せつか

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6/30/2024, 3:11:40 PM

小指から伸びる赤い糸。
運命の人に繋がっているらしい。
その糸がどれだけ長いのか、どれだけ手繰ればいいのかは誰にも分からない。
もしかしたら、その糸の先に誰もいないかもしれない。でも·····誰もいないのは、多分平気だ。
一人でいるのをあまり寂しいと思った事は無い。
〝おひとりさま〟ってやつを楽しめる性質なんだろう。

それより何より怖いのは、期待して、信じて、浮かれて、必死で手繰り寄せた〝運命〟に、裏切られた時。
そうなった時、どうなってしまうんだろう?

運命なんて、そうそう信じるもんじゃない。


END


「赤い糸」

6/29/2024, 4:11:31 PM

「ソフトクリーム!」
小さな指が空を指す。
「ん~、あれは綿菓子に見えるなぁ」
「外の植木に積もった雪」
「ソフトクリームだもん!」
二人の間で飛び跳ねる小さな体。
「ソフトクリームにも見えてきた」
「ほんとだ」
二人の手が同時に上がり、小さな体がふわりと浮く。
「ソフトクリーム食べたい!」
「じゃあ買って帰ろっか」
「僕はアイスコーヒーにする」
浜辺を歩く三人の声が、雑踏の中に消えていく。

後に残った入道雲が、帰路につく彼等を見守るようにむくむくとまた大きくなった。


END


「入道雲」

6/28/2024, 3:13:13 PM

夏は嫌い。
半袖にならなければいけない夏が、みんなと一緒に水着に着替えなければならないプールの授業のある夏が、大嫌いだった。

半袖になることに抵抗が無くなったのは、自分で子供の残酷さに対処する術を得てからだ。
それでも子供の頃の夏の記憶のせいで、極度に「人からどう見られるか」が気になる大人になった。
うっかり服にジュースでも零そうものなら、その日一日憂鬱になった。そこばかり気にして、通りすがりの人がそれを目にして笑うのでは、とか、そんなことばかり気になった。

夏は嫌い。
でもそんな昔のことをいつまでも引きずってる自分 は、もっと嫌い。


END

「夏」

6/27/2024, 2:50:58 PM

ここではないどこかへ行っても、いつか帰ってくるでしょう。
慣れ親しんだ部屋のベッド。あるべきところにあるべきものがある安心感。いつでも好きなように取捨選択出来る万能感。それらは決して手放せないものだから。
どんなに煌びやかな街よりも、どれだけ広々とした部屋よりも、雑然として少し使い古した、自分のものがある空間の方がどれだけ尊いか、あなたは知っているはずだから。

だからいくらでも旅をして、遊んで、そしてかえっていらっしゃい。


END



「ここではないどこか」

6/26/2024, 2:50:26 PM

いつだったかな。
コロナが広まる前だった気がする。
年に一回、東京に遊びに行った帰り、駅の地下にあるレストラン街のどこかの店。

苺がこれでもかってくらい載ったのとか、
メロンとかマンゴーとか葡萄とか、季節のフルーツが載ったのとか、
チョコレートとバナナと生クリームが載ったのとか。
帰りの新幹線に乗る前、名残を惜しむようにその店で一人でゆっくりパフェを食べるのが好きだった。

コロナが蔓延する前だから、もう五年以上前になる。
あの店はまだあるのだろうか。
山盛り苺のパフェ。
また君に会いたい。


END



「君と最後に会った日」

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