Kiss(オリジナル)(秘密の手紙続編)(腐)
「やっと自覚しましたか」
3年前、俺を最期の手紙配達員にスカウトし、そのまま指導員をしている男が、急に現れてそう言った。
「……何を」
俺はわかっていながら無駄な抵抗を試みる。
彼は呆れたように笑って、
「あなたが成仏できない理由ですよ」
と言った。
俺は事故で死んだ時、彼に心残りを打ち明けた最期の手紙を託した。それは無事相手に届いたのだが、俺は成仏しなかった。
成仏しないのは配達員にスカウトされたからだと思っていたのだが、もしかしたら手紙を作成した時点で成仏できない事がわかっていたのかもしれない。
本人も無自覚だった、叶えたい願い。伝えたい想い。
「……自覚したところでな…」
俺は絶望して呟いた。
幼馴染の男友達に恋心を抱いている。
けれど、男同士。受け入れてもらえるわけがない。
伝えるだけで満足か?
俺はどこまで求めてる?
フラれて成仏できるだろうか。
ショックで悪霊になったらどうしよう。
悶々と考えていると、それを遮るように、
「実はあなたには成仏に至る道筋が二つあります」
と声がした。
俺が顔を上げると、彼は指を2本立て、真剣な面持ちでこちらを見ていた。
「一つはもちろん、心残りをなくす事。もう一つは、配達員として働いたボーナスといいますか、一回、最大1日だけ実体化する事ができます」
「へ?すごっ!」
「ただし!実体化したらもう強制成仏です。あの世へ行っていただきます」
「…そんな事、本当にいいのか?」
「ええ。まぁ、覚悟が決まったら言ってください」
彼はそう言い、ウインクして消えた。
「実体化かぁ…」
俺は夢想する。
1日デートとか、頭を撫でるとか、手を繋ぐとか。
(小学生か!!)
いい歳の大人が考えるレベルに達していなくて凹んだ。けれど、幽霊の今、好きな相手に触れられないことは、思う以上にストレスだった。
そして、自分は歳を取らないが、彼は歳を重ねて大人になってきている。それも辛かった。
幸せになって欲しいと心から願っているが、彼に恋人や妻ができるのをそばで喜んで見守れる自信もない。
現在の居候関係の永遠を考える事はできなかった。
(まぁ、一緒にいる事に限界を感じたら使えるカードの一つとして覚えておこう)
そう、思っていた。
その時が来た。
絶対、今だと思った。
(今!)
精一杯に伸ばした手が、本当に久しぶりに肉に触れる感覚がして感動した。
(良かった!!間に合った!!!)
と、思った瞬間に、手に当たる以上の衝撃が身体中に走った。ドンっという大きな音と、金属が複数ぶつかってガラガラガシャンと跳ねる音がした。
バキボキと全身の骨が折れ、頭からドロドロした血が流れ出るのを自覚して、実体化すげえな、などとうっすら思う。
「か、かずくん?!?!」
震える声が聞こえた。
(良かった、聡は無事か)
過積載のトラックが、バランスを崩して歩道に突っ込んでいくのが見えた。その先に彼がいるのが見え、咄嗟に実体化して突き飛ばしたのだった。
俺は首も動かせずに仰向けに倒れていたが、その視界に、泣き顔の友の無事な姿が現れた。
「かずくん!?なんで?!どうしたの?これ何なの?大丈夫なの?!どうして?」
混乱して、俺の手をぎゅっと握って捲し立てた。
涙がポロポロ降ってくる。
「死んじゃダメだよ!!かずくん!!」
いや、元々死んでるんだけどな。
俺はクスリと笑おうとして、うまくいかなかった。生身ってすごい。痛い。
「さと、し」
俺はありったけの気力を振り絞った。
これが本当に最期だから、伝えなければと思った。
「すき、だった、よ…ありがと、な…」
幸せに、と続けたかったけれど、もう息が続かなかった。
「かずくん!そんなの!僕も!僕だって!」
力尽きて目を閉じた俺の両頬に手を当てて、聡は俺にキスをした。いや、人工呼吸かな?1日限定の実体化だったけど、身体がこんなになっちゃったらもう強制成仏しかないだろうな。人工呼吸しても無駄なんだけどな。聡ごめんな。
「かずくん!僕も君が大好きだよ!!愛してる!だからまだいかないで!一緒にいよう!ずっと一緒にいてよ!お願いだから!ねぇ!かずくん!幽霊にもなってくれないの?ねぇ!!」
本当になぁ。
俺は一筋の涙を流した。
俺は恥ずかしくて愛してると言えなかったけれど、正確に意図を汲んでくれた上に、同じ気持ちだったと言ってくれた。お前はなんて男前なんだ。
いつから両想いだったのだろう。
もっと早く言えていたら何か変わっていたのかな。
けれど、唯一の実体化を、聡を助けることに使えて、俺は嬉しかった。
きっとこの時のために俺は成仏しなかったんだ。
聡、ありがとうな。
俺は満足して意識を手放した。
2/4/2026, 12:15:56 PM