「本当にいいのか?」
「しつこいねー、いいって言ってるじゃん。それとも怖くなったん? だったらやめていいよ。私一人で行くから」
「んなワケあるか」
「じゃあホラ、行こうよ」
「·····」
「もー、行くんじゃないの?」
「·····ぅ」
「もしもーし、早くしてくれませんかぁ? 後がつかえてるんですけど」
「ほら行くよ。お願いします!」
『ワン、ツー、バンジー!!』
谷底へと消える絶叫。
この時男は、彼女との恋が終わったのだと悟った。
END
「君と飛び立つ」
あなたに教えて貰ったこと
あなたが見せてくれたもの
あなたが好きだったもの
みんなみんな、忘れないから。
そう言うと、病床の彼は呆れたように笑って鼻を鳴らした。
「やっぱり分かってない」
「なにが?」
「僕の気持ち」
「なんでよ。あなたの気持ちを一番理解してるつもりだよ?」
「·····忘れていいんだよ」
「え?」
「僕のことなんか忘れていいんだ。君を残して先に消える僕の為に、脳の容量を使う必要なんてない。これからは君の見たいものを見て、君の好きなものをたくさん詰め込んで、君という存在を確定するんだ。
なんて言ってた彼のことを、私はいまだに忘れられずにいる。
END
「きっと忘れない」
この世に生まれてきたことが辛いから。
もしそう答えてやったら、君はどんな顔をするのだろうね?
END
「なぜ泣くの? と聞かれたから」
俺さ、アンタの足音だけは分かるんだ。
男はそう言ってニコリと笑った。
足が長いからかな、他の奴よりゆったりしてて、ちょっと心臓の音に似てる。
何言ってんだと呆れると、だって本当なんだもん、と子供のような事を言う。
寝てる時にアンタの足音が聞こえてくると安心するんだ。あぁ、帰ってきた、って。
男の言葉になんと言って返せばいいのか。言葉が見つからない。
そんな風に思っていたなんて。
そんな風に、唯一無二のモノであるかのように思っていたなんて。
そしてそう思われていることが、嬉しいなんて――。
バカなこと言ってねえで帰るよ。
そう言うと、男は笑顔のままうん、と答えた。
男の足音が、自分の足音に重なった。
END
「足音」
SFもので時間がループする作品はいくつもあるけど、何となく夏のイメージがある。
エンドレスサマー、繰り返す八月×日。
きっと夏でなければならない理由があるのだろう。
終わらない冬だとあらゆる生命が眠りにつく白一色の世界。エンドレススプリング、だと春の陽気に誘われた浮かれたピンクの世界。繰り返す秋、だとなんだかどっちつかず。
極端に暑いのに何故か物悲しい。
それが夏が永遠に続く理由なのかもしれない。
END
「終わらない夏」