せつか

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8/17/2024, 11:31:02 PM

とあるオカルト漫画を二回売って二回とも買い戻している。
売る時は「もういいか」と確かに思うのに、またふつふつとあの漫画のお約束の決め台詞やぶっ飛んだ考察が恋しくなって、古本屋に向かう。
そうして読み返すたび、一番初めに読んだ時の信じていた気持ちや、二度目に買い戻して改めて読んだ時の「すごい飛躍とこじつけwww」と一歩引いてエンタメとしてみるようになった感覚が蘇る。

今は登場人物の意外な可愛らしさに萌えている。

漫画の楽しみ方も変わっていくから、ずっと捨てずに残していきたい。

そう友人に言ったら「な、なんだってー!?」と叫ばれた。


END


「いつまでも捨てられないもの」

8/16/2024, 3:02:16 PM

オリンピックやノーベル賞、他にも国際的な映画賞などで日本人が評価されると「日本人として誇りに思う」という人がいる。
私はそれがよく分からない。
スポーツでも科学でも文学でも映画でも努力したのはその人で、才能があったのもその人だ。
チームというのもあるけれど、それだってそのチームメンバー一人一人の努力と才能によるものが評価されたわけで、画面や紙面のこちら側で見ている私じゃない。

凄いのはその人で、努力したのもその人で、才能があったのもその人だ。それをただ国籍が同じだから、という理由だけで誇りに思うのは、何か違う気がする。

誇りという言葉が、なんとなく私にはしっくりこないんだろうな。

END


「誇らしさ」

8/15/2024, 3:34:58 PM

月の光が波に反射している。
寄せては返す波に乗って、冷たい光がゆらゆらと揺れている。昼の喧騒が嘘のように静まり返った海は、波の音以外何の音も聞こえなかった。

『夜は行くな』
そう言われていたのに、ホテルの窓から見下ろした月と海の光景があまりに綺麗で、まるで誘われるように私は誰もいない浜辺へと足を向けたのだった。

肌を焼く陽の光も、耳障りな笑い声も無い海は静寂そのものだった。
砂を踏む感触すら新鮮に感じられ、歩くだけでも充実した気持ちになってくる。

『夜は行くな』
私にそう言ったのは誰だったか。
その人はきっとこの居心地の良さを他人に知られたくなかったのだろう。そんな事を思いながらふと、月を見ようと顔を上げた時だった。

「こんばんは」
月の光を受けながら、寄せ来る波に爪先を濡らして佇む人がいた。
柔らかな笑みを浮かべている。
珍しい色の目をした人だった。
「夜の海には行くなと言われなかった?」
その人は少し首を傾げて、静かな声でそう言った。
波の音だけの世界の中で、その声は私の耳に心地よく響いた。
「何か危険なことが?」
私の問いにその人は笑みを返すだけだった。

二人の距離が縮まっていく。
伸びてきた指先が、私の頬をそっと撫でる。
月の雫が触れたように、冷たい指だった。

END


「夜の海」

8/14/2024, 11:48:14 AM

「坂だよ!」
「知ってます!」
「·····、まっ·····!!」
「掴まってて下さい!」

二人で乗った自転車が、ぐんぐん速度を上げて坂を降りていく。緑の木々や街並みが後ろへと流れていくのを風を受けながら見送る。
「気持ちいいですね!」
「え!?」
「風が気持ちいいですね!」
「あぁ、うん!」
彼の両肩に手を乗せて、稲穂のような金髪が風を受けて波打つのを見下ろしている。
「このまま海まで行きましょうか!?」
「いいけど、重くないのかい!?」
「気になりませんよ!」
このまま道なりにまっすぐ行けば、やがて浜辺に辿り着く。籠に乗せたジュースがガチャガチャ音を立てる。流れ去る風の音。タイヤが坂を滑る音。合間に重なる互いの声。
「海に着いたら何をしましょうか!?」
「なんでもいいよ!」
「着くまでに考えておいてください!」
「分かった!」

着いた途端、私達は自転車を砂浜に倒してそのまま寝転がるだろう。そうして荒い息を吐きながら、どちらともなく笑い合う。
そんな光景が頭に浮かんで、私は彼の両肩を掴む手に思わず力を込めた。

END


「自転車に乗って」

8/13/2024, 2:59:22 PM

近未来を舞台にした物語で、ストレスが数値で表される機械や、ストレス値が危険な値を示したら仕事を休んだり隔離されたりする社会システムが当たり前になっているものがある。
そういう作品に触れるにつれ、その社会システムが出来るまでの過程を教えて欲しいと思う。
現代の技術でもストレスを数値化することはある程度出来るのだろう。問題は、その数値が危険水域に達した時にほとんどの人が休める状況に無いということだ。
辛くなったら休める社会、なんて夢のまた夢。だから心を病んで鬱になったりする。

百年後か、千年後か。
過労死とか鬱とか、そういう言葉が死語になる日は来るのだろうか。


END


「心の健康」

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