1000年先も(914.6)
1000年先も残る物って何だろう。
1000年前には源氏物語があって、今も読めている。
さらに1000年前にはヒエログリフがあって、国や王や税がどうだったかわかっている。
時代の進みが早い現代から1000年後はどうだろうか。
音声や映像の記録媒体はネットを残して全滅だろうなぁ。
ネットも、古の有識者のホームページは駆逐されてAIが広がりつつある。
たかだか1000年。
されど1000年。
勿忘草(914.6)
私を忘れないで。
真実の愛。
真実の友情。
勿忘草の花言葉である。
ここ数日、ちょい長めの小説が書けていました。
妄想が捗っていたり自分の中で盛り上がっていると、お題をこじつけて色々書けるものです。
今回も上記花言葉を使って腐った話が妄想できたのですが、ちょっとお腹いっぱい気味なので小休止。
と、思ったのですが、お風呂に入ったら妄想が進みました。いつもそう。寝不足になるのに…。
残しておこう。
ちょっとだいぶ腐ってます。注意。
勿忘草(オリジナル)(秘密の手紙続編)(腐)
仕事を終えて我が家に帰り着くと、テーブルの上に、小さくて青い可憐な花が複数枚散らばっていた。
「かずくん?」
「おっ!お帰り、聡」
「これ、どうしたの?」
「ああ、これ、今日の仕事のお土産」
幽霊は物に触れられないのだが、彼が持つ仕事専用不思議スマホに、封筒に入るサイズの物であれば出し入れできる機能がついており、かずやは最近、それを使って時々こうしてお土産を持って帰ってくる。
僕は小さな花を大事に拾い集めた。
クローゼットの奥から、大事にしまってあった小さな瓶を取り出す。
「あ!それ!」
「懐かしいでしょ」
小学生の頃、かずやがハマっていた球団のグッズだ。
自分にくれたのをどう使ったものか、しまい込んでいたのだが、小さくて今回の花瓶にちょうど良い。
水を入れ、花を挿す。
花が少なすぎてパラパラ広がってしまったが、それもまた良し。
僕らはテーブルを挟んでしばらくその花を見つめあった。
side:聡
青い勿忘草。花言葉は真実の愛。
仕事のお土産だと言っていたけれど、誰かがこれを贈ったのだろうか。
しかしどうしてかずくんはこれを僕へのお土産にしようと思ったんだろう?彼、花言葉とか詳しくなさそうだし、お花にも興味ないと思うんだけどなぁ。
まぁ、男に持って帰るなら青が良いかな、くらいのテンションかな?
それにしても…すごく嬉しそうな顔してお花見てるなぁ。お花好きだったのかなぁ。意外。それとも懐かしい球団グッズの方かな?喜んでくれたのなら嬉しい。しかし…穏やかにそうやって微笑んでると格好良いなあ。僕でもドキドキしちゃうぞ!このイケメンめ!
side:かずや
青い勿忘草。花言葉は真実の愛。
聡への恋心を自覚したは良いが、とても言えるものではない。そこに今日の依頼と来たもんだ。
面と向かって言えない気持ちを花言葉で贈るなんて、なんて奥ゆかしいんだ!最期なんだからちゃんと言え!と思っちまったけど、ふたりの間ではなんか納得してたから、あれはあれで良かったんだと思う。
なんか感動して、俺も聡に贈りたくなったんだ。
伝わらなくていい。むしろ伝わらないでくれ。
ただ、俺の気持ちとして、彼にあげたかった。
自己満足だ。
俺が昔あげた子供のおもちゃのような瓶を大事に取っておいてくれた事も嬉しい。
花の向こうで聡が嬉しそうに笑っているのも良い。
ああ、可愛い。好きだなぁ。
ブランコ(オリジナル)(秘密の手紙続編)(微腐)
俺は最期の手紙配達員をしている幽霊だ。
心残りがあって成仏できない人の手紙を相手に届ける仕事をしていて、見習いから始めてもう3年になる。
俺は大学2年の冬に事故で死んだので、同級生はもう社会人だ。
今日、俺は仕事を終え、居候させてもらっている同級生の家に、夜の9時頃帰ってきた。
「ただい…」
マンションの一室、ベランダの窓をすり抜けようとして、すんでのところで思いとどまった。
家人以外の人の気配がある。
俺の姿は他人には見えないが、突然現れたら家人は反応に困るだろう。
(珍しいな?)
彼はとても真面目なので、家に誰かを呼ぶ時は事前に教えておいてくれるし、そもそも家に他人を招く事自体、滅多にない事だった。
俺は「恋人を連れ込む時はどっかに行っててやるから事前に言えよ」なんて、からかい半分で言っていたのだけれど。
(誰だろう?)
穏やかな話し声だけが聞こえる。
カーテンの隙間から覗くと、可愛い女性がいた。
(?!!?!)
思ったより狼狽している自分がいて驚いた。
(俺は何を驚いているんだ?!)
そのまま耳をそばだてる。
どうやら会社の同僚で、職場で飲み会があった帰りのようだった。
(女を連れ込むとは、聡、やるな?!)
俺はドキドキしながら彼女と友人を観察した。
彼女の方は顔を赤らめて、瞳をキラキラさせながら楽しそうに話をしている。友人に気がありそうだ。
友人は少し困ったように笑っているが、優しく受け答えしていた。満更でもない顔の気がする。
俺は見ていられなくなって、近所の小さな公園に逃げ込んだ。
ブランコがあったので腰かける。
実体がないので透過するのだが、座りたい。
気分の問題だ。
(何でショック?)
俺は頭を抱えて、悶々と考えた。
友人にようやく訪れた春ではないか。
女を連れ込めと言っていたのは俺の方だ。
女性経験がないまま死んだ己と比べて羨ましくなったのか?
友人を取られたようで寂しいのか?
帰る家がなくなって悲しいのか?
どれもその通りのような気もするし、けれどどれも真の理由ではない気がした。
冬の寒空の下、頭も身体もキンキンに冷えている。
ブランコは風にキコキコ揺れ、俺も合わせてユラユラ揺れた。
もし彼に良い人ができたら、俺はどうするのだろう。
そもそもこの配達員の仕事を続けられるんだろうか。
(……成仏するのかもな)
薄ら寒いけれど納得もできる想像をしてしまって、俺は落ち込んだ。
人の成仏を手伝っておきながら自分はまだ成仏したくないとか。
(格好悪いな…俺)
顔を俯けたまま、俺は長い時間、動けなかった。
「かずくん!!」
突然聞き慣れた声がして、俺はゆっくり顔をあげた。
息を切らして、顔を真っ赤にした友人が公園の入り口に立っている。
「……さとし?」
「探した!!」
彼は大股でズンズンこちらに近づいてくる。
「へ?」
「一度帰って来たのに、全然戻ってこないから」
怒った声でそこまで言って、彼は震える声で、
「心配した」
と呟いた。
俺の肩に手でも置きたいのだろうが、それはできないのでブランコのチェーンを強く掴んでいる。
冷たいだろうに。
「いや、邪魔しちゃ悪いと思って…」
「邪魔なんかじゃないよ」
「……可愛くて良い子そうじゃないか」
「ただの同僚だよ。飲んで具合悪くなったって言うから休憩させてあげてたんだけど、全然元気だから帰ってもらった」
俺は驚愕のあまり、目が点になった。
「おっまえ!!な!ん!で!もったいない!!」
「はぁ?かずくん女性見る目ないでしょ。酔ったフリするような子、僕は嫌だ」
普段穏やかな彼が、ぷんぷんと怒っている。
それがちょっと面白くて、俺は少し気分が浮上するのを感じた。
「ひでぇなぁ」
なんだか泣き笑いみたいな顔になってしまった。
彼はキュッと唇を噛み締めると、
「ごめんね、かずくん。寒かったでしょ。あそこはかずくんの家でもあるんだから、気にせず出入りしてくれて良いんだからね」
危なかった。
俺は危うく涙をこぼすところであった。
嬉しい。
嬉しくて仕方がない。
温度をあまり感じない幽霊の俺よりも、寒い中走り回って探してくれた彼の方が冷えているに違いなく、彼を抱きしめてやりたくてたまらなかった。
けれど、幽霊は人に触れない。
(何で俺は生きていないんだろうなぁ)
俺は彼の頭に手を置き、顔に触れ、手が透過するのを見て悲しくなった。
「かずくん?」
「ありがとな、聡。寒いから帰ろう」
俺たちの家に。
俺は、いつか成仏する日が来るだろう。
彼に最期の手紙で贈った「幸せになって」の言葉は、まだ深くこの胸にある。
彼を悲しませないように逝けると良いのだが。
少しの覚悟と決意を持って、これからの日々を過ごしていこうと思う。
旅路の果てに(オリジナル)(秘密の手紙続編)
俺は最期の手紙配達員の見習いをしている幽霊だ。
成仏できない人の心残りを手紙にして届ける仕事をしている。
今日の依頼人は60代半ばの男性だった。
俺の仕事を説明したのだが反応が薄く、ずっと茫然としている。
「あの、聞いてます?」
目の前で手を振ってみたのだが、全く反応がない。
猫だましのように目の前でパチンと手を叩いてようやく、彼はハッと我に返った。
「俺…死んだ…のか??」
「えっ?そこから?!」
俺は驚いた。俺が派遣されるのは明確に誰かに何かの言葉を残したい人ばかりだったので、今回のケースは想定外だ。
「えーと、最期に誰かに何か伝えたい事、あったりしますよね?」
俺は恐る恐る声をかけた。
彼はがくりと膝を折る。
両手で頭をかかえて小さくなった。
「俺の人生…何だったんだ…」
「え?」
「伝えたい事だって?何だそれ。それこそ誰かの何かになりたかった。誰かの一番になりたくて、何者かになりたくて、色々頑張ってきたさ。それなりに友達も、時には恋人もいたけどさ。何だよ、死んだら何も残らねぇじゃねぇか。…いや、死ぬ前だって何も残っちゃいなかった…生きるために頑張って働いて、働いて、食べて、寝て。何やってたんだろうな、俺」
彼は顔をあげて俺を見たが、目は虚ろだった。
「自分の葬式を見たんだ」
「はぁ」
「…夢だと思った。胸糞悪い夢だって。でも、本当だったんだな。……誰も来ちゃくれなかった。そんなもんだったんだ。俺の生きた65年なんて…」
俺の胸はズキンと痛んだ。いや、俺は幽霊だから厳密には心臓ないんだけれど。そのくらい痛みを覚えたって事だ。
人生の旅路の果てに、己の存在が、誰にも何も残らなかったと思うのは辛い。
何のために生きてきたのかと思ってしまうのは辛い。
俺は何も言えなくなって、黙って俯いてしまった。
彼は最期に何を残せば成仏できるのだろう。
俺にはわからなかった。
俺はようやくできた手紙を手に、地方に来ていた。
幽霊に距離はあまり関係ない。
今回はイレギュラーで、依頼人も一緒に来ていた。
「母さん…」
手紙の宛先は、彼の88歳の母親だった。
手紙を渡すと、彼女は無言で封を切った。
震える息子の声が、宙に溶け出す。
「母さん、俺の葬式大変やったよな。ありがとう」
母は静かに首を横に振った。
「俺…何者にもなれんかったよ。昔よう言うてたよな、立派な人になれ、幸せな家庭を築けって。結局、結婚もせん、子供もおらん、親孝行、全然できんかった、ごめん」
悔恨の滲むその声に、母は静かに返事を返した。
「そんな事ないで。信二。真っ当に生きて、最後まで誰に迷惑かけるでもなく、元気に65歳まで頑張って生きたんやろ。こんなありがたい事ないよ。そんな、卑下する方が悲しいわ。私ゃ嬉しかったし楽しかったよ。生まれてきてくれてありがとうね」
「母さん!!!」
幽霊の息子は母に縋りついて号泣した。もちろん、姿も声も、母には届かない。
けれど、母は手紙の肉声に彼の存在を感じるようで、母の顔をしてただただ微笑んでいた。
「ただ、親より先に死ぬやつがあるかい。それだけは親不孝なんだから反省しいや」
息子は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、うんうんと激しく頷いている。
「ごめん、ごめん、母さん」
存在を認められ、人生を肯定された。
許された。
己の人生への肯定的な想いが皆無であった事が、彼を悪霊たらしめようとしていて、成仏から遠ざけられていたようだった。
彼は満足して徐々に薄れ、やがて、消えた。
「……息子の手紙、ありがとうねぇ」
「いえ」
俺はもらい泣きして目も顔も真っ赤にしたまま首を横に振った。
「…私の言葉が呪いになっていたんかねぇ。偉くならんといかんとか。将来食うに困らなきゃ良いと思って言った言葉やったけど。良い母親やなかったねぇ」
「そんな事ないです。彼はとてもお母さんが大好きでしたよ」
成仏する前、彼は65歳の姿から巻き戻り、8歳くらいの少年の姿になっていた。あれは、彼が最も母に甘えられていた幸せな頃の姿だったに違いない。
「ありがとうねぇ。そうだ、君、飴ちゃんあげようね。不思議な手紙やったし、君も不思議な子ぉやけど、元気でおりや。元気が一番やで」
彼女は巾着の袋から飴を一掴み、俺の手に握らせてくれた。
「ありがとうございます。友達といただきます」
俺は涙を拭くと、一礼して家を出た。
(反省しいや、か)
彼女の言葉は俺にも響いていた。
俺も親不孝者だ。
胸がズキズキと痛む。
だから実家には長い間帰れていない。
友達の家に居候を決めたのは、そんな気持ちもあっての事だった。
それでも、今日は家族に会いに行こうと思う。
俺の声も姿も家族は認識できないので、俺が一方的に見るだけだけれど。
勇気の飴ちゃんを一つ口に入れて、俺は空を駆けた。
あなたに届けたい(オリジナル)(秘密の手紙続編)
俺は最期の手紙配達員の見習いをしている幽霊だ。
思い残しがあって成仏できない人の、伝えたいメッセージを本人に代わって相手に伝える仕事だ。
今日の依頼人は小さくて可愛いお婆さんだった。
70年連れ添った旦那さんに言い忘れた事があるという。
俺はお婆ちゃんっ子だったので、もうそれだけで泣きそうだった。親不孝にも、祖父母不幸にも、俺は事故で先立ってしまったわけだけれど。
閑話休題。
スマホ操作が苦手らしく、音声録音を手伝ったので手紙の中身を聞いてしまったのだが、俺は号泣してしまった。
「敏夫さん、ちゃんと食べていますか。ちゃんと寝ていますか。心配です。あなたを看取ってあげたかったけれど、先に亡くなってしまってごめんなさい。あなたの好きな筑前煮が冷蔵庫に入っているので、腐る前に食べてくださいね。ずっと一緒にいてくれてありがとうございました。私は幸せでした」
俺は涙と鼻水を袖で拭きながら、何が心残りで成仏できないのかと尋ねた。
お婆さんはふふふと笑って、
「冷蔵庫の筑前煮。もったいないじゃない?」
などと言う。
そんな馬鹿な。照れ隠しだろうか。
俺は手紙を実体化すると、配達先に飛んだ。
その家は、人が住んでいるのが不思議なほどの、崩れたあばら屋だった。
呼び鈴などなく、玄関をノックする。
「すみませーん!」
耳が遠いかもしれないので大きな声をあげると、戸がガラガラと音を立てて開いた。
現れたのは、腰が曲がり、髪がボサボサの、覇気のない老人だった。
「お届け物です」
俺は手紙を差し出した。
彼は手紙の差出人を見て、驚いたように顔をあげた。
俺は小さく頷く。
彼は震える手で手紙の端を破った。
すぐに封筒は消え、音声が流れ出す。
お爺さんは黙って聞いていたが、最後に両手を顔に当てて唸った。
指の隙間から、涙がボロボロと溢れている。
俺も一緒になって泣いた。
やがて、彼は語ってくれた。
ふたりはお金がなく、日々の食事にも困る生活をしていたこと。
昨日が自分の誕生日だったこと。
おそらく日々の生活費や通院費を切り詰めて、サプライズで好物を用意してくれていたこと。
電気も止められる事があったので、冷蔵庫はあまり使っていない。しかも自分は料理をほとんどしないので、冷蔵庫を開ける機会があまりない。気づかれずに腐ってしまう事を、彼女はもったいないと思ってこんな手紙を残したのであろう事。
「あいつはそういうヤツだったから」
お爺さんはしみじみと、笑みを浮かべながら言った。
お婆さんの心残りを的確に言い当てるお爺さんに、俺はいたく感動してしまった。
(いいなぁ。こういう関係)
俺はもう幽霊なので、羨んだとて決して真似できない未来なのだけれど。
ちょっとチクリとした。
お爺さんは空に向かって顔を上げると、
「和江!ありがとうなぁ!」
大きな声を張り上げた。
お婆さんに届くように。
俺は役目を終えて透明化した。
お爺さんは顔を戻して俺がいない(見えない)ことに驚いたようだったが、手紙も含めて何も残らない。
夢でも見たのかと首を捻りながら、家の中に戻っていった。