せつか

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踵を上げて、背筋を伸ばして、右手をまっすぐ空へと伸ばす。
指の隙間から太陽の光が見えて、眩しそうに目を細めた。
「·····」
白い手袋で隠されているが、醜い手だ。
人を傷付けてきた手。自らを貶めた手。

この空のもっと遠く、大気を超え、宇宙の果てへと向けて手を伸ばす。
星の海を渡り、旅を続ける君へと向けて。
あの出会いは奇跡だったと、今ならわかる。
醜い手に、醜い顔に優しく触れてくれた君。
私が持つたった一つの美しいものに気付いてくれた君。その君が、今はこんなに遠い。

「いつか君へと届くよう、私は歌い続けよう」
届く筈もない言葉を、私は紡ぐ。
遠くの空へ、その遥か彼方の宙へと向けて。

君の旅が、いつか安らかな終わりを迎えられるように。

END

「遠くの空へ」

4/12/2024, 3:00:30 PM