せつか

Open App

カンカンと鳴るアパートの古い階段を昇る。仕事に疲れ、帰ってからはぼんやりテレビを見ながらコンビニで買った夕飯を一人食べる。
遅いシャワーを浴びて、その後は夕飯と一緒に買った缶チューハイを飲みながら、窓に寄りかかって外を見る。天気が良ければ狭いベランダに出るのだけれど、今日は雨だから無理だった。

滲む窓ガラスの向こうに建設が始まったタワーマンションが見える。
販売価格が何億で、即完売とかニュースでやってた。
点滅する光は一番高い部分の鉄骨を時々浮かび上がらせる。ビルはまだまだ高くなるそうだ。多分、この街で一番高い建物になるのだろう。
「·····」
あのマンションに住むのはどんな人なのだろう。
私なんかよりずっと頭が良くて、ずっと仕事が出来て、ずっと要領がいいのだ、多分。そんな考えが浮かぶ。そして多分、ずっと綺麗で、ずっと若くて、ずっと明るくて、ずっと前向きで、人生が急に暗転する事なんて、想像すらしていない人達だ。

窓に打ち付ける雨が激しくなってきた。
このまま嵐になるのだろうか。
缶チューハイはあっという間に無くなった。

空になった缶を床に転がして、私もそのままひっくり返る。
「·····あはっ」
シミだらけの汚れた天井に、なんだか酷く安心した。

END


「窓越しに見えるのは」

7/1/2024, 3:00:41 PM