まっすぐ進めば右手に美容院。その向かいに小さなお地蔵様があって、一本角を曲がれば古い駄菓子屋がある。その道をまっすぐ歩いてしばらくすると二階建てのアパートがあって、その二階の角っこにある部屋が友達の家だった。
たしか、夏休み直前のことだったと思う。
その友達に会いに行った。
いつもの道、いつものお地蔵様。駄菓子屋はもう何年も行ってない。そこを素通りしてしばらくするとアパートが見えてきた。何の変哲もない、いつもの道。
アパートの階段を上がれば、友達が待っている。
今日は何をして遊ぼうか。着せ替え人形はもう飽きた。図書館であの子が借りた本はなんだっけ。
いつもの道。この階段を上がった先の、塗装が剥げたドア。
「·····あれ?」
鍵が閉まっていた。
表札を見る。名前が無い。
「〇〇ちゃーん」
ノックしても返事は無い。ノブを回してもドアは開かず、ちらりと見上げた小窓は何年も開いてないようだった。
ゾッとした。
飛び降りるように階段を駆け下りて、家に帰る。
「〇〇ちゃんがいなくなっちゃった!」
泣きそうな声で告げる。
「――誰?」
母のその言葉に、更にゾッとした。
それ以上何か聞いたらいけない気がして、私は部屋にこもると借りてきた本を読み出した。何が書かれていたのか、さっぱり覚えていない。
◆◆◆
あれから二十二年。
あの出来事は何だったのか、時々思い出す。
いつもの道、いつもの景色。
なのに友達の姿だけが初めからいなかったかのように消えていた。
あの道はまだある。美容院も、お地蔵様も。
駄菓子屋はもう潰れてしまったけれど、この道を進めばあのアパートがある。
けれどあれ以来、私はあの角を曲がることが出来ずにいる。
END
「この道の先に」
7/3/2024, 2:36:39 PM