せつか

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優しくてかっこいいその人は、どこにいっても人を惹き付けていました。

一緒に行った遊園地。
アトラクションに乗る為に並んでいる時も、フードコートで食事をしている時も、その人を取り巻くように人が集まり、中にはヒソヒソと囁きあいながらスマホを向ける姿さえありました。
プライバシーも何もあったものじゃありません。
それでも怒らないその人に、僕は意地を張るようにしてわざとつれない態度をとったのでした。

僕が実家を離れ、寮に入る前日。その人は久しぶりに遊園地に行こうと誘ってきました。
山間にある少し寂れた遊園地に着いたのは、夕方近くのことでした。
人の姿はまばらで、BGMも少しノイズ混じりです。
最新のテーマパークに比べてイルミネーションも抑え目なそこには、誰も乗っていないメリーゴーランドが寂しげに回転していました。

「一緒に乗ってくれるかい?」
振り向いてそう言ったその人の顔を、僕は一生忘れることはないでしょう。
やわらかな光を背に微笑むその人に、僕は今まで守られていた事を知ったのです。
父一人子一人。
それでも決して不幸では無かったのは、この人があらゆる悪意から僕を守ってくれていたからでした。

ゆっくりと回転する木馬に乗って、僕はこれからこの人のいない生活が始まることを思い知るのでした。


END


「やわらかな光」

10/16/2024, 3:19:59 PM