澄んだ瞳
他の奴らのことなんて信じられず、嘲笑った俺を、涙を溜めた澄んだ瞳が射抜いた。
裏切られることなど、つゆほども信じず、信頼する君。
「寂しい人だね」
雨の中、ずぶ濡れの俺と傘を差す君が向かい合う。
「お前は簡単に人を信じるんだな」
少し間を空けて、答える。
「私が信じたかったから信じただけ。その人が信じるかはその人次第。裏切られたらそれまで。裏切る理由は私がその人にとって信じられる人じゃなかったから」
淡々と告げられるその言葉は、君の澄んだ瞳のように、スッと俺の心に染み込んだ。
「・・・お前は俺を信じているのか?」
また少し間を空けて、答える。
「うん。他の人に近寄られるのが怖くて、いつも一人でいるの。でもね、本当は優しくて、一人でいたくなんかないの。他の人を信じたいけど、信じきれなくて・・・。
そういう不器用な人だって信じてる」
照れたように、はにかんで、
「寂しい人だね」
ともう一度言った。
ーあぁ、俺の人生で初めて信じたい人に出会えた。
気づけば、雨は止んでいて、遠くに虹がかかっていた。
嵐が来ようとも
大粒の雨が窓を打つ、テレビの音も聞こえないくらい激しい。見ていられなくて、テレビを消した。
ーピカッ ゴロゴロゴロ・・・
雷まで鳴り始める。これは嵐になりそうだ。
部屋の隅を見ると、雷に怯えたのか、デカイ図体のはずの君が縮こまっていた。
「クゥーン・・・」
滅多に出さない弱い声。隠れて見えなくなった尻尾。
少しでも安心できるように、カーテンを閉めてやる。
それから、君を抱きしめて、言ってやる。
「大丈夫だよ。嵐が来ようとも俺が守ってやるから」
とある嵐の日の、飼い主と犬の話。
お祭り
久しぶりに、夏祭りが開かれる。こんなご時世だから大規模なイベントはなかなかできず、できても小規模なものだった。
「今年の夏祭りはみんな来れるかな」
離れてしまった友達とも、毎年の夏祭りで会えていたのだが、みんな揃っての参加はできなくなっていた。
久しぶりのお祭り。久しぶりに会う友達。
「今年の夏祭りが、楽しいものになるといい」
チラシを見ながら、つぶやいた。
神様が舞い降りてきて、こう言った。
学校に向かう途中の僕の目の前を、白い羽毛が舞い落ちる。1枚だけじゃなく、何枚も。
不思議に思って、上を見ると、小さな天使を連れた神様がいた。電線に乗り、僕を見下ろす女の子の神様が。
足が止まってしまった僕の前に、ふうわりと舞い降りてきて、神様は言った。
「貴方の余命は、今夜0時までです」
呆気に取られていると、お付きの天使が事情を説明していく。それによると、
・僕の寿命は今夜0時までと決められていたこと
・突然の死に僕が驚き、あの世に来なさそうということ
・僕が死ぬまで神様が付き添い、あの世まで送ること
ということだった。
「貴方の余命は今日までなので、学校に行かなくてもいいんですよ?貴方は死ぬ前に何をしたいのですか?」
「神様とデートしたいです!!」
即答した僕に天使がポカンとしている。神様も表情は変えないが、頭上に?を浮かべる。
「あの、僕今まで、デートをしたことがなくて、死ぬ前にやってみたくて、えっと神様かわいいし、僕もデートするならあなたがよくって・・・」
ーぷっ
説明の途中で神様が笑いだした。
「貴方って面白い人ですね!」
その後、神様は天使とヒソヒソ話をすると消えてしまった。僕の隣に小さな天使を残して。実はと前置きしてから天使が説明していく。
・今までのことはすべて嘘だったこと
・神様だと思っていた子は、もうすぐ僕の側にくる子だ
ということ
・今彼女は本物の神様に、許可をもらいにいったこと
「まぁ数日待っていてください」
と言い残し、天使も消えた。遠くから聞こえるチャイムの音。僕は現実に帰り、学校へと急ぐ。
数日後、部活を終えて帰る僕の前に、見覚えのある女の子の姿が見えた。
足が止まってしまった僕の前に、ぴょんとやってきて、
彼女は言った。
「貴方が面白い人なので、側に来ちゃいました!貴方の余命は私が死ぬまでです」
今は神様でもなんでもない彼女に、もう一度申し込む。
「僕の命ある限り、僕とデートしてくれませんか?」
「はい!この前のはすっぽかしてしまったので、その分楽しみましょう!」
僕の差し出した手に彼女の手が重なる。
白い羽毛が1枚、風に吹かれて目の前を横切った。
誰かのためになるならば
ときどき、本当に死ぬべきなのはわたしなんじゃないかって思う事がある。
わたしは何もない、できない、役立たずだと。
ーそれでも、最後に何かしたいんだ。
こんなわたしでも、誰かに何かできたんだと。
最後に思う事ができたなら。
・・・最後、最後と言っているけど、まだできる事があると思って、本当の最後になっていないんだけど。
誰かのためになるならば、わたしはほんの小さな事でもしようとするんだろう。
命と交換してでもしようとするんだろう。
それが、救いようのないわたしの、生き方だから。