タイムマシーン(オリジナル)
タイムマシーンを発明した。
皆には秘密だ。
しかも、車に乗る感覚で手軽に使える。
我ながら天才だ。
ただし、未来には行けない。
あくまで行き来できるのは、過去と現在だけだ。
タイムマシーンを夢想する誰もが考えるように、賭け事には本当に有用で、開発費用もすぐに回収できた。
人生の選択肢を誤って過去に戻った時など、たまに、新たな選択肢が本当に良かったのか、検証のため、その時間軸に長めに残る事もある。
とはいえ、各1回のやり直しで、概ね順調だった。
過去を過ごしていて、たまに現在軸を超えてしまう事もあったが、結局はそれも過去になるため、やり直しはいくらでもきく。
やがて、賭け事に勝つ勝負師として有名になった。
そして、SNSやテレビで「老け顔」と指摘されて初めて気がついた。
過去に戻る自分の年齢が、巻き戻っていない事を。
元の時間軸に戻った時、過去で過ごした時間分、歳をとっていたのだ。
小中学生まで戻ろうとした事がなかったので気づかなかったが、当たり前といえば当たり前である。
あまりに手軽すぎて、巻き戻ししすぎていた。
生誕年から算出すると実際は40歳なのだが、見た目と身体は50歳になっていた。
このままでは早死にしてしまう。
けれど、この便利さを手放したくはない。
結局、未来の世界を見る事よりも、過去と現在を選んだのであった。
特別な夜(914.6)
夜遊びをした事がない。
正確にはオールをした事がない。
学生時代、ちょっとした反抗期に、親の過干渉に嫌気がさして、わざと終電を逃してみた事がある。
友達が家に泊めてくれたのだが、ご実家だったし、兄弟のお布団だったし、ものすごく申し訳なくて。
事後も、お礼の電話やお菓子とか、色々気を使って、大変すぎて、二度とやらないと誓ったのであった。
結局、今となっても夜遊びの経験はなく、これとても決してオールの経験ではないが、教訓として、この日は特別な夜となったのだった。
海の底(オリジナル)
彼氏と水族館デートに来ていた。
ペンギンの解説を読み、一夫一婦制に、
「仲良しだね」
と笑いかけたら、
「ペンギンも人と同じで浮気するよ」
と言われ、
イワシの群れに、
「スイミーみたい」
と言ったら、
「食べられる魚は美味しそうとしか思えない」
と言われ、
水槽をくり抜いたような海遊回廊では、まるで水の中にいるような青くキラキラした風景に感動して、
「まるで海の底にいるみたい!」
と言ったら、
「水深によるけど、本当に海の底にいたら俺たち水圧でペシャンコだよ」
と言われ。
感性や感想が全く一致しなくて面白かった。
君に会いたくて(オリジナル)
久しぶりに大好きな人に会える用ができた。
会えるのはよろしくない事でもあるのだが、ちょっと嬉しい気持ちで電車に乗った。
最寄り駅から徒歩10分。
ドアベルを鳴らして入室する。
1時間ほど待って、名前を呼ばれた。
「今日はどうしました」
白衣を着た禿頭のお爺さんが、丸椅子をくるりと回して私に向き直った。
「指の皮が剥けて指紋がなくなってきちゃって」
私が指紋の消えた手を差し出すと、彼は顔をしかめ、
「こんなになるまで放っておかない!なんでもっと早く来なかったの」
と叱ってくれた。
これこれ!と、私は嬉しくなる。
これしきのことで医者にかかるのは忙しい先生に悪いと思ってしまう私を、いつもこの一言で安心させてくれる、大好きな皮膚科の先生。
皮膚に疾患がないと会えないし、名医なので薬がとても効く。すぐに治って通えなくなってしまうのだ。
今回、会うのは5年ぶりだったが、元気そうで安心した。
次はいつ会えるだろう。
相手は医者なので、会えない=健康怪我なし、に越したことはないのだけれど。
「ちゃんと聞いてる?!」
「はいっ!聞いてます!」
その後もずっと叱り口調で、症状や痛み痒み具合を心配してくれて、とても良かった。
私は満足して家路についた。
閉ざされた日記(オリジナル)
(もう、これしかない)
俺は目の前の日記帳に手を添えた。
一週間ほど前、交通事故に巻き込まれて頭を打った。大きな怪我はなかったが、記憶喪失になってしまった。
医者は一時的なものだろうと言う。
財布に入っていた免許証の顔写真が一致して名前と住所が判明したので、とりあえず退院し、自宅に帰ってきたのだが。
まだ何も思い出せずにいる。
病院に家族も来なかったし、仕事の同僚や上司が尋ねてくる事もなかったので、自分がどんな人間であったか、手掛かりが何もない。
マンションの部屋は物が少なく、嗜好がわかるような装飾品もなく、とても殺風景だった。
スマホは生体認証登録がなく、パスワードがかかっていて、それも忘れたため、本人なのに開けなかった。
家探ししたが、パスワードらしきメモも見つからず、現状お手上げ状態だった。
ショップに行けばまぁ、何かしら対応できる事もあるだろうけれど。
その家探し中に見つけたのが、この日記帳であった。
市販の日記帳で、物理的に鍵がかかっている。
鍵は見つからなかった。
鍵部分は金具であるが、ベルト部分が裁ち鋏で切れそうだった。
もしかしたらスマホのパスワードなり、記入があるかもしれない。
俺は革の部分をバツンと切った。
(ん?)
何かが頭の隅をよぎった気がしたが、明確な記憶として蘇ってくるものはなかった。
仕方なく、日記帳を開く。
パラパラとめくってみるが、日記帳か疑わしい記述ばかりが見つかった。
日付と地名と手書きの地図と。
パスワードのような数字の羅列もあるが、自分はなんて用心深かったのだろう、何のパスワードか説明が書いていない。
試しにスマホに入力してみるが、開かなかった。
まさか記憶喪失になるとは誰も思わないだろうし、仕方がないか。
俺は日記帳を閉じて伸びをした。
明日スマホのショップに行ってみよう。
そこに、ピンポーンとチャイムが鳴った。
何も考えずに扉を開けて、俺は心底後悔した。
「警察です」
記憶が一気に蘇った。
様々なものを隠してあるロッカーのパスワード!
そして、犯行日時と場所!
(紙に残すとか、俺、馬鹿じゃねぇか!?)
俺は連続殺人犯だった。