花の芽吹きと微睡みを促すあたたかさ。
大地を枯らし焼き尽くす苛烈さ。
どちらも太陽の真実だ。
私はそのどちらも、好きで好きで、たまらなかったんだ。
穏やかに微笑む彼のあたたかさに見惚れた。
怒りと憎悪に燃える瞳に息を飲んだ。
どちらも彼の真実で、彼の感情が自分に向けられていることに、私は昂揚したんだ。
イカロスの物語を知っているかい?
イカロスはそうとは知らずに太陽に近付き過ぎて堕ちてしまったが、私は·····知っていたんだ。
太陽に近付き過ぎるとどうなるか。
あの熱を間近で感じるとどうなってしまうのか。
それでも·····彼の近くにいたいと思ってしまった。
私は傲慢で、強欲だった。
自分は彼も、彼女も、あの方も、失わずに済むと思い込んでいたんだ。
うん。今になって気付いたんだよ。だから――。
「もう、会わないんだ。そう言って、あの人は湖に帰っていきました」
少女の小さな呟きは、誰に聞かれるともなく白い床にぽつんと落ちて、やがて消えていった。
END
「太陽のような」
何度でもやり直せるよ。
だって私達、何度もそうやってきたんだもん。
貴方が記憶を失くして、私の事を忘れたって、何度だって私は貴方と上手くやってこれたよ。
兄妹でも、友達でも、恋人でも、関係性の名前なんて何でも良かったんだよ。
ただ貴方がそばにいて、一緒に笑ったり怒ったり、泣いたり出来たらそれで良かった。
0からどころか、マイナスからだって私達はやり直せる。
ううん、やり直すんじゃない。
また新しく始めるんだ。
貴方と私の関係を。
だから、ねえ·····。
早く、目を覚ましてね。
END
「0からの」
「同情も憐れみも結構だ」
「そんなつもりは無いんだけどな」
「気付いてないなら余計にタチが悪い」
「何かで苦しんでいる人がいて、自分がその苦しみを軽くする方法を知っていたら伝えたい、と思うのは傲慢なのかな」
「誰もそんなこと頼んでいない」
「·····君こそ気付いていないなら、余計にタチが悪いな」
「何がだ」
「同情も憐れみもいらない、と言うのなら·····」
冷たい手が頬に触れる。――いや、私の顔が熱くなっているのか。
「どうしてそんな、捨てられた子犬みたいな目をしているんだい?」
その甘ったるくて低い声を聞いた途端、頭の奥に焼けるような熱を感じた。
END
「同情」
歩くたび、サクサクと乾いた音がした。
足裏から伝わる感触もやわらかい。歩道を埋める茶色の葉はまるで絨毯だ。
視線を少し上向ければ、葉がすっかり落ちて黒い針のようになった枝が空へと伸びている。
今は青空に映える枝が、じきに白い雪を乗せて頭を垂れるようになるだろう。
枯葉を踏みしめながら並んで歩く。
言葉は無く、落ち葉を踏む音が二人の耳にやけに大きく響く。
平日の公園は歩く者もまばらで、数えるほどしかいない。ふと、悪戯心が湧いて男は歩道の柵をまたぐとでこぼことした根が張る木立の中へと歩き出した。
追いかけてくる気配に胸の内で微笑む。
歩道を外れると途端に歩きにくくなる。
落ちている枯葉も小さくやわらかなものから、大きな湿ったものに変わっていた。
木の種類が変わっているのだ。構わず奥へと歩き続けると、重なりあった落ち葉と盛り上がった土に足を取られた。滑って転びそうになるのを、すんでのところで止められる。
強い腕に、引き寄せられた。
「子供みたいな事をする」
咎めるような声に、思わず笑みが浮かぶのを抑えられなかった。
END
「枯葉」
今日にさよなら 明日によろしく
明日はほんとに来るのかな
当たり前に来ると信じてベッドに向かう
今日食べたハンバーガーの味
季節外れの高い気温
明日は感じることすら出来ないかもしれない
だから今日一日にありがとう
END
「今日にさよなら」