せつか

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4/14/2024, 2:10:45 PM

あなたを熱心に信じている人達ほど苦しんでいるような気がするのは、私だけでしょうか?


「神様へ」

4/13/2024, 11:41:17 PM

雲ひとつない空に、白い直線が描かれる。

誰もいない川べりに座り見上げていると、校庭のグラウンドに石灰で白線を描いていた小学生の頃を思い出した。あれはラインパウダーと言うらしい。今は石灰ではない別のものを使っていると、何かで読んだ。
あの頃は夢を信じ、頑張ればいつかは報われるという教師の言葉を疑いもなく信じていた。
社会に出て、努力だけではどうにもならない事があることを思い知らされた。

飛行機がもう一機、空を横切る。
真っ青な空が白い線で切り分けられていく。
「·····」
小さく切り分けられた空は、そのまま剥がれ落ちてしまうのではないかと変な想像をしてしまう。
剥がれ落ち、めくれた空の向こうには真っ黒な夜が口を開けていて、いつかそこから〝よくないもの〟が溢れ出してくる気がする。

誰もいない川べりで立ち上がる。
ゆっくりと川面に近づいていく。
空を見ながら、一歩ずつ。

小さく切り裂かれた空は、幼かった頃の私だ。

夢も、努力も、塗り潰された私には、この青が眩しくて目に痛い。
もっと飛行機が飛べばいい。もっと空を切り裂いて、割れたガラスのように粉々に飛び散らせればいい。
そして溢れ出した〝よくないもの〟に、全て飲み込まれてしまえ。


END


「快晴」

4/12/2024, 3:00:30 PM

踵を上げて、背筋を伸ばして、右手をまっすぐ空へと伸ばす。
指の隙間から太陽の光が見えて、眩しそうに目を細めた。
「·····」
白い手袋で隠されているが、醜い手だ。
人を傷付けてきた手。自らを貶めた手。

この空のもっと遠く、大気を超え、宇宙の果てへと向けて手を伸ばす。
星の海を渡り、旅を続ける君へと向けて。
あの出会いは奇跡だったと、今ならわかる。
醜い手に、醜い顔に優しく触れてくれた君。
私が持つたった一つの美しいものに気付いてくれた君。その君が、今はこんなに遠い。

「いつか君へと届くよう、私は歌い続けよう」
届く筈もない言葉を、私は紡ぐ。
遠くの空へ、その遥か彼方の宙へと向けて。

君の旅が、いつか安らかな終わりを迎えられるように。

END

「遠くの空へ」

4/11/2024, 3:25:21 PM

『言葉にできない』

この言葉を見た瞬間、有名シンガーソングライターのあの歌と、何枚もの写真が現れては消えていくあの映像が頭に浮かんで、刷り込まれてるなと思ったのは私だけではないと思う。

END



「言葉にできない」

4/10/2024, 2:38:12 PM

桜が咲いている。
菜の花も、チューリップも、たんぽぽも、スミレも。
色彩が増え、気温も上がり、街が一気に華やかになる。それは勿論、街に住む人々も例外ではない。

「·····」
大通りを一本曲がって狭い路地に入る。
散乱したゴミの山に埋もれて、一人の男が蹲っている。蹲ったまま、華やいだ大通りに鋭く険しい視線を向けている。
コツ、コツ。堅い靴音が響く。
ゴミの散らばる路地に不釣り合いな、磨かれた革靴の先が自分の前でピタリと止まり、男は目を見開く。
「大丈夫ですか?」
響く低音。
視線を上げれば、スーツを着た一人の男がしゃがみ込んで自分を見つめていた。仕立てのいいスーツがしわくちゃだ。
「·····」
「ほどこしとか、そういうつもりじゃないんです」
差し出された手には、名前の知らない小さな花が一輪と、フィルムに包まれたマフィンが一つ。
「せっかくの春なので」
「·····」
思わず手を出してしまった自分に、男自身が驚いていた。
「美味しいですよ、それ」
男が立ち上がるのを目で追う。背が高い。すらりとした、綺麗な立ち姿だった。
春を体現したような男に、なぜか毒気を抜かれた気がする。

去っていく男の背越しに、大きな月が輝いていた。

END

「春爛漫」

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