すれ違い、通り過ぎ、気付いて振り向いた時、運命は動き出すのだろう。
彼にとっての運命は、たった一人だった。
多くのすれ違った人にとって運命だった彼も、たった一人の為に狂わされた一人だった。
叶わなかった思いは、満たされなかった未練は、澱のように降り積もる。
狂わせて、狂わされて、運命になれなかった喜劇と、運命になってしまった悲劇を見つめながら、思いの欠片は降り積もる。
暗い暗い湖は、こうして閉ざされてゆくのだろう。
それだけの、話。
END
「すれ違い」
やけに高い青空を見上げた。
飛行機が一機、西から東へ横切っていく。
白い線が大空のキャンバスに描かれる。
何故か涙がこぼれた。
END
「秋晴れ」
自分がされて嫌だったこと。
自分がしてしまった失敗や失言。
人を傷つけたと気付いてしまったこと。
恥をかいたと思い知らされたこと。
忘れたい、リセットしたい。
そう思っていたけれど、それが積み重なった結果が今の私なんだよな。
END
「忘れたくても忘れられない」
優しくてかっこいいその人は、どこにいっても人を惹き付けていました。
一緒に行った遊園地。
アトラクションに乗る為に並んでいる時も、フードコートで食事をしている時も、その人を取り巻くように人が集まり、中にはヒソヒソと囁きあいながらスマホを向ける姿さえありました。
プライバシーも何もあったものじゃありません。
それでも怒らないその人に、僕は意地を張るようにしてわざとつれない態度をとったのでした。
僕が実家を離れ、寮に入る前日。その人は久しぶりに遊園地に行こうと誘ってきました。
山間にある少し寂れた遊園地に着いたのは、夕方近くのことでした。
人の姿はまばらで、BGMも少しノイズ混じりです。
最新のテーマパークに比べてイルミネーションも抑え目なそこには、誰も乗っていないメリーゴーランドが寂しげに回転していました。
「一緒に乗ってくれるかい?」
振り向いてそう言ったその人の顔を、僕は一生忘れることはないでしょう。
やわらかな光を背に微笑むその人に、僕は今まで守られていた事を知ったのです。
父一人子一人。
それでも決して不幸では無かったのは、この人があらゆる悪意から僕を守ってくれていたからでした。
ゆっくりと回転する木馬に乗って、僕はこれからこの人のいない生活が始まることを思い知るのでした。
END
「やわらかな光」
普段はどちらかというと柔和で、甘いと言われる方だと思う。
ふわふわした金髪も相まって、整った美貌でニコリと微笑む姿は、万人を蕩けさせる甘い顔、と言っても過言ではないだろう。
でも、それだけじゃないことを私は知っている。
戦うべき相手をその目に捉えた時、彼の表情は一変する。研ぎ澄まされた刃のような、鋭い眼差し。
絶対に逃しはしないという苛烈な意志を感じさせるそれに、私はいつも内心で身震いする。
――あぁ、焔のように揺れるその眼光に、一片の欠片も残さず焼き尽くして欲しい。
END
「鋭い眼差し」