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ブランコ(オリジナル)(秘密の手紙続編)(微腐)

俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしていて、見習いから始めてもう3年になる。
俺は大学2年の冬に事故で死んだので、同級生はもう社会人だ。
今日、俺は仕事を終え、居候させてもらっている同級生の家に、夜の9時頃帰ってきた。
「ただい…」
マンションの一室、ベランダの窓をすり抜けようとして、すんでのところで思いとどまった。
家人以外の人の気配がある。
俺の姿は他人には見えないが、突然現れたら家人は反応に困るだろう。
(珍しいな?)
彼はとても真面目なので、家に誰かを呼ぶ時は事前に教えておいてくれるし、そもそも家に他人を招く事自体、滅多にない事だった。
俺は「恋人を連れ込む時はどっかに行っててやるから事前に言えよ」なんて、からかい半分で言っていたのだけれど。
(誰だろう?)
穏やかな話し声だけが聞こえる。
カーテンの隙間から覗くと、可愛い女性がいた。
(?!!?!)
思ったより狼狽している自分がいて驚いた。
(俺は何を驚いているんだ?!)
そのまま耳をそばだてる。
どうやら会社の同僚で、職場で飲み会があった帰りのようだった。
(女を連れ込むとは、聡、やるな?!)
俺はドキドキしながら彼女と友人を観察した。
彼女の方は顔を赤らめて、瞳をキラキラさせながら楽しそうに話をしている。友人に気がありそうだ。
友人は少し困ったように笑っているが、優しく受け答えしていた。満更でもない顔の気がする。
俺は見ていられなくなって、近所の小さな公園に逃げ込んだ。
ブランコがあったので腰かける。
実体がないので透過するのだが、座りたい。
気分の問題だ。
(何でショック?)
俺は頭を抱えて、悶々と考えた。
友人にようやく訪れた春ではないか。
女を連れ込めと言っていたのは俺の方だ。
女性経験がないまま死んだ己と比べて羨ましくなったのか?
友人を取られたようで寂しいのか?
帰る家がなくなって悲しいのか?
どれもその通りのような気もするし、けれどどれも真の理由ではない気がした。
冬の寒空の下、頭も身体もキンキンに冷えている。
ブランコは風にキコキコ揺れ、俺も合わせてユラユラ揺れた。
もし彼に良い人ができたら、俺はどうするのだろう。
そもそもこの配達員の仕事を続けられるんだろうか。
(……成仏するのかもな)
薄ら寒いけれど納得もできる想像をしてしまって、俺は落ち込んだ。
人の成仏を手伝っておきながら自分はまだ成仏したくないとか。
(格好悪いな…俺)
顔を俯けたまま、俺は長い時間、動けなかった。

「かずくん!!」
突然聞き慣れた声がして、俺はゆっくり顔をあげた。
息を切らして、顔を真っ赤にした友人が公園の入り口に立っている。
「……さとし?」
「探した!!」
彼は大股でズンズンこちらに近づいてくる。
「へ?」
「一度帰って来たのに、全然戻ってこないから」
怒った声でそこまで言って、彼は震える声で、
「心配した」
と呟いた。
俺の肩に手でも置きたいのだろうが、それはできないのでブランコのチェーンを強く掴んでいる。
冷たいだろうに。
「いや、邪魔しちゃ悪いと思って…」
「邪魔なんかじゃないよ」
「……可愛くて良い子そうじゃないか」
「ただの同僚だよ。飲んで具合悪くなったって言うから休憩させてあげてたんだけど、全然元気だから帰ってもらった」
俺は驚愕のあまり、目が点になった。
「おっまえ!!な!ん!で!もったいない!!」
「はぁ?かずくん女性見る目ないでしょ。酔ったフリするような子、僕は嫌だ」
普段穏やかな彼が、ぷんぷんと怒っている。
それがちょっと面白くて、俺は少し気分が浮上するのを感じた。
「ひでぇなぁ」
なんだか泣き笑いみたいな顔になってしまった。
彼はキュッと唇を噛み締めると、
「ごめんね、かずくん。寒かったでしょ。あそこはかずくんの家でもあるんだから、気にせず出入りしてくれて良いんだからね」
危なかった。
俺は危うく涙をこぼすところであった。
嬉しい。
嬉しくて仕方がない。
温度をあまり感じない幽霊の俺よりも、寒い中走り回って探してくれた彼の方が冷えているに違いなく、彼を抱きしめてやりたくてたまらなかった。
けれど、幽霊は人に触れない。
(何で俺は生きていないんだろうなぁ)
俺は彼の頭に手を置き、顔に触れ、手が透過するのを見て悲しくなった。
「かずくん?」
「ありがとな、聡。寒いから帰ろう」
俺たちの家に。

俺は、いつか成仏する日が来るだろう。
彼に最期の手紙で贈った「幸せになって」の言葉は、まだ深くこの胸にある。
彼を悲しませないように逝けると良いのだが。
少しの覚悟と決意を持って、これからの日々を過ごしていこうと思う。

2/1/2026, 12:22:47 PM