勝手に関係あるとか繋がってるとか言われても困る。
私と隣の子がどれだけ離れていると思ってるんだ。
あなた達だってそうでしょう。山を一つ越えた家を「お隣さん」とは言わないでしょう。
私達は山一つどころじゃないんだけれど。
そもそも隣のあの子とは、互いに姿は見えていても近付けないし、あの子が本当はどんな姿かなんて知りようもない。
でも私達は「星座」という一括りの仲間にされてる。
あなた達の目に、一つの生き物として、一つの物語の構成要素として見えているのだろう。
それはとても不思議な感覚。
触れ合えないほど遠くにあるのに、あなた達の歴史より遥かに長い時の隔たりがあるのに、あの子と私は一つのものを形作っている。
困るというのは迷惑だという意味じゃなくて、どう反応したらいいか分からないから。
あなた達が私達を見上げるたび、物語を見出して、喜んだり悲しんだり。
それがなんだか、面映ゆい。
私はあなた達を見下ろしながら、一瞬の生を懸命に生きる弱くて脆いあなた達に、永遠を見る。
END
「星空」
1000年後の地球に人類はまだいるのだろうか?
そもそも地球はまだあるのだろうか?
1000年後も世界がまだ続いているとして、人類がまだ生きているとして、それはどんな姿だろう?
地球はどんな星になっているのだろう?
それこそ神様だけが知っている、人類全体の命運なんだろうと思う。
人類が滅びる神話はあちこちにあるけれど、そのあと世界がどうなってるかの描写はあまり無いもんな。
神様、そろそろ教えてくれませんかー?
END
「神様だけが知っている」
まっすぐ進めば右手に美容院。その向かいに小さなお地蔵様があって、一本角を曲がれば古い駄菓子屋がある。その道をまっすぐ歩いてしばらくすると二階建てのアパートがあって、その二階の角っこにある部屋が友達の家だった。
たしか、夏休み直前のことだったと思う。
その友達に会いに行った。
いつもの道、いつものお地蔵様。駄菓子屋はもう何年も行ってない。そこを素通りしてしばらくするとアパートが見えてきた。何の変哲もない、いつもの道。
アパートの階段を上がれば、友達が待っている。
今日は何をして遊ぼうか。着せ替え人形はもう飽きた。図書館であの子が借りた本はなんだっけ。
いつもの道。この階段を上がった先の、塗装が剥げたドア。
「·····あれ?」
鍵が閉まっていた。
表札を見る。名前が無い。
「〇〇ちゃーん」
ノックしても返事は無い。ノブを回してもドアは開かず、ちらりと見上げた小窓は何年も開いてないようだった。
ゾッとした。
飛び降りるように階段を駆け下りて、家に帰る。
「〇〇ちゃんがいなくなっちゃった!」
泣きそうな声で告げる。
「――誰?」
母のその言葉に、更にゾッとした。
それ以上何か聞いたらいけない気がして、私は部屋にこもると借りてきた本を読み出した。何が書かれていたのか、さっぱり覚えていない。
◆◆◆
あれから二十二年。
あの出来事は何だったのか、時々思い出す。
いつもの道、いつもの景色。
なのに友達の姿だけが初めからいなかったかのように消えていた。
あの道はまだある。美容院も、お地蔵様も。
駄菓子屋はもう潰れてしまったけれど、この道を進めばあのアパートがある。
けれどあれ以来、私はあの角を曲がることが出来ずにいる。
END
「この道の先に」
子供の頃は、日焼け対策なんて考えた事もなかった。
真っ黒に焼けた友達の、その薄い皮膚をぺりぺり捲るのが楽しかった。
でも今は、真夏の太陽には殺意さえ感じる。
何の対策も無しに日差しを浴びると、頭も、腕も、炙られているような、刺されているような痛みを感じる。
あー·····冬が恋しい。
END
「日差し」
カンカンと鳴るアパートの古い階段を昇る。仕事に疲れ、帰ってからはぼんやりテレビを見ながらコンビニで買った夕飯を一人食べる。
遅いシャワーを浴びて、その後は夕飯と一緒に買った缶チューハイを飲みながら、窓に寄りかかって外を見る。天気が良ければ狭いベランダに出るのだけれど、今日は雨だから無理だった。
滲む窓ガラスの向こうに建設が始まったタワーマンションが見える。
販売価格が何億で、即完売とかニュースでやってた。
点滅する光は一番高い部分の鉄骨を時々浮かび上がらせる。ビルはまだまだ高くなるそうだ。多分、この街で一番高い建物になるのだろう。
「·····」
あのマンションに住むのはどんな人なのだろう。
私なんかよりずっと頭が良くて、ずっと仕事が出来て、ずっと要領がいいのだ、多分。そんな考えが浮かぶ。そして多分、ずっと綺麗で、ずっと若くて、ずっと明るくて、ずっと前向きで、人生が急に暗転する事なんて、想像すらしていない人達だ。
窓に打ち付ける雨が激しくなってきた。
このまま嵐になるのだろうか。
缶チューハイはあっという間に無くなった。
空になった缶を床に転がして、私もそのままひっくり返る。
「·····あはっ」
シミだらけの汚れた天井に、なんだか酷く安心した。
END
「窓越しに見えるのは」