俺さ、アンタの足音だけは分かるんだ。
男はそう言ってニコリと笑った。
足が長いからかな、他の奴よりゆったりしてて、ちょっと心臓の音に似てる。
何言ってんだと呆れると、だって本当なんだもん、と子供のような事を言う。
寝てる時にアンタの足音が聞こえてくると安心するんだ。あぁ、帰ってきた、って。
男の言葉になんと言って返せばいいのか。言葉が見つからない。
そんな風に思っていたなんて。
そんな風に、唯一無二のモノであるかのように思っていたなんて。
そしてそう思われていることが、嬉しいなんて――。
バカなこと言ってねえで帰るよ。
そう言うと、男は笑顔のままうん、と答えた。
男の足音が、自分の足音に重なった。
END
「足音」
8/18/2025, 2:56:13 PM