の愛。
仕事のお土産だと言っていたけれど、誰かがこれを贈ったのだろうか。
しかしどうしてかずくんはこれを僕へのお土産にしようと思ったんだろう?彼、花言葉とか詳しくなさそうだし、お花にも興味ないと思うんだけどなぁ。
まぁ、男に持って帰るなら青が良いかな、くらいのテンションかな?
それにしても…すごく嬉しそうな顔してお花見てるなぁ。お花好きだったのかなぁ。意外。それとも懐かしい球団グッズの方かな?喜んでくれたのなら嬉しい。しかし…穏やかにそうやって微笑んでると格好良いなあ。僕でもドキドキしちゃうぞ!このイケメンめ!
side:かずや
青い勿忘草。花言葉は真実の愛。
聡への恋心を自覚したは良いが、とても言えるものではない。そこに今日の依頼と来たもんだ。
面と向かって言えない気持ちを花言葉で贈るなんて、なんて奥ゆかしいんだ!最期なんだからちゃんと言え!と思っちまったけど、ふたりの間ではなんか納得してたから、あれはあれで良かったんだと思う。
なんか感動して、俺も聡に贈りたくなったんだ。
伝わらなくていい。むしろ伝わらないでくれ。
ただ、俺の気持ちとして、彼にあげたかった。
自己満足だ。
俺が昔あげた子供のおもちゃのような瓶を大事に取っておいてくれた事も嬉しい。
花の向こうで聡が嬉しそうに笑っているのも良い。
ああ、可愛い。好きだなぁ。
ブランコ(オリジナル)(秘密の手紙続編)(微腐)
俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしていて、見習いから始めてもう3年になる。
俺は大学2年の冬に事故で死んだので、同級生はもう社会人だ。
今日、俺は仕事を終え、居候させてもらっている同級生の家に、夜の9時頃帰ってきた。
「ただい…」
マンションの一室、ベランダの窓をすり抜けようとして、すんでのところで思いとどまった。
家人以外の人の気配がある。
俺の姿は他人には見えないが、突然現れたら家人は反応に困るだろう。
(珍しいな?)
彼はとても真面目なので、家に誰かを呼ぶ時は事前に教えておいてくれるし、そもそも家に他人を招く事自体、滅多にない事だった。
俺は「恋人を連れ込む時はどっかに行っててやるから事前に言えよ」なんて、からかい半分で言っていたのだけれど。
(誰だろう?)
穏やかな話し声だけが聞こえる。
カーテンの隙間から覗くと、可愛い女性がいた。
(?!!?!)
思ったより狼狽している自分がいて驚いた。
(俺は何を驚いているんだ?!)
そのまま耳をそばだてる。
どうやら会社の同僚で、職場で飲み会があった帰りのようだった。
(女を連れ込むとは、聡、やるな?!)
俺はドキドキしながら彼女と友人を観察した。
彼女の方は顔を赤らめて、瞳をキラキラさせながら楽しそうに話をしている。友人に気がありそうだ。
友人は少し困ったように笑っているが、優しく受け答えしていた。満更でもない顔の気がする。
俺は見ていられなくなって、近所の小さな公園に逃げ込んだ。
ブランコがあったので腰かける。
実体がないので透過するのだが、座りたい。
気分の問題だ。
(何でショック?)
俺は頭を抱えて、悶々と考えた。
友人にようやく訪れた春ではないか。
女を連れ込めと言っていたのは俺の方だ。
女性経験がないまま死んだ己と比べて羨ましくなったのか?
友人を取られたようで寂しいのか?
帰る家がなくなって悲しいのか?
どれもその通りのような気もするし、けれどどれも真の理由ではない気がした。
冬の寒空の下、頭も身体もキンキンに冷えている。
ブランコは風にキコキコ揺れ、俺も合わせてユラユラ揺れた。
もし彼に良い人ができたら、俺はどうするのだろう。
そもそもこの配達員の仕事を続けられるんだろうか。
(……成仏するのかもな)
薄ら寒いけれど納得もできる想像をしてしまって、俺は落ち込んだ。
人の成仏を手伝っておきながら自分はまだ成仏したくないとか。
(格好悪いな…俺)
顔を俯けたまま、俺は長い時間、動けなかった。
「かずくん!!」
突然聞き慣れた声がして、俺はゆっくり顔をあげた。
息を切らして、顔を真っ赤にした友人が公園の入り口に立っている。
「……さとし?」
「探した!!」
彼は大股でズンズンこちらに近づいてくる。
「へ?」
「一度帰って来たのに、全然戻ってこないから」
怒った声でそこまで言って、彼は震える声で、
「心配した」
と呟いた。
俺の肩に手でも置きたいのだろうが、それはできないのでブランコのチェーンを強く掴んでいる。
冷たいだろうに。
「いや、邪魔しちゃ悪いと思って…」
「邪魔なんかじゃないよ」
「……可愛くて良い子そうじゃないか」
「ただの同僚だよ。飲んで具合悪くなったって言うから休憩させてあげてたんだけど、全然元気だから帰ってもらった」
俺は驚愕のあまり、目が点になった。
「おっまえ!!な!ん!で!もったいない!!」
「はぁ?かずくん女性見る目ないでしょ。酔ったフリするような子、僕は嫌だ」
普段穏やかな彼が、ぷんぷんと怒っている。
それがちょっと面白くて、俺は少し気分が浮上するのを感じた。
「ひでぇなぁ」
なんだか泣き笑いみたいな顔になってしまった。
彼はキュッと唇を噛み締めると、
「ごめんね、かずくん。寒かったでしょ。あそこはかずくんの家でもあるんだから、気にせず出入りしてくれて良いんだからね」
危なかった。
俺は危うく涙をこぼすところであった。
嬉しい。
嬉しくて仕方がない。
温度をあまり感じない幽霊の俺よりも、寒い中走り回って探してくれた彼の方が冷えているに違いなく、彼を抱きしめてやりたくてたまらなかった。
けれど、幽霊は人に触れない。
(何で俺は生きていないんだろうなぁ)
俺は彼の頭に手を置き、顔に触れ、手が透過するのを見て悲しくなった。
「かずくん?」
「ありがとな、聡。寒いから帰ろう」
俺たちの家に。
俺は、いつか成仏する日が来るだろう。
彼に最期の手紙で贈った「幸せになって」の言葉は、まだ深くこの胸にある。
彼を悲しませないように逝けると良いのだが。
少しの覚悟と決意を持って、これからの日々を過ごしていこうと思う。